出来ることなら何でも

「今日は相談者来るかなあ」


 結局、昨日はイカ串パーティでお開きだったし。喉が渇いたからといって、古園先生がジュースをおごってくれたな。いい先生だ。


 開き直ってマジックを教えてもらおうとしたらまずはトランプの扱い方からとか言われたし。正直超難しかった。持ち方一つとってもな。乃真路のトランプの切り方に配り方、何であんなに綺麗にできるのか。乃真路マジマジシャン。


「中々うまくいかないものですね」


 そもそも穴が発生してないだけいうことも考えられるわけで。そうぽんぽん発生されてちゃ行方不明者続出だろう。


 ピロン、と電子音が鳴った。俺のスマホの音ではない。ていうか音消してるし。エルフ野さんがごそごそしだしたな。


 手に取ったスマホを見るエルフ野さんの顔はどこか嬉しそうに見えた。


「穴が発生したようです」

「ああ、なるほど」


 その表情にも納得だわ。


「どこらへん?」

「ここです」


 スマホの画面にはよくあるタイプの地図が表示されていた。そこに赤いマークでピン止めされた場所がある。ここなのかな。


「結構近そうだ」


 公園っぽいところらしい。


「私の家の近くね」

「へえ、そうなのか」


 覗きこんだ乃真路が納得したように言う。


「そろそろ現れる頃だと思っていたのよ」

「定期的に現れるってことか?」

「そうね」


 穴が現れる場所もある程度予測できると。それに、乃真路が穴を見つけられるのはエルフ野さんのアプリと同様に進行したものに限りそうだな。でなければ、すでに見つけて対処していたとしてもおかしくはないわけだし。


「穴は魔力の淀みがある場所にできやすいと言われています」

「私は地脈のぶつかる場所と教わっているわね」


 地脈ってまた胡散臭そうな、と思っているようじゃダメか。まずは信じるところからだ。


 エルフと魔女が組めば色々と捗りそうなのに。お互い不干渉なんだろうか。いつから活動をしているかは知らんが、それで問題がなかったのならいいのか。


「ここなら私が帰りに対処しておこうかしら」

「いえ! これもELFの会の活動ですから、皆で行きましょう!」


 必死か。


「そう? 私はそれでも構わないのだけれど」

「俺もついてく」


 どんなもんか見たいし。


 部室の鍵を閉めて先生に返却。そして、学校を出て例のごとく人気のない路地へ。


「移動手段はバスとかじゃダメなのか?」

「こっちの方が楽じゃない」


 楽といえば楽なんだが……。繰りかえせば慣れるものなのか……。


「これ、マントを人前で着たらどうなるんだ?」

「怪しまれるわね」

「だよな」


 いきなり気配が消えればさもありなん。だからわざわざこんな場所に来ていると。


「さあ、乗りなさい」

「……お手柔らかにお願いします」






「てっきり遊具とかあるのかと思ったんだが、広場って感じか」


 遊歩道が整備されており、散歩には最適だろうな。随所に生える木々が美しい景観を作り出している。桜の木もあるが、少し散ってきてるか。それでも十分に楽しめそうだ。


「グラウンドとプールも隣接してあるわよ」

「ああ、上からちょっと見えたやつ、プールだったのか」


 それも含めると広いところだな。


「穴はどっち?」

「こっちですね」


 エルフ野さんがスマホを握って先頭を歩いていく。


 トレーニングウェアに身を包んだ人たちと度々すれ違う。ここをコースにしている人たちが多いんだろう。ベンチに座って休憩をしている姿も散見される。


 子連れの母親達が談笑している東屋を通り過ぎ、エルフ野さんは芝生に入って行った。そこは軽い傾斜になっていて、開けた場所だ。やっぱりこういうところは気持ちがいい。


「ここです」


 エルフ野さんが立ち止まったのは複数の木々が生え連なり、日の光が遮られている場所。


 ここと言われても何も見当たらず。


「私の正面ですね」


 目を凝らしても……。うーむ……。あー……。


「何かもやもやしているような、していないような……?」


 夏によく見るもやもやの感じがする。


「これなのか……」


 こりゃ気づかんなあ……。


「ここを通るとその瞬間に異世界へ行って死ぬのか?」

「まだ大丈夫です。この状態で通っても何の影響もありません」


 そう言ってエルフ野さんがその場所を歩いて行き来した。


「完全に穴が開いてしまうと、しっかりと目に見える形になりますね」


 ちょっと見てみたいと思うのは身勝手すぎるか。


「これを消しちゃうんだよな」

「私がやっても大丈夫ですか?」

「ええ、構わないわわよ」


 エルフ野さんがもやもやに広げた手を向けた。目を瞑り、集中している様子。風が吹いてもいない中、長い髪の毛が少し揺れる。


 小さくパチンと音がなった。


 開かれていた手のひらが微妙に震えながら、徐々に閉じられていく。気のせいでなければ、その先のもやもやがなくなっていっている。


 そして、エルフ野さんの手が完全に閉じた。


「ふう、これで終わりですね」


 特に派手さはなかったが、何か感じる部分はあったな。さすがはエルフ野さんといったところ。


「あれ、何それ?」


 エルフ野さんが上に向けて広げた手のひらに小さい透明な塊がのっていた。


「魔力の塊です」


 魔力……?


「そんな物ができるのね」

「乃真路さんの場合は違うのですか?」

「私がするのは淀みを解く、とでも言えばいいのかしら」


 この疎外感よ……。何者にもなれない、持たざる者の宿命か。


「にゃあ」

「あれ、ノキシタじゃん」


 鳴き声がしたと思ったら、足元に黒猫が。どうやら首をかしげているようだ。いいか、お前はジジなんて名前じゃなくノキシタなんだからな。現実を受け入れろよ。


「戻ってきていたのね」

「使い魔って結局のところ、何をするんだ?」

「出来ることなら何でもよ」


 何でもとは大きく出たな。まあ一匹の猫が出来ることなんて限られるか。つまり、ただのペットと変わらないと。

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