死神、詫びる


 117-①


 まさかロイ=デストが女性だったとは……リヴァル戦士団の四人は唖然とした。


「貴様ら……何を固まっているのだ」

「いえ、ロイ将軍がまさか女性だったとは……」


 リヴァルの言葉に他の三人も頷く。


「全く……揃いも揃って失礼な連中だ。こんな美人を掴まえて……」


(仮面の上からじゃ分かんねーよ……)


 プンスコと怒るロイを見て、リヴァル戦士団の面々は内心ツッコんだ。


「お前達を呼んだのは他でもない、唐観武光……奴ら、ショバナンヒ砦から姿を消したそうだな?」

「え、ええ……」

「お前達、奴らの行き先を知らないか?」

「……それを聞いてどうするつもりです?」



「いやなに……奴に礼をしなければと思っていたのだが……」



 それを聞いたリヴァル戦士団は即座に輪になり、ヒソヒソと小声で話し合った。


「お礼って……まさか!!」

「絶対《お礼参り》的なアレですよー!!」

「……うむ、間違いなくお礼参りだぞ!!」

「ええ、きっとお礼参りです、唐観さん達が危ない!!」


「聞こえているぞ、お前達……!!」


 ドスの聞いた声にビクリとしながらもリヴァルはロイに聞いた。


「武光殿を……どうするおつもりですか!!」

「どうするも何も……私はただ……」

「我が友に危害を加えようというのなら……!!」

「いや、だから私は本当に礼が……」

「例え将軍と言えど……!!」

「……ええい!! 鎮まれぃ!!」

「ぐはっ!?」


 ロイはリヴァルを一本背負いで地面に叩きつけた。


「私は本当にただ礼を言いたいだけだ……!! 勝手に参らせるな!! 何だ……その疑いの目は……!?」

「……フン、貴様のした事を考えれば当然だろう」

「そうですよー、それにまめ太と戦う前は、武光さんの事を臆病者だなんだって、あんなに見下して馬鹿にしてたじゃないですかー!!」


 抗議するロイに、ヴァンプが厳しく言い放ち、キサンもそれに続く。


「確かにな……私はあやつの事を、只の臆病者だと思っていた……が、それは違っていた。奴は……死の領域を踏み越えて本当に “死” を迎える寸前だった私を止めた」


 そう言って、ロイは笑った。


「限界ギリギリまで死力を振り絞った瞬間に叩きのめされたおかげで……私はついに囚われ続けていた死の領域を抜け出す事が出来た……奴はそれをきちんと計算しながら私と闘っていた。全く……大した男だよ。あれでもう少し顔が良ければれていたかもしれんな……いや、だからその目は何だッッッ!?」

「ぐはっ!?」

「……ぐぬぅっ!!」

「ひぃー!?」

「ぐへぇっ!?」


 ロイは四人の鳩尾に目にも止まらぬ速さで掌底を叩き込んだ!!


「言っておくがな……常に囚われ続けた状態でなくなっただけで、死の領域に出たり入ったりは今でも自在に出来るのだぞ……ぐぅっ!? き、傷口が……!!」


 それは……異様な光景だった。その場にいた全員が激痛でうずくまっている。


 ……五分後、落ち着きを取り戻したロイとリヴァル戦士団は改めて向かい合った。


「では、リヴァルよ……本当に奴の行方は知らぬのだな?」

「はい、残念ながら」

「隠し立てすると……命は無いぞ」

「ほ、本当に存じあげません!!」

「そうか……ならば仕方あるまい。それとな、今日お前達を呼んだのはそれだけではない……」


 そう言ってロイはリヴァル達を見据えた。



「お前達にも、詫びをせねばなるまいと思ってな……」



 それを聞いたリヴァル戦士団は即座に輪になり、再びヒソヒソと小声で話し合った。


「お詫びって……まさか!!」

「絶対に《お詫び参り》的なアレですよー!!」

「……うむ、間違いなくお詫び参りだぞ!!」

「ええ、きっとお詫び参りです、私達が危ない!!」


「……フンッッッ!!」


 ロイの掌底が、再びリヴァル戦士団に炸裂した。


「全く……勝手に参らせるなと言っただろう……ぐぅっ!? また傷口が……!?」


 それは、異様な(以外略)


  ……五分後、落ち着きを取り戻したロイとリヴァル戦士団は再び向かい合った。


「では、改めて……済まなかったな、お前達」


 ロイは、リヴァル達に頭を下げた。


「もう充分です、ロイ将軍。お気持ちは伝わりましたから」


 リヴァルは笑顔で答えたが、他の三人は不満げだ。


「……リヴァル、コイツを許すのか!?」

「そうですよー!!」

「この方のした事は……」

「良いさ、一番の被害者である武光殿が許したんだ。私は……彼の優しさを尊敬しているんだよ」


 そう言って、リヴァルは笑った。


「詫びの気持ちだ……アレをお前達にやる」

「アレはっ!?」


 そう言ってロイが指差したのは、台座に垂直に固定されたロイ愛用の斧薙刀グレイブハルバード、《屍山血河しざんけつが》だった。


「ああ、この国随一の刀匠、ジャトレー=リーカントが皇帝鋼を用いて造った斧薙刀だ。今の私には重過ぎてな……あれを振り回すと疲れる」

「そうですか……それでは有難く拝領致しますが……私は長物は不得手です。手を加えてもよろしいですか?」

「屍山血河はもうお前の物だ……好きにしろ」

「では、お言葉に甘えて……でやぁぁぁぁぁっ!!」


 リヴァルは台座の前に立つと、腰に帯びた剣を目にも止まらぬ速さで水平に振り抜き、再び鞘に納めた。


“ぽとり”


 直後、屍山血河が太刀打たちうちと柄の境目から上下に分かれ、リヴァルは床に落ちそうになった上の部分をキャッチした。

 リヴァルが太刀打の部分を柄の代りに握り、二度、三度と屍山血河を振るう。


「うん、やはり私には剣の方が向いています。それではロイ将軍、有難く拝領はいりょう致します」



 リヴァルは 屍山血河(の上の部分)を 手に入れた。



「それにしても凄い、これから先、とても心強いです……この《はがねのつるぎ》もそろそろガタがきていたので」

「何……!?」

「リナトの武器屋で特売をしていてたんですよ。通常の半額だったんですが……安物はやはりダメですね」


 ロイは目を見張った。


 この男……そこらの店で売っているような、はがねのつるぎで、屍山血河の柄を断ち切ったというのか。


「……リヴァルよ、次の行き先は決まっているのか?」

「はい、数日の間、ここで休息を取ったら、我々はこのまま南下して、魔王軍に占領された街を解放しつつ、魔王軍の本拠地、ジョン・ラ・ダントスを目指すつもりです」

「そうか……死ぬなよ」

「はい!! それではロイ将軍……失礼致します!!」


 リヴァルは笑顔で頷くと、仲間を連れてロイのテントを出た。

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