斬られ役、リハーサる


 177-①


 武光はナジミ達に、各場面の段取りを指示し始めた。


「よっしゃ、じゃあまず最初に魔王が登場するシーンやけど、ダントさんはまず部屋の中央からやや奥を引きで映してください」

「分かりました!!」

「ヨミの『不気味な曲』キッカケ(=合図)で神水術で霧を出して一旦視界を覆った後、神風術で一気に霧を吹き飛ばして魔王がどーんと姿を現わします!! 初っ端やからインパクトが大事なんで!!」


 それを聞いたリョエンが手を挙げた。


「武光君、だったら霧が晴れた瞬間、武光君の背後に私の雷術で雷を落として、更に背後で火術を使って爆発を起こすというのはどうでしょう?」

「せ、先生…………天才ですかコンチクショウ!! それ採用っす!!」

「では、武光君の立ち位置の少し後ろに雷導針を打ち込んでおくよ」

〔ココ ハ オレタチ ニ マカセロ!!〕

「先生、テンガイも頼みます!!」


 リョエンとテンガイは床に雷導針を打ち込みに行った。


「よし、それじゃあ続きやけど……魔王のド派手な登場が終わったら、脅しをかけますので、ダントさんは俺の胸元を中心に上半身をアップで映してください」

「ハイ、分かりました!!」

「適当にアドリブで脅しの台詞を言って、最後に『貴様らは皆殺しだ!!』って俺が言うたらここで──」


 武光の話を聞いていたミトが勢いよく手を挙げた。


「分かったわ!! ここでリヴァルが颯爽さっそうと登場するのね!?」

「いや、ここで……ミト、お前の出番や!!」

「えっ、私!?」

「お前も皆の為に頑張ってきたんやし、見せ場をやるわ。それに、ヒロインの絶体絶命のピンチに駆けつけた方がヒーローの登場がえるしな!!」


 武光の言葉を聞いて、ミトは頷いた。


「分かったわ、頑張る!!」

〔姫様頑張って!!〕

「よし、ほんなら俺が『貴様らは皆殺しだ!!』って言うたら、ミトとナジミは……うーん、二人やと物足らんな……先生、やっぱ戦闘シーンも参加してください!!」

「分かったよ、武光君」

「で、続きやけど、『貴様らは皆殺しだ!!』って言うたら、ミトは『お待ちなさい!!』って言うて、ナジミと先生を引き連れてバーンと登場します。ミトが真ん中、先生がミトの右斜め後ろ、ナジミが左斜め後ろな。この時、ダントさんは足元から徐々にアオリ(=下からのアングル)で映していって、最後にミトの顔をアップでお願いします、ヨミは『勇壮な曲』を頼む!!」

「分かりました、唐観さん!!」

「ふふ……任せなさい」


 武光の指示を聞いて、撮影係のダントと音響係のヨミはうなずいた。


「で、三人が登場したら、そやな……ナジミ!!」

「は、ハイッ!!」

「お前の台詞せりふや『そんな事はさせないわ、魔王シン!!』な」

「は、ハイッ!!」

「続いて先生が『お前の好きにはさせない!!』です」

「ああ」

「そしたら最後、ミトが『この国の民は……命に替えても私が守る!!』な」

「任せなさい!!」

「よーし、じゃあちょっと台詞の練習しよか、俺が『貴様らは皆殺しだ!!』って言いました……ハイっ!!」

「お待ちなさいッッッ!!」

「おー、ええ感じや!! 次、ナジミ!!」


「ソンナコト☆○?ナイワー、マオーシン!!」


 ……その場にいた全員がズッコケた!!


「待てや!! 声裏返ってるし!! 噛みまくってるし!! 棒読みやし!! って言うか、カタコトやし!! テンガイみたいになってもうてるやん!!」

〔チョット タケミツ!? アンナノ ト イッショ ニ シナイデヨネ!!〕

「ご、ごめんなさい!! だ、だってコレってこの国にいる何万……いや何十万人に見られるんですよね!?」

「おう、それが目的やしな」

「き、緊張しちゃって……」

「大丈夫やて!? 目の前におるワケやないし、ベタやけど、観客の事をナスとでも思っといたらええねん!!」

「わ、分かりました!! ナス……ナス……ナス……ナス……」


 気を取り直して、武光は再度指示を出した。


「よし、もっぺん行くで…………貴様らは皆殺しだ!! はい、ミト!!」

「お待ちなさいッッッ!!」

「はい、ナジミ!!」


「そ、そんな事はさせないわ、魔王……ナスっ!!」


 その場にいた全員が再びズッコケた!!


「コラァァァ!! ナスちゃう!! 魔王はナスとちゃう!!」

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」

「カライ・ミツナで俺らをだました時の演技力はドコいったんや……ちょっとこっち来い」


 武光はナジミをショウシン・ショウメイの所まで連れて行くと、柄を握らせた。


〔な、何だ?〕

「コイツの魔族の血を目覚めさせた時みたいな感じで、コイツの演技力を目覚めさせてくれ!!」

〔出来るかっ!!〕


 武光は頭を抱えた。


 アカン……ナジミの奴、緊張し過ぎて嘔吐えずきまくっとる……こうなったら……!!


「ナジミ、お前はくちパクだけでええわ。魔っつん、ナジミの代わりに台詞言うたってくれ」

〔お任せください、ご主人様!!〕


 ナジミは 魔穿鉄剣を そうびした。


「ほな行くで? 貴様らは皆殺しだ!!」

「お待ちなさいッッッ!!」

「そんな事はさせないわ、魔王シン!!」 声:魔穿鉄剣

「お前の好きにはさせない!!」

「この国の民は……命に替えても私が守ります!!」


「おぉー!! ええやん!! で……ミトの台詞を受けて、俺が『良かろう、まずは貴様らから血祭りだ!!』って言うたら、殺陣たての開始やけど、まず先生……俺に向かって火炎弾を三発ぶっ放してください、俺はそれを左右に斬り払いながらゆっくりと前進するので、ここまで来たら先生はテンガイで、この辺に突きを繰り出してください、左手でテンガイのを掴んで止めます」

「分かった」


 リョエンは武光に言われた通り、武光に向かって突きを繰り出した。と、言っても芝居なので、仮に武光が棒立ちで避けなかったとしても当たらないよう、刺突の軸をずらしてあるのだが。

 武光は右足を引き、身体を半身にして刺突をかわしつつ、繰り出されたテンガイの柄を左手で掴んだ。


「そしたら、ナジミが魔穿鉄剣で真っ向から斬りかかってくるのを、掴んだテンガイを頭上にかかげて止めます!!」


 武光が、左手で掴んだテンガイを頭上に掲げて魔穿鉄剣を止めた。


「そしたら少し間を持たせて1・2の3で、魔っつんを跳ね上げて、ガラ空きになったナジミの胸元に足刀そくとうを叩き込んで吹っ飛ばす……って、言うても実際には当てへんから、ナジミはリアクションとりながら自分で跳ぶんやで? あと、観客から蹴りが当たってへんのがバレへんように角度と距離に気をつけろよ? 離れ過ぎたら当たってへんの丸分かりやし、近過ぎたら蹴りが胴体貫通したように見えてまうからな? で、吹っ飛んだ後は撮影範囲から素早くハケる(=退場する)んやで」

「は、ハイ!!」

「で、ナジミを吹っ飛ばしたら、今度はテンガイを奪って石突いしづきの部分で先生の腹に一撃喰らわします。これも実際には当てないので角度と距離に気をつけてください。先生も派手に吹っ飛びながらハケてください!! 先生がハケた後はテンガイも投げ捨てるのでこっそり回収してください」

「分かったよ」

「最後はミトやけど……ボゥ・インレでライチョウを騙した時のやつ、覚えてるか?」

「ええ、もちろん!!」


 武光とミトはボゥ・インレで幻璽党げんじとうの大将、ライチョウ=トモノミナを騙した時の殺陣たてをした。二人の殺陣を見ていたナジミ達から拍手が上がる。


「よし、完璧に覚えてるな……最後だけ変えるわ、あん時は俺が斬られ役やったけど、今回はお前が斬られ役や。最後すれ違った後、5秒くらいの間を取って、ガクッとひざを折る!!」

「こ、こう?」

「よし、で……その後、観客に絶望感を与える為に、お前をボッコボコに痛めつける……フリをするから、上手い事リアクション取れ、出来るな?」

「当然よ!!」

「ヨミは、ミトが片膝かたひざ着いたのキッカケで『絶望感のある曲』な!!」

「あいよっ」

「で、最後に俺が『これで……終わりだ!!』って言うて、ゆっくりとイットーを頭上に振り被って、今まさに剣が振り降ろされようとしたその時……『そこまでだッッッ!!』と、ヨミの『荘厳そうごんな曲』に乗せて……勇者リヴァル=シューエンが、真聖剣ショウシン・ショウメイをたずさえて登場するっっっ!!」

「ハイッ!!」

〔フン……〕


 武光の言葉を聞いたリョエンが再び手を挙げた。


「武光君、だったらリヴァル君が登場する時に、光術を使って背後で光を出してもらってはどうでしょう? 逆光でリヴァル君の姿が見えない状態から、光が収まるにつれて、徐々に姿が見えるようにするんです」

「せ、先生…………センスのかたまりですかコンチクショウ!! それ採用っす!!」

「あっ、ヴァンプさんとキサンさんも一緒に出てきてくださいね? そこからまた、殺陣やるんで!!」

「……分かった、だが……」

「分かりましたー、でもぉー……」

「何すか?」

「……ブレーンバスターはやめろよ?」

「かみかぜ波禁止ですからねー?」

「は……はい」


 ……その後、武光はヴァンプとキサンにも動きをつけた。


「で……最後にヴァっさんとの殺陣やけど……せっかくやし『アレ』やるか!!」

「ええ、『アレ』で行きましょう!!」


 武光とリヴァルはニヤリと笑うと互いに頷いた。


「武光スペシャル!!」

「武光スペシャル!!」


 《武光スペシャル》……かつて、武光達がアスタトを出発する前に、アスタト神殿の子供達を安心させる為に、武光が今までの斬られ役経験で得た、技術と知識と経験を総動員して完成させた渾身の立ち回りである。


 リヴァル達がアスタト神殿に向かう途中で野盗に遭遇した為に、披露する機会は失われてしまっていたが、今こそ披露する時だ!!


「フッフッフ……しかも、ただの武光スペシャルとちゃう……《超・武光スペシャル勇者ブレイブメン神力ゴッドパワーエディション》や!! さーてと……衣装いしょう合わせするかー!!」


 武光はそう言いながら、武光は魔王の兜を被ったが、次の瞬間、武光は苦悶の声を上げた。


「ぐ……ぐわあああああっ!!」


「た、武光様!? どうしたんですかっ!?」


 苦しむ武光を見て、リヴァルはショウシン・ショウメイを “キッ” と睨んだ!!


「ショウシン・ショウメイ……お前まさか!!」


「…………くっさあああああっ!?」

「……え?」


 ……魔王の兜はメチャクチャ臭かった!!


「おまっ……めっちゃくっちゃ臭いやんけ!? ……おえええええっ!!」

〔そうなのか? 我には嗅覚が無いから分からぬ。とりあえず、長い間洗ってはおらぬ……中身が空だと露見しては困るからな〕

「誰か……タワシ持って来いタワシ!! 神水術、ジ◯ミラ殺し一兆分の一ぃぃぃぃぃっ!!」


 その後、どったんばったん大騒ぎしながら、武光達は何度かのリハーサルをて……いよいよその時がやって来た!!


 武光は万感の思いで仲間達一人一人の顔を見た。



「皆……いよいよ本番や……絶対に成功させるぞっっっ!!」



 武光達の雄叫おたけびが、謁見の間を震わせた。

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