斬られ役、再び聖剣に問う


 112-①


「グオァァァッッッ!!」


 ザンギャクは武光を叩き潰すべく、横薙ぎに太い尻尾を振るった。


「……ぅおおおおおっっっ!!」


“スパンッ!!”


「グギャアアアッッッ!?」


 銀光一閃、裂帛れっぱくの気合いと共にさやから抜き放たれた刃は、鋭い斬れ味で、武光を叩き潰さんと迫るザンギャクの尻尾を見事に切り飛ばしていたが、武光は苦りきった顔をしていた。


「おい……お前の斬れ味はこんなもんちゃうやろ!! ……返事せぇや!!」


 武光は叫んだが、イットー・リョーダンは応えない。


「イットー……おい、イットー!!」

「グッ……て、テメェェェ!!」

「じゃかあしぃぃぃっっっ!!」

「うっ!?」


 武光にギロリと睨みつけられたザンギャクは思わず動きを止めた。


「今取り込み中や……すっこんどけッッッ!!」


 まただ、一体何なんだ……目の前の、自分より遥かに小さく、もろいはずの男が時折見せる迫力と威圧感は!?

 ザンギャクは拳をギリギリと握り締めると叫びを上げた。


「人間風情が……ふざけるなぁぁぁっっっ!!」

「くっ!?」


 ザンギャクが真っ向から振り下ろして来た蛮刀の一撃を、武光はイットー・リョーダンの切っ先の辺りのみねに左手を添え、頭上に掲げるようにして受け止めたが、前回の戦いの時よりも更に力を増したザンギャクの剛力の前に、またしても膝を着いてしまった。


「ハァ……ハァ……今回は邪魔は入らねえ!! 今度こそ真っ二つにしてやる!!」

「ぐっ……くっ……そおおおっっっ!!」


 凄まじい圧力を支えきれずに、武光の両腕が徐々に下がってゆく。

 絶体絶命の危機の中、武光は必死にイットー・リョーダンに呼びかけた。


「イットー……い、いつまで寝とんねんボケ!! お前……寝坊して相棒を死なすとか最低のウ○コ野郎やんけコラー!! ぐうううっ……!?」

「グワハハハハ!! どうした、もう終わりか!?」


 もはやザンギャクの蛮刀は武光の首筋に食い込む寸前にまで下がっている。


「え、選べ……!! 今すぐ飛び起きて俺と一緒に……コイツを……倒して……っ、これからも一緒に旅を続けるか……それとも……」

「くたばれ……モモタロォォォォォォォォォッッッ!!」


「……異名が……ウ○コ剣になるかッッッ!!」



“……すん!!”



「ウオッ!?」


 ザンギャクは思わず前につんのめって派手に転倒した。目の前の敵を両断せんと、渾身の力を込めて握っていた蛮刀がいきなり折れた……いや、切断されたのだ。

 武光は倒れ込んできたザンギャクの巨体を咄嗟とっさに横に転がって躱すと、片膝立ちになったまま、右手に握ったイットー・リョーダンを見た。


「い……イットー……?」


〔全く……もっとマシな起こし方はないの!? 聖剣である僕を脅すなんて、とんだ外道だよ!!〕


「へっ……俺はな……悪役歴が長いんや!!」


 武光とイットー・リョーダンはニヤリと笑った。


「さてと……」

〔ああ……〕


 武光はゆっくりと立ち上がると、イットー・リョーダンの切っ先を “ビッ!!” と、勢い良くザンギャクに向けた。


「……ぶった斬るッッッ!!」

〔……ぶった斬るッッッ!!〕


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