斬られ役、神木を説得する


 138-①


 武光達の前に、束帯そくたいに似た白い服を身に纏い、長い髪とひげを蓄えた老エルフが現れた。


 向かいあっているだけで自然と畏敬いけいの念を抱いてしまうような、不思議な雰囲気をまとった老エルフを前に、(仙人ってホンマにおったらこんな感じなんやろなー)とか思う武光であった。


「よくぞおいでくださった……わしはウィスドムと申します。自分で名乗るも烏滸おこがましいのですが、大賢者を務めております」

「は、はじめまして!! 唐観武光と申します!!」

〔その愛刀、イットー・リョーダン!!〕

〔同じく、魔っつんこと、魔穿鉄剣!!〕

「王国軍監査武官、ジャイナ=バトリッチと申します、ウィスドム様、お会い出来て光栄です」

〔ジャイナの剣、カヤ=ビラキと申します。あるじ共々、以後お見知り置きを〕

「術士のリョエン=ボウシンです」

〔ヤリカイ イチノ モテオトコ テンガイ トハ オレノコトダ!!〕

「で……あそこで木に挟まれてるのが……」

「うう……お初にお目にかかります。アスタトの巫女、ナジミと申します。このような格好で申し訳ございません……」


 エルフ達の長に対して、木に挟まって身動きが取れないという、間抜けこの上ない格好で挨拶あいさつする羽目はめになってしまったナジミは羞恥心で顔を真っ赤にしてうつむいた。


「これは……どうやら清心樹が巫女殿を中に入れるのを拒んでおるようじゃな。清心樹は……邪悪なる者を嫌う」

「そ、そんな……私、邪悪なる者扱いって事ですか!?」


 清心樹に邪悪なる者扱いされているらしいナジミは動揺どうようした。


「巫女殿……そなたが邪心を持つ者ではないという事は見れば分かる、だが……そなたに宿る邪悪なる力を清心樹が拒んでおるようじゃ」

「邪悪な力と言われても……私には心当たりが……いや……まさか、邪悪なる力って、私の癒しの力の事ですか!?」

「うむ……ソフィアから聞いたのだが、巫女殿はその力を使うたびに激しい苦痛に襲われているそうじゃな?」

「は、はい……」

「それは《清心樹の結界》の力じゃ……この森の中で邪悪な力を使うと、使った者は激しい苦痛に襲われる……」

「ご、誤解です!! 私の癒しの力は、傷付き苦しんでいる人達を救う人達を救うための力であって……決して邪悪なる力なんかじゃ……くふぅぅぅぅぅっ!?」


 問答無用と言わんばかりに、清心樹がナジミを締め上げる。


「いかん!! このままでは巫女殿が……儂が清心樹に巫女殿を解放するように話してみましょう!!」


 ウィスドムは目を閉じて清心樹にそっと触れた。


「ソフィア様、ウィスドム様は何をしておられるのです……?」


 リョエンの問いにソフィアが答える。


「大賢者様は今、清心樹と会話をしておられます。大賢者様は、様々なものに宿る魂と会話をする事が出来るのです」

「よ、よっしゃ!! ほんなら俺も!!」


 武光も、ウィスドムの隣に立ち、清心樹に触れた。


「……はじめまして、唐観武光と言います……はい……はい……そうです、ウチのドジ巫女を離してやってもらいたいんです……」


「た、武光さん……清心樹と会話しているというの!?」


 ソフィアは驚いた。大賢者ウィスドムと違って声がだだ漏れだが、武光が大賢者と同じように……清心樹と会話を始めたのだ。


「……いや、誤解ですって……あの子は神々が公式に認める程のゴッドオフィシャルドジですけど……優しいええ子なんです……えっ、いやいやいやいや……そんなんちゃいますってー、やめてくださいよめっちゃ照れるやないですかー……はい……そこをなんとか……邪悪かどうかは使い方次第やと思うんすよ……はい……はい……いえいえお代官様ほどでは……えぇーめっちゃ難しい問題やないですか…………僕はどっちかって言うたらイヌ派ですね……いや、ネコも好きですよ、あと牛丼はツユギリ派です!!」


「な、何の話を……!? ほ、本当に会話出来ているのかしら……?」


 武光が清心樹と本当に会話出来ているのか疑い始めたソフィアだったが、しばらくすると、武光の説得に応じるかのように、清心樹が捕縛していたナジミを解放した。

 ソフィアの視線の先では武光が清心樹に深々と頭を下げている。


「はぁ……はぁ……し、死ぬかと思った」

「大丈夫かいな、ナジミ」

「た、武光様……ありがとうございます……」

「可哀想に……締め上げられ過ぎて胸がペチャンコに……」

「わ、私が挟まってたのは腰の所ですっ!!」

「あ、ごめん……無いのは元々か」

「もー!! 何でそういう事言うんですか!? 武光様のアホ!! バカ!! いじめっこ!!」

「お前な……誰が絶世の美男子やねん!!」

「言ってません!!」


 そんな武光達の様子を見て、ウィスドムは目を見張った。


「凄い……まさか清心樹と会話出来るとは……それに、清心樹が爆笑するとは……儂も初めて見ましたぞ」

「フッ……これぞオオサカの民の持つ、人を笑かす特殊能力です!!」

〔いや、それは特殊能力とは言わんだろ〕

「しかし、清心樹と会話出来るだけでもかなり凄い事ですぞ」

「いや、それは俺が凄いんとちゃいますよ。異界渡りの書の『この世界の言葉を理解出来るようになる力』のおかげです」

「ということは……救世主殿は異世界から来られたと?」

「え? ええ、まぁ……」

「ふむ……まさかそんなに遠くからとは……まぁ、このような所で立ち話というのも礼を失する……続きは祭壇さいだんの間にて」

「あっ、ハイ!!」


 武光達は神殿の中央部……祭壇の間に案内された。

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