生徒のよりよい教育と生活と未来のために手助けをする奉仕活動の会

「生徒のよりよい教育と生活と未来のために手助けをする奉仕活動の会、か……」


 長いな、と古園先生が最後に付け加えた。


 放課後の職員室、俺以外にも先生と対面して話をしている生徒がいるようだ。小学校、中学校と職員室とは無縁な学生生活をしていたためか、ちょっと緊張する。大学受験を考えれば職員室へ来る機会も増えるんだろうか。


「これが何故ELFエルフの会に?」

「教育がeducation、生活がlife、未来がfutureです」

「ふむ、それらの頭文字ということか」


 結論ありきで適当に考えたんだが。なんとなくそれっぽくなるから不思議である。自分の才能が怖い。


「まるでエルフ野の活動みたいだな」


 そこが重要なんで。こんな活動をしていても相談に来る生徒などほぼいないだろう。しかし、そこにエルフ野さんの影がちらつけば食いつくに違いないのだ。


 もし活動に参加したいという生徒が現れた時には厳正な審査の上、却下すればいい。世界の危機を救う活動だからな。生半可な気持ちで来られても困るわけだ。


「部員はエルフ野とお前の二人か」

「とりあえずのところは」

「これが職員会議で通ったとしても同好会扱いだから、部費なんかは出んぞ」

「生徒の悩みや疑問を聞いて解決しよう、って意図なので出費はそれほどかさまないと思います」


 新しいゲーム機が欲しくて勉強が手につかない、なんて糞みたいな相談事はこないだろうし。もしきたとしてもぶん殴って考えを変えてやるからお金はかからないか。


「ま、それもそうか。お前はともかくエルフ野ならそう問題も起こしそうにないだろうしな」


 エルフ野さんはやはり別枠なようで。俺も別に問題を起こした覚えはないんだがな。信頼されるほど何かをしたわけでもないか。これからにご期待ください。


「顧問はどうする?」

「そこはもう古園先生にお願いしようかと」

「私か……。いや、そうだな。それは、いい考えかもしれない」


 食いついたか。特別手のかかる活動でもない。現在フリーの古園先生なら承諾してくれるだろうと思った。この人あんまりめんどくさそうな感じもしないし。いい意味で生徒と近いような、そんな印象。


「それにしても、わざわざこんな活動をしようなんて物好きだな。内申点が欲しいのか?」

「ええ、まあ」


 ついでにもらえるのならば、もらっておきたいところ。凡人たるもの細かい積み重ねなくして大成するすべなしと心得よ、ってな。


「次の職員会議で通してやる。精々頑張ることだ」


 失礼しましたと職員室を出ると、廊下でエルフ野さんが待ち構えていた。


 申請書類を持っていってもらっても良かったのだが、何もかもをエルフ野さんに押し付けるのもな。というより、俺にも仕事をくれないと存在意義が行方不明になってしまう。どんどんこき使ってもらわないと。


「どうでしたか?」

「大丈夫そうだったな」

「それは良かったです」


 古園先生も楽な活動の顧問になれるのなら、他の先生方に却下されたとしても説得してくれるだろ。そもそも悪いことをしようってわけでもないのだ。


「次は部室ですね」

「部室って、生徒が勝手に決めるものじゃないと思うんだが」

「さあ、行きましょう!」


 あれ、話聞いてません? エルフ野さんが暴走しておられる。最早彼女の目に映るのはお酒のみか。まあいい、ELFの会の代表はもちろんのことエルフ野さんである。責任の所在もはっきりとしていると、そういうあれね。


 校舎を出て向かったのは部室棟。様々な部活動で使われている部室がある場所だ。


 エルフ野さんは二階に上がって、扉を見ながら廊下を歩いていく。


「ここにしましょう」


 そう言って、扉を開けて中に入っていった。


「ここは……」


 扉の上部にある札を入れる場所には何も書かれていない。室内の中心には長いテーブルが置かれ、壁際には折りたたまれたパイプ椅子、本棚にロッカーと、特に変わった様子はない。


「少し埃っぽいな」

「窓を開けましょうか」


 カーテンもかかっていない窓が開けられると、風がふわりと舞い込んできた。ちょっと咳き込む。


「それでは、ここを穴の調査活動拠点とします!」

「……」


 何だろう、エルフ野さんがちょっと楽しそう。でも、拠点ってのは悪くない。秘密基地でもいいが。ともかく、俺もわくわくしてきた。だって男の子だもん。


「ここ、使っていいわけ?」


 それだけが疑問。部室として使われてはなさそうだが。


「部員がいなくなり空いている部室がいくつかあると聞きましたので、大丈夫だと思いますが」

「空いてたとしてもなあ……」


 そりゃあ部室として使える場所はあるんだろうけど。後で先生にどう言われるかだ。


「まあいいか。使うなら掃除をしないとな」


 高校生たるもの、時には勢いも大事なのである。叱られたら、その時はその時だ。無鉄砲の考えなしも高校生であればまだ許されるだろう。多分ね。一発退場は勘弁してほしい。






「こんなもんだな」


 埃が積もっていたとしてもこの程度の部屋、二人でかかればそう時間はかからなかった。元々物が少なかったのもあるか。とは言え、日暮れの時間なのも事実。


「今日は帰るか」

「はい」


 こんな時間まで学校にいると高校生してるな、とちょっと思ってしまう。普通に帰ったとしても高校生なのは変わらないが。密度が違うというか。


「そういえば、鍵がかかってなかったのか」

「そうでしたね。鍵は職員室にあるのでしょうか」


 ちゃんと部室として認めてもらうまでは貴重品も置いておけないな。まあさすがに部室でもないところを好き勝手に使いすぎるのはダメか。まだ掃除しただけだからセーフ。


 で、学校を出て帰るわけだけが、帰る先はほぼ同じと。もうあれだ、他人の目を気にするだけ無駄というもの。部活動、もとい同好会で一緒に行動する機会が増えるだろうし。刺されないようにだけ気をつけよう。


 駅までの道も帰る時間が変われば景色も変わる。制服を着た学生の姿は少なく、スーツを着た人の姿がちらほらと現れ始めた。


 電車に乗り込むと乗客も心なしか多い。これも一つの非日常か。これからはこれが日常になっていくと。帰宅部のままよりはいいか。


『ご乗車ありがとうございました。終着駅、泉中央でございます』


 ふう、今日のお勤めも終わりだ。電車を降りて、階段を上がり改札を出る。


 エルフ野さんはそのままコンコースを上がっていくようだ。家に帰るのならその必要はないのだが。俺はどうするか。ついていくか、そのまま帰るか、一瞬の逡巡。ま、晩飯もないしどこに行くのか聞いてみよう。


「エルフ野さん、どこ行くんだ?」

「もちろん飲みに、と言いたいところですが、今日はご飯を頂くだけにしておきます」


 毎日飲んだくれるわけでもないのか。そんなことしてたら毎日遅刻だもんな。


「ほら憂瀬さん、行きますよ」

「ああ、うん」


 元々連れて行ってくれる気だったと。


「こっち行くとお好み焼きとかラーメンの店なんかがいくつか並んでるな」

「ラーメン! それはいいですね」


 ここらへんのことはあんまり知らないのかな。居酒屋は知っていたみたいだが。俺も行くのは久々だけど、案内は任せてもらおう。

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