だけれど、とか言うやつ

「先にこれを張り出しに行くか」

「作ってきてくださったんですね」

「本当に簡単な物だがな」


 ただただ文字が書かれているだけの紙だ。制作時間十分ほどの力作。装飾も何もなし。シンプルすぎて逆に読みたくなるかもしれない。


 掲示板の中心部分は活動の活発な部活で占められていた。これも社会の縮図か。文句を言っても仕方がないので端っこの空いたスペースに貼り付ける。


 最後に相談はここまで、の空欄部分に部室の場所を書き込んだ。


「これでよし、と。後は魔法?」

「そうですね」


 エルフ野さんはそこに手を当てた。


 魔法か……。話は聞いていても実際に見るのは初めてだ。


「これで大丈夫です」

「え……? 終わり?」

「はい」


 なんという肩透かし。詠唱もなければ光ることもない。こんなことがあっていいのか……。


「もっと派手な魔法とかないのか?」

「派手というと、ファイアなどでしょうか?」

「そう! それだ! 使ってるところを見たいんだが」

「危ないのでダメです」

「そこをなんとか」

「だ、め、で、す」

「……」


 何だろうな……この聞き分けのない子供をあやすような言い方は……。引き下がるしかない。これも一種の魔法なのだろうか。


 それから部室棟へ行き、まずは古園先生から受け取った鍵が合うかを確認する。


「お、閉まったな」

「これで部室に色々と持ってきても安心です」

「それはそうなんだが……」


 くれぐれも自重してほしいところだな。でも、掲示を見て来る人を部室で待っとかないとダメだし、何か暇を潰せるアイテムは必要か。将棋とか? エルフ野さんできんのかな。俺も昔やったきりだが。無難にトランプでもいいか。それか本。何か考えておこう。


「そうだ、ELFの会って書いた紙をここに入れておかないと」

「確かにそうですね」


 名もなき部活動というのも格好いいのはいいが、そんなことはしていられない。


「ノートの切れ端にでも書くか」


 一度中に入り、ペンで太めに文字を書く。そして扉の上にスライドイン、と。うーむ、ちょっと安っぽくなってしまったな。まあいいか。目的を考えれば別に高尚な活動ってわけでもない。


「これでELFの会発足だ」

「はい! 頑張りましょう!」


 そう、お酒のためにな。


 俺もなんだかんだおごってもらったり昼飯買ってもらったりしてるわけで。その圧倒的感謝を返すためにも頑張りますよ。ボーナスが出たら焼肉でも連れて行ってもらおう。


「ELFの会というのはそこでいいのかしら?」

「お?」


 いつからいたのか、横を向くと一人の女生徒が立っていた。リボンの色は俺のと同じ色だから同級生らしい。エルフ野さんほどではないにしても、長い髪の毛だな。それに美人。


「はい、そうです。掲示板を見て来られたのですか?」

「ええ、まあそうね」


 マジか。こんなに早く獲物が釣れるとは。エルフ野さんの魔法ぱねえっす。


「なるほど。それでは中でお話を聞かせていただきますね」


 パイプ椅子をもう一脚出して、相談者にお座りいただく。


「部員は二人なのかしら?」

「今のところはそうだな。今日できたばかりの同好会だし」

「そういえば、部活動の紹介では見た覚えがないわね」

「俺は五組の憂瀬だ」

「私も同じく五組のエルフ野です」

「私は二組の乃真路のまじよ」

「代表はエルフ野さんの方ね」

「そうなのですか?」

「そうなんです」


 俺は代表なんて柄じゃないし。せっかくELFの会なんて名前にしたんだからエルフ野さんが代表やらなくてどうすんだってな。


「それで乃真路さん、どのようなご相談なのでしょうか?」

「相談というか、お願いになってしまうわね。私の使い魔を一緒に探して欲しいのよ」

「使い魔、ですか」

「ええ」


 ……使い魔って何だ? 自分の妄想に浸る系の人? いやまあ俺も人のこと言えないんだが。あれか、ペットの相談? そんなのをしに来られても困るわけだが。昔飼ってたハムスターですらどこかに逃げて帰ってこずじまいだったからな。とっとこ生きて大往生していてくれればいいんだけど。


「私はまだ魔女として修行中の身ではあるのだけれど、高校生にもなって使い魔がいないというのは格好がつかないと思わないかしら?」

「はあ、そうなのか?」


 別にペットを飼っていたとしても好きなのかなあ、ぐらいの感想しか出てこないな。そりゃあ高いペットであれば一種のステータスにもなるんだろうが。何にしても高校生が気にすることではない。


「あなたたちにはいないの?」

「いないな」

「私もいませんね」

「なるほど、そういうものなのかしら」


 クラスで聞いても半数以下だろうな、ペットがいるのは。


「少し気になっていたのだけれど、憂瀬くんの方は魔女というわけではないのよね?」

「え? 魔女?」


 使い魔に続いてまたもや心をくすぐるキーワードが。俺は魔女の日常が垣間見れるような作品が好きかな。魔女の〇急便とか、ふらいんぐ〇ぃっちみたいな。リトル〇ィッチアカデミアもいいか。おジャ魔女どれ〇は申し訳ないが守備範囲外だ。


「あら、違ったのかしら。てっきり魔法の話をしていたからそのように思ってしまったわ」

「魔法の話……」


 人の居るところでそういう話は控えていたはずだが……。同類と思われてしまったということか。間違ってはないんだけど。むしろ、よくぞ話しかけてきてくれたというか。こんな美人さんと語り合えるのであれば望むところだ。


「オリエンテーションの時にホテルの入り口で聞こえたわね」

「ああ、ってそうか! あの時の不良ちゃんか……」


 前からしっかりと確認できてはいなかったが、言われて見れば確かにそうだ。


「誰が不良よ」

「いや、あんな夜更けに出歩くとかそれしか考えられんし。しかもオリエンテーションで」

「それならあなたたちも不良になるのかしら」

「俺たちは正義の味方だから」

「エルフ野さんはともかく、憂瀬くんは頼りなさそうね」


 やかましい。自覚してます。


 でも、あれだけでお前は魔女かって聞いてくるとは行動力の権化か。アニメかなんかの話なのかな、と思考がいかないあたり、中々の逸材と見た。


 ん? いや待てよ……おかしいな……。あの時エルフ野さんはなんと言っていた? 裸で踊り狂わないと気づかないとか言っていなかったか? ていうか、何てことを言ってんだ。


 エルフ野さんの方を見ると、目が合って頷かれた。なるほど、乃真路の前では裸踊りを止めろということか。安心してくれ、思春期の男子にとってそれはあまりにもレベルが高すぎるからな。


「私も魔女ではありませんよ」

「そうなの?」

「ええ。私はこちらとは別の世界から来ました」

「別の世界……」


 乃真路は少し考え込んでいる様子。魔女というのはよく分からないが、俺と同じく魔法に対して多少なりとも抵抗のある人物には違いない。それか、エルフ野さんのように異世界から来ているか。見た目は日本人にしか見えないな。


「この世界と繋がる別の世界、聞いたことはあるわね」


 異世界から来ているわけではなさそうだが、その存在を知っているとなると魔女というのはまさしく魔女なのだろうか……。


「魔女の主な仕事は悪いものを封じることなのだけれど、その悪いものが出てくる先にもう一つ別の世界があるという話だったかしら」


 悪いものってそのままだな。もうちょっとネーミングを凝ってほしいところ。バッドカードとかね。


「その別の世界には行こうとしなかったわけ?」

「そこは人が生きていられる場所ではないと教わっていたのよ。だからそういう考えにはならなかったわ」


 真面目ちゃんか。まあ俺も死ぬと言われて行く気にはならなかったんだが。


「魔女というのは聞いたことがありますが、お会いしたのは初めてですね」

「へえ、それじゃあ本物の魔女ってことか?」

「疑い深いのね」

「そりゃあすぐには信じられないよなあ」

「別の世界から来たという話は信じるのに?」

「この耳見なよ、動くんだぞ」


 エルフ野さんがノリノリで長い耳を動かしてくれた。


「付け耳というわけではないの?」

「引っ張ってみますか?」

「いえ、大丈夫よ」


 なら代わりに俺が引っ張りたいんだけど。セクハラになる?


「魔女だっていう証拠みたいなのはないわけ?」

「頼みを聞いてくれるのなら見せることができるわ」

「頼みって、使い魔か……。それは動物を捕まえるってことでいいのか?」

「黒猫ね」

「何で黒限定?」

「知らないの? 使い魔のトレンドは黒猫よ」

「トレンドなんかあんのか……」


 まあいかにもでそれっぽいけど。


「でも、これは穴とは関係なさそうか」

「穴?」

「穴というのは私が来た世界とこちらを繋ぐ場所です。もしかしたら、乃真路さんの言う悪いものというのがそれに当たるのかもしれません」

「ああ、あれか。もしかして、オリエンテーションの時に神社でその悪いものに対処してたのか」

「確かに神社だったわね」


 なんと、エルフ野さんのボーナスはこうして失われてしまったのか……。これは味方に引きずり込まないとエルフ野さんが干上がってしまう。


「その、悪いものを見つける手段をお持ちなのですか?」

「はっきりとは分からないのだけれど、なんとなく感じる程度かしら。勘と言ってもいいわね」

「なるほどなるほど」


 アプリを使うよりは魔法っぽい。アプリの元も魔法的なあれこれしてるんだろうが。魔法と科学の融合って考えるとそれはそれで盛り上がるやつ。


「乃真路さん、ELFの会に入りませんか?」


 さすがエルフ野さん。いきなり捕獲にかかったな。


「私が? どういった活動かもよく分かっていないのだけれど」

「表向きは……何でしたっけ?」

「生徒のよりよい教育と生活と未来のために手助けをする奉仕活動の会、だったかな」

「そうでしたね」


 正式名称を覚えていないとは……かなし、くないな。仕方ねーよ。そもそも誰だよ、こんな無駄に長い名称にしたのは。


「本当の活動内容は何なのかしら?」

「穴を閉じる、つまり悪いものを封じるという活動です」

「そんなことをどうして部活動でするのかしら?」

「穴の状態が進行すればその場所もはっきりと分かるのですが、発生したばかりの状態ではそれも叶いません。なので、生徒から情報を募ることでそんな穴に対処しようと思い立った、ということですね」


 肝心のボーナスが出る、という部分を話してませんが。知る者は少ない方がいいとかそういうあれ? たかられるから? 俺は警戒しなくても大丈夫ですよ。焼肉以外だと寿司とかピザの出前ぐらいでいいんで。


「なるほどね。それならELFの会に入らせてもらいます」

「それは良かったです!」

「発足初日に早速新しい部員か」


 これは幸先がいいの、か? まあ俺は活動どうこうより楽しければいいんだが。魔法とか見れたりな。


「それで、使い魔は探してもらえるのよね?」

「もちろんです。ね、憂瀬さん?」

「ああ、うん」


 そりゃいいけどさ。


「ペットショップで探すとかじゃダメなのか?」

「そんなところにはいないわよ」

「そう?」


 黒猫は不人気ってわけでもなさそうだけど。不吉だとか言われるから案外少ないのかもな。


「それだと、野良猫をなんとか捕まえるしかないか」

「神社やお寺がいいと思うわ」


 確かにいそうな気はする。


「それじゃ、校外活動といきますか」

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