斬られ役、鬼将に挑む(前編)


 106-①


 混乱の隙を突いて、武光とリョエンは隠し坑道内に侵入してきたオーガ達を殲滅せんめつする事に成功した。


 武光は、今回も魔穿鉄剣の影響でテンションが上がりまくってヒャッハーしてしまったものの、前回のように、理性を無くし、限界を無視して血だるまになるまで暴れ回るという事は無かった。

 魔穿鉄剣自身が、使い手に流れ込んでしまう自分の意思を何とか制御しようとてくれているのだ。


「はぁ……はぁ……へへ……俺らも呼吸いきが合ってきたやんけ」


 そう言って、魔穿鉄剣に笑いかけている武光の元へ周囲の様子を探りに行っていたリョエンが戻って来た。


「大変です、倒したオーガ達の中に、あの金色の角のオーガは見当たりません!!」

「チッ、マズイな……行きましょう、先生!!」


 武光とリョエンは一目散に坑道内を駆け出した。

 今、ザンギャクの守りは手薄である。今ここでザンギャクを討ち取る事が出来れば、マイク・ターミスタを支配しているオーガ達を大混乱に陥れ、住人達を救出するチャンスが大幅に増える。

 だが……もしもザンギャクを取り逃がしてしまい、奴が複数の場所で今日と同じ事をするよう命じようものなら、今日のように捕まった全員を救出するのはハッキリ言って不可能だ。

 今まさにこの瞬間、武光達は千載一遇せんざいいちぐうの好機であると同時に危急存亡ききゅうそんぼうときを迎えているのだ。


「あの鬼野郎……絶対に逃さ……んなっ!?」


 元来た道を全力でひた走り、リョエンに先んじて、入って来た隠し坑道の入り口を飛び出した瞬間、武光は思わず足を止めた。


 ザンギャクは……逃げ出すどころか腕を組み、仁王立ちで武光達を待ち構えていたのだ。


「フン!! まさか……逃げずにおるとはな!!」

「逃げるだと? 人間一匹をひねり潰すのにどうして逃げる必要があるってんだ? てめぇ……楽に死ねると思うなよ!!」

「ええ事教えといたるわ……時代劇でそういう台詞吐く奴は9割方死ぬんじゃー!!」


 言いながら、魔穿鉄剣を正眼に構えた武光を見て、ザンギャクも分厚い蛮刀を構えた。


「来いよ……人間!!」

「おう!! 正々堂々……勝負じゃあああ!!」


“ばさぁっ!!”


「うおっ!?」


 『正々堂々』と言ったそばから、武光はふところに忍ばせていた豆をザンギャクの顔面に叩きつけ、ザンギャクが怯んだ隙を突いて襲い掛かった。これぞ《悪役殺法・鬼は外》である。

 めちゃくちゃセコいが、武光は微塵みじん躊躇ちゅうちょしていなかった。

 何ともみっともない戦い方ではあるが、みっともある戦い方をしていては、命がいくつあっても足りない。そういうのはヴァッさんみたいな強くてカッコイイ英雄のやる事だ。


「その首……もらったあああああっ!!」


 武光はザンギャクの脳天目掛けて、渾身こんしんの力を込めて魔穿鉄剣を振り下ろした…………だが!!


“ガキンッッッ!!”


「うおっ!?」


 何体ものオーガの首を落とし、角を容易くへし折ってきた魔穿鉄剣を……ザンギャクの金色こんじきの角は弾き返した。


 驚く武光を見てザンギャクはわらう。


「なかなか楽しませてくれるじゃねぇか……ええ!?」

「ケッ、俺はエンターテイナーやからな……死ぬほど楽しませたらぁ!!」


 内心めちゃくちゃ焦りながらも、武光は再び魔穿鉄剣を構えた。

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