聖剣、姿を現わす
97-①
次に戦えば、イットー・リョーダンは間違いなく折れる。
ジャトレーの言葉を聞いて衝撃を受けた武光は、乾いた笑いを浮かべた。
「いやいやいやいや、そんなアホな……冗談キツイっすわジャトレーさん」
「残念じゃが……儂の目に狂いはない」
「そ、そんな……おい、イットー!! お前も何とか言えや!!」
〔武光……その老人の言っている事は……恐らく正しい〕
「んなわけあるかい!! さっきかて、あのオーガをいつもみたいに……」
〔……本当にそうか?〕
「うっ……」
武光は先程の戦闘を思い返した。先程の戦闘でオーガを斬った時、確かに斬った時の感触がいつもと違った。いつもの “すん” という感じではなく、 “……ズバァァァッ!!” とか “……ザンッッッ!!” という感じだった。
「いやいやいや、アレは俺の調子が悪かっただけやって!! 実は50度くらい熱があったし、頭が割れそうに痛かったし、う◯こめっちゃガマンしてたし……」
〔嘘つけ、今日のお前は出会ってから今までで、一番動きのキレが良かった。自分でも分かっているだろう?〕
「……くっ」
「武光殿、この剣はもはや戦闘には耐えられぬ……じゃが、戦闘に使わなければ一緒に旅をする分には何の問題も無い。さっき、イットー・リョーダンを見させて
「は、はい……」
「本職の職人には及ばぬが……丁寧な仕事じゃ、魂がこもっておる。その剣、大事にしてやってくれ」
〔フン、我は聖剣イットー・リョーダンだ!! 戦いに散る事など
イットー・リョーダンの問いに、ジャトレーは
「分かりました。ですが、あまり遠くには行かれぬように……迷子になっては大変じゃ」
〔ああ、分かっている〕
97-②
武光とイットー・リョーダンはアジトの入り口から少し離れた所で壁に持たれて地面に腰を下ろした。
〔……武光〕
「……何や」
〔君にだけは本心を言っておく…………怖い、めちゃくちゃ怖いよ〕
「イットー……お前」
〔ふふふ……怖くて仕方ないよ。全く……誰に似たんだろうね?〕
「……さあな? 俺めちゃくちゃ勇敢やし」
少しの間のあと、一人と一振りは
〔……セイ・サンゼンの宿屋での事、覚えているかい?〕
「……お前を改装した時の事か?」
〔ああ、あの時僕は刀身に突き刺さった丸太を抜かないよう、君に頼んだ〕
「……そう言えば、そうやったな」
〔……抜いても良いよ、丸太〕
「いや、でもお前……あんなに嫌がってたやんけ」
〔今なら大丈夫〕
「……分かった」
武光は左手で刀身を覆う木の外装を掴み、右手でゆっくりと柄を引っ張った。 “ずずず……っ” という感触と共に丸太から引き抜かれ、姿を現わした刀身は……
〔
「お前……何で?」
〔セイ・サンゼンの時は……このボロボロの刀身を見られたら、また捨てられるんじゃないかと思って……怖かったんだよ。でも、今なら大丈夫。君なら……こんな僕でも大事にしてくれる〕
「けっ、そんなん当たり前やんけ……相棒」
〔そう言ってくれると思ってたよ……相棒〕
一人と一振りは笑った。
〔僕無しで……大丈夫かい?〕
「……何とかするわ」
〔そうか……それじゃあナジミ達の所へ戻ろうか〕
「せやな」
武光がイットー・リョーダンの刀身を再び木の外装に納めようとしたその時だった。
「ガアアアッッッ!!」
一体のオーガが突然現れた。
現れたオーガは、泥だらけで、異様に痩せこけている。恐らくこの坑道に迷い込んで抜け出せなくなり、何日も
極限状態が長く続いたせいか、すっかり理性が失われてしまっている。その血走った目には、武光が敵ではなく、肉の塊に見えている事だろう。
「嘘やろ……こんな時に!!」
逃げ出したい所だが、後ろはアジトの入り口である。逃げるわけには行かない。
「くっ……先手必勝っ!! 火術・火炎弾!!」
武光は、左手からリョエン直伝の火術を放った。火炎弾の直撃を受けたオーガが、炎に包まれ、崩れ落ちる。
倒れ伏したオーガを見下ろし、武光は息を吐いた。
「はぁ……はぁ……どや!! 俺もやるやろ?」
〔ああ、それじゃあナジミ達の所へ……危ないっ!!〕
「え?」
“……すん”
イットー・リョーダンに引っ張られて、右手が動いた。
その一撃は、突然立ち上がり背後から武光に襲いかかろうとしていたオーガを真っ二つに斬り裂いていた。
「い、イットー!? お前何しとん──」
武光は言葉を失った。イットー・リョーダンの刀身が……真ん中からボキリと折れていた。
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