騎士、再び吼える

 89-①


 守護神をたたえる舞を舞いながら、ミトは思っていた。


 これ…………絶ッッッッッ対に祈りの儀式なんかじゃない!!


 儀式が始まっておよそ30分……さっきからめちゃくちゃ虫が飛んで来る、本当にこれは武光が守護神の加護を得る為の祈りの儀式なのだろうか?

 自分達が今やっている事は祈りの儀式などではなく、本当はとんでもなく強力な虫寄せか何かの儀式ではないのか!?


 遠くで『さ、酸だー!!』という叫びがかすかに聞こえた。やはり何かがおかしい。

 ミトは儀式の一時中断を提案しようとナジミに視線を移したが、ナジミはまゆ一つ動かさずに粛々しゅくしゅくと儀式を続けていた。


 ……完全に儀式に入り込んでいる。普段のおっちょこちょいのせいですっかり忘れてしまっていたが、彼女はアスタト神殿という由緒ゆいしょある神殿を預かる巫女なのだ。


 ミトはおごそかに舞うナジミの姿に神々しさすら感じた。


「ナジミさん……綺麗……って言うか、カヤ……ナジミさん……光ってない!?」

〔え、ええ……めちゃくちゃ光ってます……!!〕


 ナジミの身体が神秘的な光をまとっていた。

 これが儀式の力なのか? だとしたら……ミトは思わず唇をんだ。

 あれほど、何があろうとひたすら儀式をやり続けなければならないと言われていたのに……自分は儀式の中断をナジミに持ちかけようとした。


 ミトは首をブンブンと横に振ると、負けじと舞を踊り続けた。


 89-②


 ショウダ=イソウは作戦会議室にて、突如として出現した魔蟲まちゅう達の対応に追われていた。一体何がどうしてなどと考えるひまも無い。次から次へと飛び込んで来る報告に対し、迎撃指示を出してゆく。


「ひ、東門が魔蟲の群れに突破されました!!」

「重装歩兵隊を向かわせる、何とか踏み留まれ!!」

「は……ハイ!!」

「み、南門が破られそうです!! え、援軍を……!!」

「テバンニの歩兵隊を向かわせる!! 何としても門を守り抜くのだ!!」

「わ、分かりました!!」


 伝令の兵が次々と現れては戻ってゆく。また一人、兵士がすっ転びそうになりながら部屋に入って来た。


「第二広場で巫女がしている儀式が──」


 それを聞いたショウダは、思わず兵士を怒鳴りつけた。


「馬鹿者!! 今はそれどころではない!! 侵入してきた魔蟲共を迎撃──」

「……あの巫女達の儀式が魔蟲を呼び寄せている模様です!!」

「今すぐやめさせろおおおおお!!」


 89-③


「い……いたぞーーー!!」

「将軍、こちらです!!」


 ナジミとミトが儀式を続けていると、第二広場にショウダが兵士を引き連れて現れた。三十名程の兵士がナジミ達をぐるりと取り囲む。


「貴様らーーー!! 今すぐその怪しげな儀式をやめろおおおおお!!」


 叫ぶショウダを見て、ミトはあせったが、この儀式の成否は、今頃巨竜と戦っているであろう武光の命に関わるのだ。武光を護る為にも……今ここで儀式をやめるわけにはいかない!!

 ミトはショウダの警告を無視して儀式を敢行かんこうした。


「ええい、力ずくでやめさせてくれる!! ……行け」


 ショウダの命令で二人の兵士が、踊り続けるナジミとミトに近付いた。


(ダメ……儀式を妨害されたら……あのバカが……武光が……っ!!)


 ミトは泣きそうになりながらも必死で舞い、歌い続ける。

 兵士達がミト達を取り押さえようと手を伸ばしたその時だった。


「ぬぅおあああああああっ!!」


 突如として現れた影が、体当たりで兵士達を弾き飛ばした。


「あ……貴方は!?」


 ミトはその大きく、力強い背中に見覚えがあった。


「大丈夫ですか……姫様!!」

「……ベン!! ベン=エルノマエ!!」


 駆け付けたのは、意識を取り戻したベン=エルノマエだった。


「ベン、お願い……私達を守って!!」

「かしこまりましたなんだな!! ぬぅおああああ!!」


 ベンは笑顔で頷くと、近くに立っていた細い木に近付きみきを掴むと、凄まじい怪力で引っこ抜いた。

 3mはあろうかという木を薙刀なぎなた代わりに構え、心優しき騎士はあるじを守るべく再びえた。


「ここから先は……アリの子一匹通さねえ!!」

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