斬られ役、覚醒する
173-①
ナジミと出会ったあの日の夜……武光は(危ない)ファンからのサイン要求かと思って異界渡りの書に唐観武光という『芸名』を書いた。
確かに、芸名は『自分の名』ではあるが『真の名』ではない……それ故に、今の今まで異界渡りの書は書かれた名前を本人の名だと認めず、その効力を完全に発揮出来ずにいた……だが!!
異界渡りの書に本当の名を書いた今、武光の身体に宿っていた『神々の力』が遂に開放されたのだ。
「う……うぉぉぉっしゃあああああっっっ!!」
武光は雄叫びを上げた。力が……力が
「……っっっしゃおらあああああっっっ!!」
仲間達は驚きを隠せなかった。
〔た、武光……!?〕
〔ご、ご主人様……!?〕
「た、武光様が輝いて……!!」
「カヤ、一体何が起きたというの!?」
〔わ、私にも分かりません。ただ……〕
「……ええ、今の武光君は尋常じゃない」
〔ヤベェ!! アイツ メチャクチャ ヤベェ!!〕
〔「な、何だ……奴のあの輝きはっっっ!? ぬうっ!?」〕
命令したわけでもないのに、リヴァルが10m以上も大きく飛び下がった。いや……リヴァルだけではない、ヴァンプとキサンも同様に大きく後方に飛び退いていた。
ショウシン・ショウメイが命令するよりも早く、リヴァル達の戦士の本能が身体を突き動かしていた。
10mと言えど、魔王の血が目覚めた今の彼らにとっては、瞬時に間合いを詰められる距離である、リヴァル戦士団の三人は仁王立ちの武光に対して、ジリジリと間合いを測っていたが、意を決したように、ヴァンプが吸命剣・崩山を振りかざして突撃した。
「……
ヴァンプはとんでもない重量を誇る崩山を、その尋常ならざる剛力に任せて、凄まじい速度で振り下ろした。
それは、たとえ敵が重装歩兵用の鋼鉄鎧を五枚重ねで着ていたとしても、容易く押し潰し、無残な肉塊へと変えるほどの威力を有する一撃だった……しかし!!
「ふんっ!!」
……指二本。
武光は、自分目掛けて振り下ろされた崩山の切っ先を、右手の人差し指と中指の先で挟んで止めた。
「……ぬうっ!? ……おおおおおっ!!」
ヴァンプは崩山の
ヴァンプは更なる力を込めた。しかし、それでも武光は微動だにしない。
ヴァンプは渾身の力を込めた。
“みしっ…………みしっ……みしみしみしみしみしみし…………バキィッッッ!!”
時間にして十数秒、
支えを失い、勢いよくつんのめったヴァンプの頭を武光は
「ナジミっっっ!!」
「は、ハイっっっ!!」
武光に呼ばれて、ナジミは慌てて返事をした。
「癒しの力……まだ使えるか!?」
「は、はい……あと少しなら!!」
「力加減が全く分からん!! 万が一の時は……ヴァンプさんを頼んだ!!」
そう言うと武光はヴァンプの身体を頭が下にくるようにして、真上に持ち上げた。
「喰らえーーーっ!! 神の力が宿りしブレーンバスターをーーーーーっ!!」
“ドゴォォォォォッッッ!!”
武光は勢いよく後方に倒れ込み、ヴァンプの背中を大理石の床に叩きつけた!!
大理石の床にブレーンバスター!!
だだでさえ非常に危険なのに、更に神の力が上乗せされたブレーンバスター!!
良い子も悪い子も紳士淑女の皆様も絶対に真似してはいけない一撃で、武光はヴァンプを沈黙させた。
「ヴァンプさん!! 生きてますか!?」
武光は起き上がると、すぐさま
「良かった、流石ヴァンプさんやわ…………でも、垂直落下式やったら絶対アウトやったなコレ」
「武光君、危ない!!」
リョエンは叫んだ。ヴァンプの無事を確認して、ほっと胸を撫で下ろしている武光の背に、キサンが一抱えもありそうな特大の火炎弾を放ったのだ。
「先生直伝……火術、火炎弾ッッッ!!」
武光は振り向きながら、迫り来る特大の火炎弾に対し火炎弾を放った。ぶつかり合った二つの火球が爆発し、肌を焦がさんばかりの熱風が謁見の間を駆け抜ける。
火炎弾を打ち消されたのを見たキサンはニヤリと笑った。
「へぇー、やりますねー、今のと互角ですかー」
「互角……? キサンさん……俺、死ぬ程手加減してますよ」
「ふーん、ハッタリなんて私には通用しませんよー?」
そう言って、キサンは再び術を放つ素振りを見せた。
「やめてください……!! キサンさんを傷付けたくないんです、先生が悲しむやないですか!!」
「それが最後の言葉ですかー?」
キサンは両手を天に向け、高々と掲げた。キサンの頭上に禍々しい黒い炎の
「くっ……すんません先生、キサンさんを痛い目に
武光の言葉に、リョエンは沈痛な
「……ああ、妹を……止めてやってくれ」
武光とリョエンの視線の先では、キサンが口の端を吊り上げて凶悪な笑みを浮かべていた。
武光とリョエンが会話をしている間にも黒い炎の塊は徐々に大きくなってゆく。
「ごめんなさい、キサンさん……後で、ナジミが治療してくれますから!!」
武光は精神を集中すると、ゆっくりと息を吐きながら腰を落とし、バスケットボール大の空気の玉を持っている事をイメージしつつ、両手を前に突き出した。
「か……み……」
両手の間の空気の玉を、ソフトボール大に圧縮しつつ両手を右脇に持っていく。
「か……ぜ……」
武光の視線の先では、キサンが、成人男性が目一杯両手を広げても抱えきれない程の大きさの超特大の黒炎の塊を完成させていた。
「さぁ、覚悟はいいですかー?
黒き炎の塊は、あらゆるものを焼き尽くす、禍々しき炎の黒龍となって放たれた。対する武光も、キサンを真っ直ぐ見据えて、両手を前に突き出した。
「波ァァァァァーーーーーーーーー百万分の一ッッッ!!」
“ごおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!”
「そんな!? わ、私の黒炎龍が…………きゃあああああっ!!」
武光の放ったかみかぜ波は、まるでロウソクの火でも吹き消すかのように、黒炎龍を瞬時に消し去り、キサンを吹き飛ばして背後の石壁に叩きつけた。
石壁に叩きつけられたキサンがずるりと崩れ落ちる。
今までフルパワーでスカートめくりするのがやっとだった、かみかぜ波の真の威力 (の百万分の一・武光談)を目の当たりにして、ナジミ達は言葉を失った。
「先生!! キサンさんを!!」
「あ、ああ……!!」
「わ、私も!!」
武光に言われて、リョエンとダントがキサンの無事を確かめに走る。
〔「させるか……!!」〕
それを阻止しようと、ショウシン・ショウメイはリョエン達に襲いかかろうとした……だが!!
「『させるか』やと……? それはこっちの台詞じゃーーーーー!!」
床に落ちていたイットー・リョーダンを拾い上げた武光が超スピードで移動し、ショウシン・ショウメイの前に立ち塞がった。
金色のオーラに包まれた武光はショウシン・ショウメイを睨みつけた。とりあえずこれだけは言っておこう。
「オレはおこったぞーーーーー‼︎‼︎! フ◯ーザーーーーーッ‼︎‼︎!」
〔「ぬぅ……な、何者だフ◯ーザとは……?」〕
「いやー、せっかくやからな? ……とにかく!! これ以上、俺の友達の体で……好き勝手はさせへん!! 行くぞ……イットー!!」
〔ああ……行こう!!〕
武光はイットー・リョーダンをゆっくりと八双に構えた。
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