エルフ野さんと始める作戦会議

 なんとか間に合った。教室に入った瞬間に予鈴が鳴り響く。


「エルフ野さんおはよう!」

「ええ、おはようございます」


 相変わらず人気者だな。


「今日は遅かったね」

「少し寝坊をしてしまいまして」

「夜更かし?」

「それもありますが、朝はどうしても弱くて……」

「あー、見た感じそうだよね」


 完全にお酒のせいだとおもうのだが。言っても信じないどころか、憂瀬くんさいてーとか言われていじめられそう。それをエルフ野さんに庇われ、さらに地獄絵図になって不登校になるまで見えた。そうなったら死んでもいいから異世界へゴーだな。


 午前中の授業はつつがなく終わって昼休み。そういえば急いでいたから昼飯を買ってくる時間などはなく。ダメ元でまた購買か。オリエンテーションがあったため、一年にとっては二回目だ。一回目の人の多さで諦めたやつがどれだけいるかが勝負の分かれ目。


 いざ行かん。


「憂瀬さん、行きますよ」

「え? どこに?」


 立ち上がろうとした瞬間、後ろから肩にダメージゼロの攻撃を受ける。


「購買です」

「購買……」


 もしや、また俺の分まで購入してくれるとでも……?


「今日は行かないのですか?」

「いや、行こうと思ってたとこだ」

「なら行きましょう」


 天使がここにいた。といっても実際は魔法でインチキしてるだけという。まあそれなしでも周りに気を使ってもらえるんだろうな。魔法以上に見てくれがインチキなわけで。中身も表面上はいいが、ただの酒飲みなのである。


 そして、一緒に教室を出て行く俺は針のむしろ。


 クラスメイトたちに一つ言っておきたいことは、俺に手を出すとエルフ野さんが黙っていないということだ。多分ね。


 一階へ下りて購買の前まで行くと、変わらずの人だかり。まったく、学習しないやつらめ。それではエルフ野さん、健闘を祈る。俺は自販機で二人分の飲み物を買って待機だ。


 これなら朝の貴重な時間を昼飯を買うために潰さないで済みそうだ。エルフ野さん様様。


「お待たせしました」


 いえいえ、何分でも待たせていただきますよ。パンが手に入ればこの場に用はない。さらば、購買に群がる生徒諸君。


 しかし、今日も両手はパンまみれだな。すらっとした体型のどこに収まるのか、本当に謎だ。胃袋も異世界仕様なんだな。


「あれ、どこ行くんだ?」


 エルフ野さんは階段を通り過ぎて廊下を進んでいく。


「今日は作戦会議がありますので」

「何それ?」

「あ、あそこが良さそうですね」


 ふふふ、と笑いながら渡り廊下を外れて向かうのは校舎裏、短い階段のある場所。人気はまったくない。


「ここに座りましょう」


 そう言ってエルフ野さんは階段の一番上に座った。その隣に俺も腰掛ける。


「困りました、パンを置く場所がありませんでしたね」

「半分持っとくよ」

「ありがとうございます」


 飲み物を渡して、その分かりにカツサンドを頂く。


「では、いただきます」

「いただきます」


 ぱくりと一口。うん、やはりここの購買はいい仕事をしているらしい。美味しいな。あれだけ群がるのも分からなくはない。


 紙パックのいちごミルクにストローをさしてのどを潤す。これも美味しい。格好つけてカフェオレなんて飲んでる場合じゃなかったな。カフェオレが格好いいかどうかは置いといて。そもそもカフェオレもまずいわけではないし。いちごミルクに及ばないだけで。


「それで、作戦会議って?」


 こんなところでするってことは異世界に関する話なんだろう。聞かれたとしてもゲームかなんかの話だとスルーされそうではあるけど。いや、教室でエルフ野さんと談笑しようものなら放課後に呼び出し確定か。


 ちょっとクラスメイトを凶暴に見すぎ?


「私、思ったんです」


 エルフ野さんはミックスジュースをずずず、と飲んだ。


「アプリに頼らずに穴を発見しようと」

「……なるほど」


 ちょと気合を入れたのか、鼻から息が漏れる。そんな姿も絵になるのだから、エルフ野さんってやつはどうしようもなくエルフ野さんなのだ。何を言っているのか自分でもわからないが。


「アプリに表示されるのは状態が進行している穴、だったっけ?」

「その通りです」

「てことは、発生したばかりの穴を見つけようってことか」

「はい!」


 わかってるじゃねーか、とそんな表情を向けられた。


「何でそんなことを?」

「ボーナスのためです」

「ああ……」


 そうか、エルフ野さんってやつはどうしようもなくお酒を飲みたい人だったな。まあ悪いことをしようとしているわけでもない。


「手伝えることがあるのなら協力するよ」

「ありがとうございます!」


 穴があると世界がやばいみたいだし。それを阻止するべく暗躍するってのはどうしようもなくわくわくするものなのだ。こればかりはどうしようもないからな。困ったもんだ。


「穴を見つける方法はあるのか?」

「普段と違うことを探せば見つかるかもしれません」

「ちょっとした非日常、みたいな?」

「そうですね。猫の溜まり場がなくなっていたとか、異臭がするとかでしょうか」

「ふむ……」


 普段と違う光景とかか……。言うのは簡単だが、ちょっと難儀なミッションかもしれないな。普段を知らないとそれが違う光景かどうかなんて分からないわけで。


「探す方法は何かあったり?」

「街を歩き回るくらいでしょうか」


 それはきついな……。穴も時間が経たなければ魔法でも探せない、か。となると地道に探すしかないと。それか、聞き込みなんて手も。今時ネットで情報を募ればなんとかなりそうな気もする。真偽を見極められるかが問題だ。ある程度、信頼できる情報源に絞れるかどうか……。


「部活動、とか」

「穴を探す部活動ですか?」

「いや、生徒から情報を聞き出すことができるような」


 ネットの情報よりは信頼できる。エルフ野さんに対して嘘を付く輩がいるとも思えない。変に怪しまれないにするには部活動が最適だろう。二人だと同好会どまりか。


「活動内容はボランティアみたいな当たり障りのない感じで」

「生徒の悩みなどを解決する部活動でしょうか」


 エルフ野さんの威光をもってすれば生徒も殺到すること間違いなし。それはそれで大変なのか。


「でも、ものすごい重い悩みを持ってこられても困りそうだな。穴と関係のありそうな、ちょっとした疑問を集められればいいんだが」


 オカルト研究会みたいなのの方がしっくりきそう。


「それなら、なんとかできるかもしれません」

「そうなのか?」

「ええ、部活動でいきましょう!」

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