イカ串を食べながらマジックをする部活動

「これに引っ掛けていけばいいのか」

「はい、お願いします」


 放課後の部室、パイプ椅子に上履きを脱いで上がる。少し重い布を持って、カーテンレールに引っ掛けていく。


「よし、これで終わりだ」


 パイプ椅子から下りて確認。やっぱりカーテンがあると部屋感が出るものらしい。


「いいですね」

「そうだな」


 このカーテンはエルフ野さんが持ってきた物だ。他にも棚には植物のオブジェが置かれている。これだけでも雰囲気はだいぶ良くなるな。


 しかし、そんな部屋ですることも特になく。パイプ椅子に座って相談者を待つしかないのである。


 結局、暇を潰せる物を持ってくるのも忘れたな。乃真路はライトノベルを読んでいるようだ。エルフ野さんは串に刺さったイカを食べ始めたし。ポット入りのやつか。


「憂瀬さん、乃真路さんもどうぞ食べてください」


 こんなイカ臭い部室だと入ってくる相談者も戸惑うだろうな。


「飲み物が欲しくなりますね」

「味が濃いからなあ。お酒は勘弁してくださいね」

「大丈夫です。私も時と場所をわきまえているんですよ?」


 そうかなあ……。


「乃真路の猫は連れてきたりしないのか?」


 家でお留守番してんのかな。


「ジジなら外をうろうろしてると思うわよ」

「ジジって、名前?」

「そうね」

「その名前はやめようか」

「どうしてかしら?」

「どうしてって……」


 黒猫でジジはまずいだろう……。いや、別にいいんだけどさ……。


「やっぱり、ほら……オリジナリティとか大事だろ?」

「私のオリジナルなのだけれど」


 嘘つけよ。乃真路が魔女の〇急便を見ていないはずがないのだ。


「それなら、どういう名前だったらいいのかしら?」

「そりゃあ……タマ、とか」

「とてもオリジナリティのある名前とは思えないのだけれど」


 仕方ないだろ……。ハムスターだってハムちゃんと呼んでたんだぞ。


「じゃあ……ノキシタ、とか……」

「まさか、軒下から出てきたから、というわけではないのよね?」

「……」

「まあいいわ。ノキシタにしましょう」

「え、いいのか?」

「ダメなの?」

「いや、乃真路がいいのなら……」

「なら決まりね」


 決まっちゃったよ。まあオリジナリティはある、のか? まあいいや。今度ジジ、改めノキシタに高級猫缶を買っていってやるか。


「そうだ! それより魔法を教えてくれよ」

「それより? 使い魔の名前は重要ではないと言いたいのかしら?」

「いや、そんな深い意味はなくてだな……」

「私もぜひ拝見したいです!」

「仕方ないわね」


 乃真路は本を閉じて、取り出したのはトランプ。タロット的なあれ?


 ケースから取り出されたトランプは裏向きにして扇状に並べられた。


 ていうか、これ魔女の〇急便のトランプじゃん。裏の絵柄黒猫だし。こんなのがあるんだな……。


「一枚選んでもらえるかしら」

「……」


 嫌な予感がしてきた。これ、俺が期待してるのとは違うんじゃないか……?


「これです」

「それじゃあ、そのカードをこちらに見せないで覚えておいてね」

「わかりました。ほら、憂瀬さん」

「え? ああ……」

「覚えましたか?」

「うん、覚えた」


 ハートの四ね。黒猫が鳥かごの中に入ってるやつ。懐かしいな……。またテレビでやらないものか。子供の頃にビデオで撮っておいたはずだが、押入れのどこかに眠ってんのかな。もうテープがぐちゃぐちゃになってるか。乃真路ならブルーレイで持ってそう。


「ここに戻してもらえる?」

「わかりました」


 二つの山に分けられたトランプに黒猫が挟まれて消えていった。そして、繰り返しシャッフル。トランプは表と裏に分けられて、ぐちゃぐちゃにシャッフルされていく。


「こんなものね」


 最後に再び扇状に並べられたトランプ。そのほぼ全てが裏向きに揃えられ、その中で一枚だけ表を向くカードが。


「これかしら」


 ハートの四、鳥かごに入った黒猫だ。


「すごいです乃真路さん!」


 そうだな、すごいけどさ……。


「師匠、それは思ってたのと違う」

「誰が師匠よ」


 がちゃり、と扉の開く音がする。


「飲み会でもしてるのか?」

「そんなわけないじゃないですか」


 相談者と思ったら古園先生か。


「ほう、懐かしい物を食べてるんだな」

「先生もどうぞ食べてください」


 相談者用に出しておいたパイプ椅子に先生が座ってイカを食べ始めた。


「真面目に活動していると思ったのだが、トランプをしながらこんな物を食べていたとはな」

「相談者を待つのも活動のうちですよ」

「面倒な活動だな」


 面倒って……。


「マジックでもしてたのか?」

「そう、マジックなんですよ。乃真路がそれを魔法だとか言い張って困ってるところです」

「別に言い張ってはないのだけれど」

「種が分からないなら魔法みたいなもんだろ」

「種がある時点でマジックなんですって」

「分からないなら無いも同然だ」


 ぐぬぬ……。魔法を教えてもらうにはまずマジックを覚えなければならないらしい。今のマジックを覚えたとしてまた新しいのを見せられるだけか。それで最後にもうお前に教えることはない、って展開になっていつの間にか一流のマジシャンに成長するサクセスストーリーだな。


「ゴミ箱はないのか?」

「そういえばありませんでしたね」

「そうか。ちょっとこれを持って待っていろ」


 先生は使用済みのイカ串を俺に渡して部室を出て行った。この安っぽい串は再利用できそうにないな。


 しばらくすると先生が戻ってきた。その手には高さが三十センチほどありそうな筒型の置物が。もしかしなくても、あれか。


「このゴミ箱をやろう」

「それはありがたいんですが、何でこんなものが?」

「職員室で一々席を立ってゴミを捨てに行くのが煩わしくて机の下に置いていたんだが、何度も蹴飛ばしてな。邪魔になったんだ」

「なるほど、そういうことでしたか」


 であれば遠慮なく使わせてもらおう。

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