古田が死ぬまで

危ない友人(6月14日)

「バンギャって知ってる?」


「なにそれ?」


 いきなり、バンギャとか謎の単語を喋ったのは、僕のオタク友達の古田浩二ふるたこうじだった。


 彼の特徴をあげると、『デブで、ニキビ面で、メガネ(僕もか)』の三拍子が揃ってる男子だ。

 間違いなく、女子受けは悪い。


 全体的に脂ギッシュな古田くんは、たびたびアブラムシと呼ばれるけど。これが女子に言われると、古田くんはあんまりイヤそうではない。


 で、古田くんは何やら自前のカメラを弄りながら、モニターを僕に見せてくる。


「バンドギャルの略だよ」


「へえ」と、それ以外の反応が分からない。


 だって、バンドなんか興味ないもの。

 なんとな~く、怖いイメージしかなくて、近寄りがたい。

 興味がないはずの僕が、モニターに映ってるバンドに注目したのは、ある理由があった。


 モニターから、ツーっと斜めに視線をずらす。


「……ねえ。これって、ひょっとして」


「ん? ふふふ」


 意味ありげな笑いだった。

 モニターにはステージで歌ってるギャル風の女子が写ってる。


 金色のザンバラな髪。

 長さはミディアムくらいかな。

 色白でスレンダーな女子だ。


「はぁ、……ライブとかクソだけどさ」


 写真は何枚も撮っているようだった。

 写真に写ってるその子は、青いピアスに青いリップをしている。

 僕からすれば、唇一つでも十分派手なメイクだ。


「女子はちょ~可愛いよな。付き合いたいなぁ」


 特徴的なピンク色のメッシュ。

 クリクリとした目。


「古田くん。これ、OKなの?」


 思わず、聞いてしまった。

 だって、同一人物が同じクラスにいたからだ。


 今、まさに斜め向かいで机に座り、友達と会話を楽しんでる女子。

 きっと、この子だろう。


「何が?」


「あ、いや、……本人と、その、知り合いだったり?」


「ううん」


「ステージとか、写真撮ってもOK?」


「みたいだよ。何も言われなかったもん。ま、アールのステージ終わったら、ソッコー帰ってきたけど」


「あーる?」


 R指定のことかな?


 あ、ていうか古田くん声デカすぎ。

 うわ、こっち見てるよ。


「理香ちゃんのバンド名だよ。ふふ。他にも可愛い子が二人いてね」


 や~め~て~っ!

 キモッち悪そうにこっち見てんだって。


 古田くんって、学校で話す分にはいいんだよ。

 僕は友達がいないから助かってるし、同じアニメ好きはとても貴重だ。


 でも、古田くんは性格に問題点が多すぎる人だ。


「手振ったら、微笑みくれるし。マジ天使っ!」


 何より、声のボリュームがデカい。

 僕は自然と頭が下がって、理香とかいうクラスメイトと目が合わないようにしていた。


 その目が、痛いのなんの。


「およ? どした、大野くん?」


「ん? ちょっと、生理痛が……」


「ぶふっ! チミは男だろうが~いっ!」


 うわ、これ、もう、……殴られるんじゃないか?


 件の女子を見る。


「うっ」


 目が合った。

 唾を飲む音も聞こえそうなくらい、僕は緊張していた。

 なるほど、バンギャね。


 僕とは相容れない存在ってのは確認した。


 その後も、古田くんはデカい声で、アールとかいうバンドの話をしていた。


               ζ


 放課後。

 僕は古田くんの掃除が終わるのを、教室前の廊下で待っていた。


 きっと、今ごろトイレ掃除を一人でやらされてるだろう。

 何てことはない。

 他の人たちは、古田くんに掃除をやらせて部活なり、遊びなりに出かけたんだ。


 僕も、たまに一人でやってるしね。


 スマホで今日のアニメ放送をチェックしていると、ガラガラ扉の開く音が前から聞こえた。


「うげっ」


「ん?」


 なんとか理香さんだった。


「……」


 だって、苗字なんかいちいち覚えてないもん。

 背中を向けて、窓ガラスを見つめる。

 ガラスには反射で映った自分の間抜けな顔が。


 チビでメガネで、リュックを背負ってる男子。

 いかにも、が僕だった。


「ねえ」


「今日は、マジカルジャンヌが……」


「……おい」


「あ、っはい」


 こわ。

 アニメ放送の一覧チェックしてただけで、睨まれるって何だろう。


「大野さ。古田と仲良いんでしょ?」


 名前を憶えててくれたことに、ちょっと感動してる僕。


「まあ、それなりに」


「付きまとうの止めてって伝えてくれる? ちょ~迷惑」


 それだけ言うと、うんざりした様子で行っちゃう。


「分かりまし……」


 で、思ったのよ。

 付きまとう?


 あの様子からして、僕に敵対心はないと見ていいかも。

 それどころか、本気で迷惑してる感じで、僕に伝えてきたし。

 教室でも睨んではきたけど、面と向かっては言ってこなかった。


 どういうことなんだろうって考えていると、いきなり肛門に衝撃が走った。


「うぇーいっ!」


「いでっ! ちょ、止めてよ! いきなりカンチョ―とか心臓に悪いって!」


「ふん。これはジェラシ―ゆえの指ズッポンさ!」


 んだよ、指ズッポンって。

 どうして、イヤらしい言い方なんだ。


「理香ちゃんと何話してたの?」


 しかも、見てたのかよ。


 本当のこと、話していいか迷う。

 僕の頭には古田くんがストーカーしてんじゃね? って考えがグルグル回ってる。


 やっぱり、よそう。


「あ、もしかして、密会の話かなぁ?」


「古田くん。あんまり、女子に付きまとうのは感心しないよ」


 僕は、友達がいのない奴かな。

 イラっときて、本当のことを面と向かって話してしまっていた。


「さっきの子さ」


「牧野里香」


「へ?」


「フルネーム。さっきの子とか失礼すぎ! 名前覚えようよ」


 うわ、もう、古田くんムカつく。

 僕ね、他に友達いたら、古田くんとは話してない。

 そういうダークなことを過去に何度も思ったことがある。

 そして、今も。


「とにかくさ。牧野さん、ちょっと迷惑がってたから、付きまとうの止めてあげたら? バンドやってるとか、怖すぎ。柄の悪い人に絡まれたら、古田くんがヤバいんだよ?」


「だが、断る」


 ……ちょっと。


 古田くんは、こういう男子なのだ。

 だから、女子からも気持ち悪がられていて、一緒にいる僕もウジウジ野郎として見られているから、ほぼ同じ扱いなわけ。


 何もなければいいんだけど。

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