攻城編
勇者、死神と対峙する
62-①
武光達がリザードマンの軍団と妖姫ヨミを激闘の末撃退し、武光がナジミに八つ当たりジャーマン・スープレックスで意識を飛ばされたり、リョエンがサリヤに日頃の生活習慣についてボロカスに怒られたりしているその頃、クラフ・コーナン城塞奪還に向けて作戦準備が進められているクツーフ・ウトフ城塞にて、リヴァル=シューエン率いるリヴァル戦士団は新たに参陣した将軍、ロイ=デストから呼び出しを受けていた。
ロイ=デストは《白銀の死神》の異名を持ち、ロイの率いる第十三騎馬軍団……通称《
ロイ=デストに呼び出されたリヴァル・ヴァンプ・キサン・ダントの四人はクツーフ・ウトフ城塞の敷地内にある練兵場にやって来た。
……異様な軍勢だった。彼の軍勢は、すぐ近くに城があり、クツーフ・ウトフ城塞が収容出来る兵数にはまだまだ余裕があるにも関わらず、何故か城の外にテントを張って野営をしていた。
そして……野営をしている兵士達は皆、目にギラついた異様な光を宿していた。
デスト軍団の野営地を見てキサンは
「うーん……このテントの配置、一見適当にテントを張ってあるように見えて、どの方向から攻撃を仕掛けられてもすぐに応戦出来る配置ですねー、
「……それに、ここにいる兵士達は皆、一見しただけで一人一人が相当な強者というのは分かるが、それだけじゃない、彼らは皆……生きながらにして《
「し、死兵? 何です、それは?」
ダントの質問にヴァンプが答えた。
「……お前も監査武官として戦場を見て回っているのなら、見た事があるのではないか? 追い詰められ、死に物狂いになった人間が、限界を超えた異常な力を発揮する所を」
「え、ええ……」
確かに、ダントは戦場でヴァンプの言うような場面を見た事がある。だが、大抵の場合、それは
そして……ダントは見てしまった。死力を完全に振り絞り切ってしまった者は、力尽き……本当に死んでしまうという事を。
「……俺の見た所、連中は、その《死の領域》に、自分の意志で入れるようだ……それも常人では考えられない程の長時間な」
「全く、《冥府の群狼》とはよく言ったものですよねー、もちろん『敵を冥府に送る』っていう意味なんでしょうけどー、『既に自分達が半分冥府に立っているようなもの』なんですからー」
「三人共、着いたぞ」
先頭を歩いていたリヴァルが一際大きなテントの前で足を止めた。
テントは直形約10m、高さ約3m、十人程が入っても余裕がありそうな程大きな物で、武光の世界の物で例えるならば、モンゴルの移動式住居に似ている。
リヴァルがテントの前で声を張り上げる。
「リヴァル戦士団、リヴァル=シューエン以下四名、お
「……よく来た、入れ」
テントの中からくぐもった低い声がした。が、リヴァルは微笑を浮かべながら、首を左右に振った。
「ロイ=デスト将軍ともあろうお方が……お
「ふふふ……」
次の瞬間、テント越しにリヴァル目掛けて左右から二本の槍が突き出されてきた。右から突き出されてきた槍の穂をリヴァルが剣で斬り飛ばし、左から突き出されてきた槍を、ヴァンプが槍の
「……一体何の真似だ!!」
突然の凶行にヴァンプが声を荒げたが、幕の向こうの声は笑って答えた。
「さっき、お前達の
何が戯れなものか、さっきの攻撃は明らかにリヴァルを殺す気だった。ヴァンプは握り締めている槍をへし折った。
「では改めて言う……入れ」
「承知致しました」
リヴァル達はロイ=デストの待つテントの中に入った。
62-②
中で待っていたのは、先程槍を突き出してきたであろう二人の兵士と……異様な
鈍い光沢を放つ銀の鎧に、紫色の
「良く来た……私がアナザワルド王国、第十三騎馬軍団・軍団長ロイ=デストである」
「お目にかかれて光栄です。リヴァル戦士団のリヴァル=シューエンと申します」
「同じく、キサン=ボウシン」
「……ヴァンプ=フトー」
「リヴァル戦士団付監査武官、ダント=バトリッチと申します」
ロイはリヴァル戦士団の面々を品定めするように見た。
「ふむ……お前達か、
「はい」
「リヴァルと言ったな……どうだ、我が配下に加わる気は無いか?」
「ロイ将軍……
「何だ?」
「すぐそこに城があるというのに、将軍の軍は何故野営を?」
「我らは常に飢えた狼であらねばならぬ。温かな食事……快適な寝床……そのようなものは爪や牙を
「なるほど、ではもう一つお聞かせ願いたい……将軍は何の為に戦うのです?」
「民を守る為……とでも言えば満足か?」
「違うのですか?」
リヴァルの問いに対し、ロイはふふふ……と含み笑いをした。
「……私はな、死の世界から戻ってきたいのだよ。私はあまりにも多く、あまりにも長く死の領域で戦い続けた為に、いつしか死の領域から抜け出せなくなってしまった。ここから抜け出すには限界まで死力を振り絞る必要がある。しかし、戦えども戦えども私に限界まで死力を振り絞らせる程の敵はそうそうおらぬ……どうした? 不服そうだな?」
「ええ、戦士たる者、力を振るって良いのは弱き者を助ける為だけです」
「私には……力を振るう大義が無いと?」
「はい。申し訳ありませんが……私は狼にはなれそうもありません」
「……そうか」
次の瞬間、リヴァルの首筋にはロイの
「……お前が敵じゃなくて残念だよ」
「失礼致します」
そう言って、リヴァルは剣を鞘に納めると、仲間を引き連れテントを出て行った。
「……若造が、将軍に対し何と無礼な!!」
「おうさ!! 腕の一本でも落としてくれる!!」
テントの中にいた兵士はいきり立ったが、ロイはそれを片手で制した。
「良い、放っておけ」
「しかし……!!」
「あの者……中々の強さだが、狼の群れに……獅子は要らぬ」
62-③
持ち場に戻りながらリヴァル達はロイについて話していた。
「それにしても、とんでもない人でしたねー!!」
「……全くだ。奴の行動は常軌を逸している!!」
「ああ、私も怖くてたまらなかったよ」
そう言って、リヴァルは笑った。
「王国最強と名高い将軍から仕官のお誘いを頂けたのは光栄だが……私はあの方の下では働けないなぁ」
「やっぱり温かい食事と暖かいベッドは欲しいですよねぇー」
「……あと、美味い酒もな」
キサンとヴァンプは互いの顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
そうこうしているうちに、リヴァル達は持ち場に戻って来た。
「我々は当初の予定通り、この決戦兵器の護衛任務に当たる」
リヴァルは上を向いた。視線の先には……巨大な新兵器があった。
新兵器の形状は、簡単に言えば、『どデカイ円形の台座にどデカイ筒が載っている』という物で、筒の長さは15m近くあり、人間がすっぽりと入りそうなほど太く、筒を支える
新兵器を見上げていたリヴァルは側にいたダントに聞いた。
「ところでダントさん……これは一体どういう兵器なんです? 投石機……とも違うようですが……」
「私も技術的な事は分かりませんが、あの巨大な筒の根元で火術を用いて大爆発を起こし、その反動を利用して、特殊加工を施した弾を打ち出すのだそうです」
ダントは手元の資料を見ながら説明を続けた。
「知っての通り、クラフ・コーナン城塞は現在、魔王軍が建造した塔から発せられる結界によって半径半里 (=およそ200m)が半球状の結界に覆われています。その結界というのが非常に
「確かに……それは厄介ですね」
「しかも、それだけではありません……どういう仕組みかは分かりませんが、結界の内側からの攻撃は結界を通り抜ける事が可能なのです」
「つまり……こちらは敵の結界内部に突入するまで、一方的に敵の矢や術の攻撃に
「ええ……ただ、弱点もあるようで、この結界は矢を防ぐ事が出来ても、どうやら岩などの大質量兵器は防ぐ事が出来ないようなのです」
「……が、投石機では機動力があまりにも低いと」
ヴァンプの言葉にダントは頷いた。
「ええ、確かに投石機による攻撃ならば塔を破壊する事も十分に可能でしょう。しかし、投石機の有効射程内は結界の内側です。足の遅い投石機をそこまで破壊されずに運搬するのは至難の業でしょう……そこで登場するのがこの新兵器です」
そう言って、ダントは新兵器を指差した。
「資料によれば、この兵器は投石機のおよそ三倍もの射程を誇り、破壊力も従来の投石機とは比べ物にならないという事です」
「つまりー、この新兵器で結界の範囲外から塔をぶち抜くって事ですかー?」
「キサンさんの言う通りです。ただ……この兵器は専用の弾が必要との事で、製造が間に合ったのは……三発だけです」
『弾は三発しかない』というダントの言葉にリヴァル達は顔を見合わせた。
「たった三発……」
「も、もし外したりしちゃったらー……」
「……いや、それ以前に本当に資料通りの威力を発揮するのか?」
そこまで言った所で、三人は同じ人物の顔を思い浮かべた。
「なるほど」
「保険という事ですかー」
「……俺はどちらも今一つ信用出来んがな」
「まぁ、そう言うなよヴァンプ。ところでダントさん」
「はい」
「この新兵器の名は?」
「……決戦兵器、《破壊神砲》です」
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