エルフ野さんの目が血走って身体が震えだしたら

「憂瀬よ。お前、エルフ野さんと仲良くね?」

「そうか?」

「そうだ」

「今日も一緒に購買へ行ってきたんだよね?」

「まあそうなんだが。それはエルフ野さんがパンを抱えて飲み物まで持てないからであってだな」

「何でその手伝いをお前が?」

「席が近いからとか?」

「なら俺がその役割を担ってもいいということだな」

「エルフ野さんに聞いてみたらどうだ?」

「いや、それは難しい。お前から頼む」

「何で俺が聞くんだよ」

「俺に聞けるわけがないだろうが」


 何でだよ……。


 実際に話してみればなんてことはないんだけどな。ただ、エルフ野さんに出会った初日のことを考えれば気持ちも分からんでもない。俺とは別世界の人間というか、ってまさしく別世界の人間だったわけだが。


「そういえば、エルフ野さんに近づくのは身の程知らずの馬鹿とか言ってなかったか?」

「時には馬鹿になるのも必要だ」


 時にはっていうか、ただの馬鹿にしか見えないな。






「それでは、作戦会議を始めます」


 放課後、部室(仮)で当たり前のように行われるそれ。メンバーはエルフ野さんと俺の二人。人数的には寂しいが、少数精鋭ということで。まあ精鋭なのはエルフ野さん一人なんだけど。俺はさしずめ金魚の糞。正直なところ、そう悪くないポジションではある。


「とりあえず、ELFの会の活動を知ってもらわないとダメなんだよな」

「そうですね」

「あんまり大々的にやるのは賢くなさそうだ」


 欲しいのは穴に関する情報だからな。ただの悩みや疑問を持ってこられても解決できる気がしないし。


「昇降口近くの掲示板に活動内容なんかを張り出すのが無難かなあ」

「なるほど。あそこなら確かに目に付きそうですね」


 部活の勧誘なんかを張り出せる場所だ。食い入るように見るところでもないが、なんとなく目に入る場所でもある。そこにELFの会という文字があれば、何だこれは、となるに違いない。


「問題は人が来すぎても困るということだな」

「そこは魔法でなんとかしてみたいと思います」

「へえ、魔法ってそんなこともできるのか」

「条件が少し難しいのですが、穴と関係の薄い方は掲示を見たとしても記憶に残らないような方法でしょうか」


 魔法っていうと炎を出したり水を出したりなイメージがあるんだが、色々複雑そうだ。


「じゃあ張り紙は俺が家で適当に作っておくよ」

「憂瀬さん、そんなことができるのですか?」

「いやまあ大した物はできないんだが。目を引くようなデザインの凝ったやつは無理だぞ」

「軽く文言が載せてある程度の物で大丈夫です。あまり派手にしてしまうと魔法にも影響が出てしまうので」

「了解」


 シンプルに文字だけでいいのならすぐだな。印刷機も埃を被ってるだろうけど、多分使えるだろう。


「作戦会議終わり?」

「今できることはそれぐらいですね」


 後は地道な実地調査を繰り返したり。そんなことをしないために情報を募ろうとしているんだがな。エルフ野さんの目が血走って身体が震えだしたらそれも考えるか。酒で禁断症状が出るエルフとか本当に夢がないな。エルフ野さんはさすがにそこまでじゃないと思うけど。ですよね?


「ここは本を読む部活動だったのでしょうか」


 エルフ野さんは立ち上がって本棚の本を手に取った。


「文芸部とかだったのかなあ」


 同じように本を取って見てみる。いわゆる文学と呼ばれるような作品ばかりだ。俺の守備範囲は小説だと軽量級のやつなんだよな。


「まずは冷蔵庫が必要ですね」

「冷蔵庫……?」

「ここは活動拠点ですから、快適な空間を目指しましょう。憂瀬さんも必要な物があれば持ってきてくださいよ」


 部室というより溜まり場みたいな雰囲気になりそうだな……。それより冷蔵庫って、まさかお酒を入れておくとか言わないよな……。さすがに停学というか、一発退場もありえるぞ。俺は知りませんでしたで押し通すしかないな。


「そういえば今更なんだが、何で高校生なんだ?」


 年齢はどうとでもなるし。見た目はさすがに中学生だと大人っぽ過ぎるけど、大学生であれば問題もなさそう。高校生としてしっくりはきてるよな。


「私もこちらへ来てまだ日は浅いのです。なのでこちらの作法や常識を身に付ける必要がありました。もちろんあちらでも勉強はしてきたのですが、やはり実地で学ぶことが一番ですので」

「それで高校生?」

「はい。人を知るのに最適な場所です」


 ……そうなのか?


「それと、制服が気に入ったからという理由もありますね」


 エルフ野さんはくるりとその場で回った。確かに似合ってるが……。


「可愛いですか?」

「……似合ってると思います」


 何てことを聞いてくるんだか……。これが九十歳の余裕ってやつなんだな。俺もそれぐらいの年齢になれば素直に言葉を返すことができるのだろうか。まず元気に生きていられるかが問題だな。


 それにしても、大学生にしてればお酒もどうどうと飲めたろうに。まあ高校生の今でもどうどうと飲んでるか。別に大学生になって欲しかったとか、そんなことを言いたいわけではないんだけど。


 もしも、エルフ野さんが大学生を選んでいたらこうして出会うこともなかったわけで。女子高生の制服が可愛くて大変良かったです。






 本日もつつがなく授業を完遂だ。もう高校生活にも慣れてきたな。ホームルームも終わったし、掃除も当番じゃないからお先に失礼させてもらおう。ま、部室(仮)に行くんだが。


「エルフ野、憂瀬、ちょっと来い」


 む、何だ? 古園先生に呼び止められた。エルフ野さんとセットだし。考えられるのはELFの会の話だな。もしかして、部室(仮)の件か? 勝手に使ってるのがばれたとか? いやいや、別に悪いことしてませんし。今のところは。これからについてはエルフ野さんにお任せしますんで。


「何ですか……?」


 教卓の前にエルフ野さんと並ぶ。


「職員室行くか」

「……はい」


 なんてこった……連行か……。親の呼び出しとかどうなるんだろうな。海外に居るんだが。親戚ってもなあ……。


「先生、どのようなご用件でしょうか?」


 廊下に出たところでエルフ野さんが攻勢に出る。


「ん? ああ、同好会の申請が通ったからその報告をな」

「そっちかあ……」

「そっちとは何だ。何か別のことを期待していたのか?」

「いえいえ、期待なんてそんな……」


 危惧していただけです。


「それなら教室で言ってくれれば良かったじゃないですか」

「それもそうだな」


 そうだなって……無駄に勘ぐってしまった俺は何だったのか。怒られないのならいいけどな。


「それじゃあ、職員室へは何をしに?」

「空いている部室がいくつかあるからな。そのうちの一つを使わせてやる」

「あ、部室といえばですね、部室棟へ下見に行ってきたんですよ」

「ほう」

「それで、おそらく元文芸部の部室だったと思うんですが、そこに入って掃除なんてしてみたりしまして」

「勝手に入ったということだな」

「その言い方は語弊があるかと。人気のない部室を覗いてみると埃だらけだったわけですよ。そりゃあもう掃除するしかありませんよね?」

「鍵が開いていたのか?」

「開いてましたね」

「管理がなってないな……。まあいい、そこで待っていろ」


 職員室の前まで来ると、古園先生は中へ入っていった。


 手持ち無沙汰に待っていると、すぐに先生は戻ってくる。その手には先ほどは持っていなかった鍵が握られていた。


「元文芸部だったらこれだろう」


 そう言ってその鍵を渡された。


「その鍵は私が管理することになるからな。部室を使いたいときは私のところに借りに来い。部室を使い終わるか少しでも空けるときには必ず施錠すること。扉だけじゃなく窓もな。施錠した後は私のところまでその鍵を持って来い」

「分かりました」

「それと、面倒ごとは起こさないようにな」

「任せてください」

「……エルフ野、任せたぞ」

「はい」


 あれ、俺じゃ不満ですか? 部室に勝手に入ったのもエルフ野さん主導ですよ? この人お酒飲んでますよ? ……何だろうな、うまくスケープゴートとして使われているんだろうか。まあいいんだけど。

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