スクランブルフォーエバー

「後はぶつかって階段から落ちる、ぐらいか?」

「定番ね」


 その定番を何故最初にやらないかという話なのだが。まあ危ないしな。やらないに越したことはない。


「肘と膝のサポーターは用意していますよ」


 ……準備がいい。形は悪いけどヘルメットもあるし。双子はよくわからないジェスチャーをしているが、嫌がっている風には見えない。いきなり頭突きをし合うやつらだからな。


「それじゃあ行くか、と言いたいところだがどこの階段でするかって問題があるか」


 あんまり急なところは止めておいた方がいいだろう。段数の多いところも。


「神社がいいと思うわ」

「神社かあ……」


 何かと神社だな。別にいいんだけど。


「さすがに歩いては行けないよな」


 近場にはないはずだ。でも箒だと双子をどうすんだってなるし。バスか?


「っておい、何を出してんだ乃真路」

「箒だけれど?」

「いやいや……」


 こんな人目のあるところで出さない方がいいだろうに。まあ見られたからといって普通の人ならスルーするかもしれないけどさ。ここに普通じゃないやつらがいるんだよな……。


 二人を見ると、案の定ガン見してるし……。


「おお! まじ姉いい物持ってるね!」

「空間拡張されたポシェット?」


 ……ん? 何だって?


「空間拡張……?」

「兄ちゃん知らないの?」

「銀河で超人気の一品だよ?」


 ……銀河?


「でも超お高いんだよねー」

「まじ姉お金持ちなんだねー」

「これは魔法がかけられたポシェットよ」

「ほほう、魔法とな?」

「まじ姉は魔法少女だったんだね!」

「魔女と呼んで欲しいわね」

「いやいやいやいや、何を普通に会話してんだ」


 疑問に思わないとならないことがあるだろ。というか、こいつらの場合どこまでが本気なのか分からないのが問題だな……。


「……エルフ野さんの耳、どう思う?」

「長いね」

「超長いね。異星人?」


 エルフ野さんを見ると首をかしげている。


「お前ら、普通の人間でいいんだよな?」

「おっと、兄ちゃん那緒たちを甘く見てもらっちゃあ困るってもんよ」

「……」

「なんと! 那穂たちは宇宙人なのでした!」

「へえ……」


 ちょっとどういうリアクションしていいのか分からない。なんでやねん、って突っ込むとこか?


「おいおーい、兄ちゃん反応薄くない?」

「そう言われてもな……」


 宇宙人らしくもないし。まさしくただの人間にしか見えないわけで。


「エルフ野さんと乃真路は宇宙人ってどう思う?」

「私は見たことがありませんね」

「私もないわね」


 なるほど、限りなく怪しいと。エルフ野さんの耳が長いと認識する当たり、俺と同じく魔法に対する耐性みたいなのはあるんだろうな。


「何か宇宙人らしいアイテムはないのか?」

「うーん、ないなー」

「那緒たち地球生活長いからなー」


 もうあれだな、宇宙人かどうかなんてどうでもいいか。もしもエルフ野さんにも乃真路にも出会ってなかったらとことん追求したくなっていただろうが、こうも続くとそうなのかで済ましてもいいかと思ったり。人間変わるもんだ。


ともかく。


「えっと、エルフ野さんは耳が長いとかそういうことを言わずに他の人と同じように扱って欲しい、だっけ?」

「ええ、そうですね」

「それと乃真路、からはそういえば何も言われてないな」

「私も魔女だと大っぴらに言わないでもらえればそれでいいわ」

『了解!』


 いい返事だ。返事だけで終わりそうだけどな。


 エルフ野さんも乃真路も別にばれたっていいや、ぐらいの感じなんだよな。ばれても魔法でどうにかなるからとか?


「それじゃあ、次は神社だな」


 乃真路はポシェットから箒とマントを出して飛ぶ気満々だ。


「あのな、ばれたくないならこんなとこで取り出すなよ」

「それもそうね」


 そして、いつものごとく路地裏へ。マントを渡されたのでそれを着る。


「おお! 兄ちゃんの気配が薄くなった!」

「兄ちゃんも魔法少女だったのか!」

「違うから」


 せめて魔法少年にしてくれ。


 二人もマントを着て満足そうにはしゃいでる。そういうの好きそうだもんな。俺もだが。


「ほほう、この箒で飛ぶわけだね?」

「二人もそんなことできるのか?」

「むーりー」

「じゃあ、三人乗り?」


 箒の人数制限なんてのは知らんが、さすがに重過ぎる?


「では私の後ろですね」


 いけるのか。


「ほっほー、座ればいいんだね」

「よっしゃー! 準備完了!」


 俺も準備完了。いつもいつも抱きつくのは気恥ずかしいが、命には代えられない。だ、抱きつきたくてしてるんじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!


 そして、テイクオフ。


「うっひょーう!」

「ひゅー!」

「……」


 初めてであんだけ騒げるとは、やはりやつらは宇宙人だったのか。いや、片手で箒の柄につかまって宙吊りになってんじゃん。馬鹿なの? エルフ野さんちょっとバランス崩しちゃってるし。命知らずかよ。






「ふう……」


 また寿命が縮まった気がする……。


「いやー、最高だったね!」

「さいこーう!」


 このバイタリティは見習うべきなのかどうか。見習えるものじゃないか。


「お! 猫ちゃんだ!」

「にゃー!」

「ご主人を待ってたのか?」

「にゃあ」


 先回りするとは使い魔してるな。


「ご主人って?」

「私の使い魔なのよ」

「なるほど、魔法少女につきもののマスカットだね」

「マスコット、な」

「魔女、ね」

「まじ姉、魔法少女の方が格好いいよ?」


 高校生だとその呼び名はちょっときつくなってくる気はするな。


「さて、準備するか」


 人気はないから邪魔にはならなそうだ。入り口の階段も十段ないぐらいで丁度いい。下手に落ちても大きな怪我にはならないだろう。


「でも一番下にクッションかなんかはあった方がよさそうだな」

「ご安心ください。これがあります」


 エルフ野さんが取り出したのは大きいぺらぺらの何か。


「何だこれ」

「空気を入れるとクッションになるらしいです」

「ああ、エアークッションとか言うやつか」


 ていうか、エルフ野さんどんだけ持ってきてんだか。鞄に勉強道具の入る隙間がないだろうに。


「空気入れまであるし」

「憂瀬さん、お願いします」


 やるか。こういう空気入れも懐かしいな。


「またこれをかぶればいいんだね」

「このサポーターもお付けください」

「フルアーマー那緒ちゃん参上!」


 間抜けな姿だなあ……。特にヘルメットが。


「私もおまじないを描いておこうかしら」


 おまじない?


 乃真路はポシェットから何かを取り出し、階段の最上部の真ん中に座り込んだ。あれはチョークだな。白い円が描かれてその中にも模様が描かれる。魔法陣か。


「こんなものかしら」

「どうなるんだ、それ?」

「入れ替わる、かもしれないわね」


 マジかよ。


「俺の方もこんなもんかな」


 おお、結構いい感じだな。ちゃんとクッションしてる。


「よーし、準備はいいかね諸君!」

「いいかね!」

「後はお前ら次第だな」

「行くぜー那緒!」

「おうよ!」


 二人は階段を駆け上がって向かい合った、と思ったら反対を向いて走っていく。茂みに入ってどっかいったし。


 もしかしなくても助走をつけに行ったのか……。どんだけ派手にぶつかる気なんだか。


 しばらくするとガサッ、と音がして茂みから同じタイミングで二人が出てきた。そして、ヘルメット同士がぶつかり甲高い音を立てた。


 勢いよく抱き合った二人の足元には乃真路が描いた魔法陣。二人はそこでくるりと数度回転すると、小さく煙が上がった。


 そのまま二人は体勢を崩して階段を転がり落ちた。


「……死んだか」

「生きてるわー!」


 エアークッションで沈黙していた二人が飛び跳ねるように起き上がった。ぴんぴんしてるな。怪我はないらしい。


「む?」

「およよ?」

『戻った?』


 お? 二人の様子が……。


「那穂ちゃんが無事元の身体に帰還いたしました!」

「那緒も那緒もー!」


 そう言われても傍から見てると正直どうなったのかなんて分からないんだが。


「まあ元に戻ったのなら良かったか」

「そうですね」


 満足してもらえたということで。


「さっきの魔法陣に入れば誰でも入れ替わっちゃうのか?」

「うまくいって入れ替わったとしても数秒程度のもののはずだったのよね。相性もあるのかしら」


 もしかして実験でもしてたとか? それでもすごいよな……。魔法恐るべし。


「もう一つ用意してたのだけれど、無駄になったわね」


 そう言った乃真路の手のひらには赤と白の玉が乗っていた。


「飴玉か?」

「これを舐めている間だけお互いが入れ替わる飴玉ね」


 なるほど。夜な夜な壺をかき混ぜて出来たのがこの飴玉ってわけか。


「もらったー!」

「むごっ!」


 双子の片割れがそれを手にとって、俺の口へと放り込んだ。


「お、お前何して……」


 そして、もう一つの飴玉を自らの口へと入れた。


「っ!」


 気持ちの悪い感覚が身体を包む。自分の身体は動かないのに誰かに引っ張られているような、そんな感覚。


 視界がぐにゃりと歪んだ。


「……」


 少しふらつく。妙な感覚はなくなった。しかし……。


「あれ……何で俺が……?」


 前を向くとそこには俺が立っていた。何を言ってるのか分からねえと思うが、俺にも分からない。


 もしかしてと自分の身体を見るとスカートを穿いていた。


「これは……」

「おおー! 俺が兄ちゃんだ!」

「……」


 マジか……。


「うおおお! 兄ちゃんの那緒よりでかいー!」

「お、おい! ズボンの中を覗くな!」


 何をしてんだ!


「って、那緒より……?」


 女の子って生えてましたっけ……? そういえば股間には馴染みのある感覚……。スカートをめくるとスパッツに包まれてもっこりとした部分が。


「あー! 兄ちゃんのエッチー!」

「いや、俺の身体でそういうこと叫ばないでもらえるか?」


 何だろうな……。素直に気持ち悪い。


「お前男だったのか……」

「そだよん」


 スカートから伸びる足には毛なんて生えてない。腕の産毛も綺麗なもんだ。


「こんな男が世の中にいたんだな……」

「うわー、兄ちゃんが那緒の身体を嘗め回すように見てるー!」

「変な言い方をするな」


 もう一人、那穂の方も男なのか?


「あ、那穂は女の子だよ? 入れ替わってみる?」

「結構だ。それより乃真路、これいつ元に戻るんだ?」

「飴玉を舐め終れば元に戻るはずよ」

「舐め終わったらって、これ飲み込んじゃってるんじゃないか?」


 俺の身体の方は完全に飲み込んだはずだ。この那緒の身体でも口の中にはなかった。


「それなら胃の中で溶ければとか?」

「……本当だろうな?」

「飲み込んだ時のことは考えてなかったわね」

「……」


 勘弁してくれ……。

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