妹系

「王手だ」

「……」


 折りたたみ式の将棋盤を広げて乃真路と対峙。エルフ野さんは将棋を知らなかったようで、勉強中だ。


 駒を指す時の音を気持ちよく鳴らしたいものだが、中々どうして難しい。将棋盤の材質も関係するんだろうな。安物なので仕方ない。


「……ないわね」


 将棋の腕は俺の方が上か。まあ定跡の一つも知らないんだけど。


 湯のみに入ったお茶を飲む。ふう、やはり日本人たるもの緑茶を嗜まないと。


「これぞ将棋部としてのあるべき姿か」

「いつ将棋部になったのかしら?」


 だって相談者来ないし。


「このまま力をつけて大会に出れば部としての名も売れるだろう。そうなればこっちのもんだ」

「将棋部として名前が売れても仕方ないのだけれど」


 その時、部室の扉が勢いよく開かれた。


「へーい! 邪魔するぜ!」

「御用だ御用だ!」

「……」


 いきなりの侵入者に言葉も出ない……。同級生、だよな……?


「双子、か?」


 顔がくりそつの二人組みだ。髪の長さが少し違うぐらいか?


「お、兄ちゃんするどい」

「兄ちゃんって何だよ……」

「妹系目指してるんだよねー」

「はあ、そうなのか……」


 ハイテンションに置いていかれて将棋部の頭から切り替わらない。えっと、相談者、でいいのかな?


「ELFの会に御用がある、ということでしょうか?」

「そうそう」

「それそれ」

「実はちょっと困っててさー」

「なんと!」

『私たち、入れ替わっちゃった!』

「ってやつ?」

「みたいな?」


「……ん?」






那緒なおの皮を被った宇満うみち那穂なほです!」

那穂なほの皮を被った宇満うみち那緒なおです!」


 パイプ椅子にお座りいただいたんだが、よくわからないことを言い出す。入れ替わるって、中身がってことか……?


「俺は憂瀬ういせ榎彩かさいだ」

「兄ちゃんだね」

「私はエルフ野ルルネシアです」

「ルル姉だね」

乃真路のまじ夜乃よのよ」

「まじ姉だね」


 俺だけ普通に兄ちゃんなのはここに男が一人だからか。そもそも妹系って何だよ。確かに二人の見た目だと年下にも見えるが……。


「入れ替わった、というのはそのままの意味なんでしょうか?」

「そうそう、入れ替わること自体はたまにあるんだけどさー、その状態がずっと続くのは初めてなんだよねー」


 たまにってのがまずおかしいことに気づこうか。冗談なのか本気で言ってるのかもわからんしな。そんなこと起こるはずはないんだけど、俺の常識はすっかり様変わりしてるわけで。あーあるある、とはいかないまでも、あるのか? と少し思うぐらいにはなっている。


 相談しに来るってことは穴が関係している可能性もあると。その影響でとか?


 どうなんだろうな、とエルフ野さんの方を見ると頷かれた。経験値が足りないので何の頷きなのかは分からない。


「その状態を正すということですね」

「そんなことができるのか?」

「できないこともないのですが、こちらでは少し難しいと思います」


 できることに驚きだよ。こちらではってことは、異世界の方にいかないとってことだろうな。さすが魔法。となれば、こっちの世界の魔法はどうか。


「乃真路はどうなんだ?」

「調べてみないと分からないわね」


 何とも言えないか。


「ううう……」

「どうした那穂!」

「あたしゃー感激だよ……。こんな相談事で真剣に考えてもらえるなんて……」


 なんか子芝居が始まった。


「むしろ不憫?」


 おい。


「とにかくさ、ちょっとしたきっかけがあれば直る気もするんだよね」

「そう言われてもな」


 ちょっとした、となると何だろうか。


「乃真路なら入れ替わり事情に詳しいんじゃないのか?」

「何故そうなるのよ」

「いつも読んでる本の定番だと思うんだが」

「定番と言うほどでもないと思うのだけれど。そうね、頭同士をぶつけるとかかしら」

「よっしゃー! いくぜ那緒!」

「ばっちこーい!」

「お、おい!」


 二人は椅子から立ち上がったと思ったら、勢いよく、躊躇なく互いの頭をぶつけた。


 鈍い音が部室に響いた。


 そして、床には倒れた人間が二人。


「何をしてんだか……」


 本当にするやつがあるかよ……。


「……大丈夫か?」


 近寄って顔を覗き込む。綺麗な顔してるだろ? 死んではいないと思うが。


 ぱちりと目が開いた。


「どうも、那緒です」

「ああ、そう……」


 名前を言われても分からねえよ。


「よっと。いやー、ダメだったみたいですな」

「残念!」


 立ち上がった二人はぴんぴんした様子だ。


「頭は平気なのか?」

「へっちゃらへっちゃら」


 どんだけ石頭だよ……。中身がおかしいのは元々だろうが。


「まじ姉、他には?」

「高所から飛び降りて着地点に居るもう一人と頭をぶつける、とかかしら」

「おい、待て!」


 部室を出て行こうとした片割れを捕まえる。


「止めるな兄ちゃん!」

「いや、止めるから!」


 もう一人は窓を開けてスタンバイしてるし……。下手したら死ぬから。いじめとか言われるのは勘弁。


「飛び降りるのはなしだ」

「ええー」

「何で不満そうなんだよ……」

「まじ姉、他には?」

「同じ落雷に当たる、とかかしら」

「今は晴れてるなー」

「それ、さすがに死ぬからな。天気が悪くなっても絶対にするなよ」


 乃真路も面白がらないように。


「先生を怒らせれば雷が落ちるかな?」

「やめろ」


 まったく……。こんな問題児丸出しのやつが同じ学年にいたとはな……。


「見てください! 通販に精神入れ替えヘルメットという物が売っていますよ!」

「……」


 エルフ野さんが静かにしていたと思ったら、スマホで通販サイトなんて見てたのか……。


「……多分、ジョークグッズなんじゃないか?」

「ジョーク、ですか?」

「よーし! それじゃあ色々準備して片っ端から試していこう!」


 何でこいつが仕切ってるんだか……。まあ張本人だしいいんだけどな。


「分かりました。注文しておいたので、明日の放課後に試しましょう」


 あれ、注文しちゃいましたか?


 それにしても、いい笑顔ですね。

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