姫、乱入する
8-①
武光が、アナザワルド城内にて内心ビビりまくりながら国王に拝謁しているのと同時刻、アナザワルド城内の姫の間で、
歳の頃は15~16、美しく艶やかな金髪と、快活ながらも気品のある顔立ちをしたこの少女こそ、何を隠そうアナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドであった。彼女のエメラルド色の美しい瞳は、決意の炎に燃えていた。
今日こそは父、ジョージ=アナザワルド3世の首を縦に振らせるのだ……と。
ミトは、
「お父様……今日こそは私の願いを聞き届けて頂きます!!」
ミトは勢い良く自室の扉を開けて、父や将軍達のいる謁見の間に向かった。
『触らぬ神に祟りなし』というのはこの世界でも同じらしい、甲胄姿で廊下を足早に歩いてゆくミトを見て、使用人やメイド達はギョッとしながらも、何も言わずにそそくさと道を開けた。
程なくして、ミトは謁見の間の前までやって来た。
この扉の向こうでは、アスタトの巫女が異世界から連れて来た戦士が父に拝謁しているという……父に一言物申す前に、異世界から来た戦士とやらがどのような者か確認してやろうと思ったミトは、
……『芋くさい』というのが、ミトの武光に対する第一印象であった。
おかしな座り方で父と対面している男は、自分の身辺警護を任されている騎士達と比べて、実に地味であった。
自分の周りの騎士達は様々な工夫を凝らした華美な衣服を身につけているのに対し、男は “洗練” などという言葉とはまるで無縁の紺一色の衣服を着て、黒のロングスカートのようなズボンを履き、飾り気のないノースリーブの白い上着を羽織っている。男の
ただ……あの凄まじい威圧感を持つ父と対面して、堂々とした態度を崩さないのは周囲の騎士達には無い胆力だとミトは思った。
それでもなお、ミトは
将軍達や大臣からひとしきり質問が終わったあと、父は念を押すように言った。
「魔王の討伐を果たせるか!?」
その問いに対し、異世界から来た男は、部屋中に響き渡る程の大声で応えた。
「屁のつっぱりはいらんですよ!!」
……言葉の意味は分からないがとにかく凄い自信だ。男の力強い返答に対し、王が大きく頷いた。
「良かろう。異世界の戦士武光、アスタトの巫女ナジミ、そなた達に魔王討伐の任を──」
(マズイ!! このままでは……!!)
「お待ちなさいッッッ!!」
ミトは勢い良く扉を開けて、謁見の間に乱入した。
8-②
武光はギョッとした。もう少しでこの危難を乗り越えられそうだと思っていたら、西洋風の甲胄を身につけた少女がいきなり乱入してきたのだ。
武光は乱入してきた少女にキッと
(ええー、何かめっちゃ睨んでくるやん……っていうか誰やねんコイツ)
武光は隣に座るナジミに小声で話しかけた。
「自分といい、あの子といい……アナザワルドでは乱入すんのが流行ってんのか!?」
「べ、別にそういうわけじゃ……って言うか、あ……あのお方はっ!?」
「知ってんのか?」
「知ってるも何も、あのお方は、アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルド様ですよ!!」
「えっ!?」
武光は乱入してきた少女と玉座に座るアナザワルドを交互に見比べた。あの
「……何の真似だ、ミトよ?」
二人がヒソヒソと話していると、アナザワルドがミトに声をかけた。その声は、父が娘にかけるようなものではなく、主君が家臣にかけるような厳しいものだった。
ミトは一瞬たじろいだが、強い口調で言った。
「お父様……このような、どこの馬の骨とも分からぬような者よりも、この
ミトの口から飛び出した勇ましい言葉に武光が驚いていると、ナジミが小声で話しかけてきた。
「ミト様は、ああ見えて剣術の才がお有りで、城下で開かれた剣術大会にお忍びで参加して優勝しちゃった事もあるんですよ」
「……マジか」
「ハイ……マジです」
「……ならぬ!!」
大声一喝、声を荒げたアナザワルドに、武光とナジミ、部屋に居並ぶ将軍や文官達は思わず身震いしたが、ミトは尚も食ってかかる。
「何故です!? 魔王の討伐は、古の魔王を討伐した初代国王……《古の勇者》の血を受け継ぐ者の使命です!! こんな田舎者に魔王を討ち取れるわけがありません!! どうせ
ミトの言葉を聞いた武光とナジミはギクリとした。それはもうギクリとした。
斬られてばかりとは言え、俳優の端くれ……武光は表情にこそ出さなかったが、ナジミは今にも吐きそうな顔をしていた。
(あかーん、めちゃくちゃあかーん!! 助けてぇー四ツ橋さーん!!)
心の中で、尊敬する先輩に助けを求めてみたが、返事は返ってくるはずもなく……武光が困り果てていると、突然ミトが武光を指差した。
「……ではこうしましょう。私があの者に勝ったら、あの者の代わり私に魔王討伐をお命じ下さい!!」
「は?(いやいやいやいや、何言うてんのコイツ、アホちゃうか!?)」
ミトの口から出た突拍子もない言葉に、アナザワルドも呆れ顔だ。
「ミトよ、何を申すか」
(よっしゃ、もっと言うたらんかい、オトン!!)
「
(処刑て……やっぱり親子やんけこいつら!!)
「…………良かろう」
「おとーーーーーーーーーん!? あっ、いえ何でもありませんっ!!」
その身に流れる大阪人の血が発動し、武光は思わずツッコんでしまった。しかし、大阪人でなくともツッコミを入れざるを得ない事態である。
武光の身に、アホみたいな量の火の粉が降り掛かろうとしていた。
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