第1章 ソウヤ、ジヨウ、クロー、レイファ 「主役はオレだぜ!」 4
後方に流れていった多弾頭ミサイルがレーザービームで誘爆する。その衝撃で、激しくビンシー6の機体が揺さ振られる。
『撤退しよう、ウェンハイ。このままじゃジリ貧だ!』
「いいや、このまま突っ込んで、要塞に取りつくしかねー」
『このままじゃムリだって! どこに突っ込むんだよ?』
「くっそー!」
『一旦ひいて考えよう。このままじゃ、撃墜されるだけだ』
「・・・・・・わかった」
確かに、頭に血がのぼっていて冷静さを欠いていたようだ。
ジヨウチームとの遭遇戦でゾンギーが撃墜された。次にトリプルアローから突然で、まったくの予想外の攻撃に翻弄され、ただ逃げ回っているうちにエンラまで失ったからだ。
ズンサンの提案にのって撤退しようとしたが、時は既に遅きに失した。
トリプルアローから撤退する機動をとる前に、ズンサン機が消滅しからた。
四方からのミサイルを迎撃しつつ回避運動しているところに主砲が直撃し、跡形もない。残されたウェンハイチームは、ウェンハイ1機となった。
ウェンハイは、せめて一矢報いるべく、トリプルアローに特攻することを決意した。その刹那。
『よう、ウェンハイ。助けてやるぜ。トリプルアローの対宙砲火を止めてやる』
ソウヤからのオープンチャンネルによる通信の直後、激しかった対宙砲火が止んだ。
オープンチャネルは音声だけで映像がないが、ソウヤの声に間違いない。ウェンハイは、唖然とした表情を浮かべつつもオープンチャネルでソウヤに呼びかける。
「ソウヤ・・・か? どういうことだ・・・」
『助けてやったんだ。まずは礼を言うべきだぜ、ウェンハイ』
「オメーが止めたっていう証拠はねーな」
『おいおい、あのタイミングで疑うのかよ。オレたちがコキンマルチームを撃破したから、トリプルアローの攻撃は止まったんだぜ』
サブディスプレイで確認すると、確かにコキンマルチームが全滅していた。
「それは証拠にならねぇーな」
『疑り深い男は嫌われるぜ。ほら、か・ん・しゃ・しろよ』
悔しいが、ソウヤが・・・ジヨウチームが関与しているには違いない。そして救われたことを事実だ。仕方ない・・・。
「・・・よくやったじゃねーか。褒めてやる」
『それが礼かよ。まっ、いいけどさ・・・。じゃあ、死ねや!』
「はっ?!」
ビンシー6の広域警戒防御システムの範囲外にある、トリプルアローの主砲4門から光の矢が放たれた。暗闇を切り裂いた光の矢が、ウェンハイ機を4方向から呑み込んだ。
「なんだ!!」
ウェンハイには、事態が全く飲み込めていない。
『撃破したから、テメーの声は聞こえないけど。まあ、喚いてんだろうな。仕方ないから解説してやるぜ』
ソウヤの悦に入った声が聞こえてくる。
『テメーたちとの戦闘の後、オレたちはアローから潜入したんだ。そこで、トリプルアローのネットワークにアクセスしたらよ。コキンマルチームが中央コントロールルームを制御下において、テメーらを攻撃してんじゃないか。それで・・・』
『ちょっと待て、ソウヤ。ネットワークにアクセスしたのは俺だろ』
『ジヨウ、今イイとこなんだから待てって・・・。格納庫から対戦艦攻撃用のミサイル4発を持ち出して、中央コントロールルームに叩き込・・・』
『発射設定して、叩き込んだのは我だぞ』
『うるさいぜ、クロー』
『ミサイル見つけたのは、ウチだよ~』
『叩き込もうって提案したのはオレだぜ!』
ソウヤは強く言い放ってから、3人に喋る暇を与えないよう早口で捲し立てる
『とにかくだ。オレらは中央コントロールルームにミサイルをぶち込んで、コキンマルチームを潰した。次にオレらは、サブコントロールルームでトリプルアローを制御下においたんだよ。中央コントロールルームをブッ飛ばした時は、砲火が停止するかと思ってたんだけど・・・トリプルアローは、そんなチャチなシステムじゃなかったみたいで、オメーらへの攻撃は止まなかったんだ。そんで、しばらく見物してたけど、テメーが中々しぶてーから、ちょっと揺さぶったって訳さ。戦闘中だったてのに油断したなぁ、ウェンハイ』
『愚かだな、ウェンハイよ。ソウヤは悪巧みの天才だぞ。そのソウヤに気を許したのが、貴様の敗因だ。我なら、戦闘中に一瞬たりとも気を抜かぬぞ』
『そうだよね~。ホント、ソウヤは悪巧みが上手だよね~』
『それ、褒めてないぜ! 悪人かよ、オレはっ!』
「だましやがったな、クソヤロォオォォーーーーー」
ウェンハイは、ソウヤたちに聞こえないとは分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。
『最後に言っておく。騙されるバカなテメーが愚かなんだぜ、ウェンハイ」
ソウヤの哄笑がウェンハイのゲーム機内に響く。その笑い声は、まさに悪人のものであった。
拳を握りこみ、怒りに震えた筋肉ダルマは上を向いて、大声で決意を放った。
「明後日、道場でボコってやるかんな! 覚えてろよぉおぉぉーーー!」
突然、クローたちのコクピットに聞いたことのない声が響いた。
『私はノイマンチームのリーダーのノリである。ジヨウチームに告ぐ。正々堂々と勝負せよ。このゲームは、ビンシー6同士の戦闘を醍醐味にしている。卑怯な戦法で、卑劣なる勝利を手にして嬉しいのか? 君たちはコキンマルチーム全員を騙し討ちで全滅さしめた。それは恥ずべきことである。その恥を雪ぐチャンスを君たち与えてやろう。トリプルアローから退去し、いざ、尋常に勝負せよ』
クローは相手の性格を見定め、気持ちを押し量っていた。
オープンチャネル通信は映像がないので、どこの誰かは判らなぬ。それでも、ソウヤたち以外はノイマンチームしか残っていないから、ノイマンチームの誰かであることは確実であるな。うむ、チームリーダーのノリであろうがなかろうが、そこはどうでも良いだろう。
『なに考えてるんだろうね~?』
レイファは正面から批判をせず、甘い声音を奏でた。
だが、ジヨウたちは違う。正面から批判する。
『負けそうだから心理戦できたんだろ。バカな奴だな』
『賞金かかってるからよ。ヤツらも必死なんだろうぜ』
当然、オープンチャネルも開いたままだ。
『ジャンケンで負けると、3回勝負とか言い出す奴だな。10歳ぐらいまでは、学校で良く見かけたタイプだな』
クローも思うところを口にする。無論、相手に聞かせる為の台詞だ。
「うむ。正々堂々とか言いつつ、後付けでルールを設定する輩か・・・。確かに良くいたぞ」
『それによ。恥を雪ぐチャンスとかって、ヤツらとコキンマルは全く関係ないぜ』
『そうだよね~』
レイファが首を傾げながら同意した。しかも、相手に聞こえていると知った上で会話に加わっているので、ソウヤたちと同類である。
同類なのに敵意を向けられないのは、“みんなの妹”といわれるレイファならではだ。
『それにしても、理論的でないバカを相手にするのは面倒だな。少なくともウチのバカは、2人とも理屈は理解できるからな。説得には時間がかかるが・・・』
ジヨウは相手チームに聞かせるため、ワザと大きなため息を吐いた。
ソウヤが嘲るような口調で、ジヨウに続く。
『ヤツらはホントにバカかよ? オレらがトリプルアローから出て、戦うと思ってんのか? こんなことしてる間に、トリプルアローの攻略作戦でも考えるべきだぜ。・・・それより、バカ2人とは誰のことだよ、ジヨウ』
「まあ、我に任せるがよい。奴らの狙いをハッキリさせ、バカは1人だと証明してやるぞ」
クローが自信たっぷりに言い切った。交渉役を自認しているクローだが、彼の交渉術には、相手をバカにするという余計な成分が添加されていたりする・・・。
ソウヤが食って掛かってきているが、それを無視して、クローはノイマンチームに語りかける。
「ノイマンチームよ。貴様らはビンシー6同士で対決がしたいのか? それならば、我らもトリプルアローから出撃して戦う事に依存はないぞ。ただし、現時点でゲームの勝敗は誰の目にも明らかである。そう、我らの勝利しかあり得ない状況なのだ。故に、貴様らノイマンチームが勝利しても、賞金は全額我らに渡すが良い」
オープンチャンネルは開いているのだが、ノイマンチームからは沈黙しか返ってこない。
「どうしたのだ? 難しい話ではないぞ」
『恥ずかしくはないのか。正々堂々と勝負しろ』
「貴様は勘違いをしているぞ。この大会は、優勝したチームが賞金を得られるプロゲームズなのだ。いや・・・勘違いしている振りをしているだけか・・・。この愚か者よ」
帝国ではプロのゲーマーが活躍する各種の大会が存在する。それらの中でもこの大会は、毎週開催されることといい、賞金額といい、破格の条件であった。
『御託はいい。いざ、尋常に勝負しろ』
「貴様は、勝負などどうでも良い、賞金が欲しいから、自分達の不利な立場を何とかしたい、と。我はそう理解したが、それで構わんのだな?」
『いいから、正々堂々と勝負しろ』
「ふむ、壊れたスピーカーでももう少しマシな音色を奏でるが・・・。まあ良いぞ。賞金は我らのもので良いからビンシー6の同士での勝負がしたいと。それで良いのだな?」
『何を言う。賞金は、ゲームに勝利したチームのものだ』
「貴様の理論はおかしいぞ。賞金が欲しいのか? それとも戦いたいのか? どっちなのだ? それとも頭がおかしいのか?」
『汚名を雪ぐ機会を逃すことになっても良いのか?』
「何故、ゲームのルールで許されている戦術を選択して汚名になるのか? 我には理解できんが・・・。それに、貴様らが何を喚こうが我には別に構わんぞ。我らは優勝して賞金を得るために大会に参加したのだ。故に、我らが苦労して得た有利な状況をわざわざ捨ててまで、貴様らとビンシー6で戦闘する理由が見当たらんぞ」
『いいか。そんな勝ち方では、今後世間に顔向け出来なくなる』
「出せるぞ。それよりも、どうするのだ? 我らを腕ずくでトリプルアローから追い出せるとでもいうのか? ステージの隅で右往左往している貴様に、そんな度胸があるのか? それこそ、正々堂々と、トリプルアローに攻撃を仕掛けてきたらどうなのだ? 相手をしてやろうぞ」
クローが何度も交渉を打ち切ろうとするが、ノリは脅しすかして引き延ばしを図った。それはそうだろう。ジヨウチームを移動要塞”トリプルアロー”から出撃させないことには、ノイマンチームの勝利はあり得ない。
実のない会話が10分以上続いたが、交渉は1ミリたりとも進んでいない。
たまにレイファがトリプルアローの主砲を放って、ノイマンチームに勝負の催促をする。しかし、射程外にいるノイマンチーム4機は、微動だにせず留まっている。
そして、エンディングは突然やってきた。
いきなりノイマンチームの2機が、レーザービームに撃ち抜かれ爆発炎上したのだ。レーザービームの光の軌跡は、トリプルアローと全く別の方角からである。
ソウヤとジヨウが大きく迂回して、戦場へと疾走していたのだった。
それを気付かせないため、レイファはタイミングをみてトリプルアローの主砲を放ち、クローは粘り強く、相手の話を聞き流しながら、無意味な話を続けていたのだ。
ノイマンチームは突然のことに全く反応できていない。さらに1機をソウヤ機がレーザービームライフルで撃ち抜く。残るは1機のみ。
『不意討ちとは卑怯だ!』
どうやら交渉相手が最後の1機のようだ。なんともバカにし甲斐のあるシチュエーションか・・・。素晴らしく愉しいではないか。
「何を言っているのだ。貴様の要望通り、ソウヤとジヨウはトリプルアローの外にいるのだぞ」
クローの声音は、皮肉な響きに満ちていた。
敵機がジヨウ機とソウヤ機に追い回されている。
『ふざけんなぁあぁぁーーー』
交渉相手のノリが喚くが、クローは冷静に言い返す。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえんぞ」
『ウチも、結構我慢してたんだよね~』
不快気な口調でも、レイファの声は甘く耳に響く。ただノリの難癖にはストレスを相当溜めていたらしい。
その証拠に、トリプルアローの射程圏内へと追いやられた敵機を主砲1門で済むのに、5門も使用してレーザービームを放ち、焼き尽くしたのだ。
チームの司令塔であるジヨウは、クローには交渉を長引かせるようにと指示していた。そしてレイファには、敵索敵システムへの欺瞞と、主砲を適度に発射して敵の注意を引くように言い含めてあったのだ。
「貴様の愚劣で愚鈍で愚考しか出てこない脳では理解できんだろうが、教えてやろうぞ。我らクローチームは、どんな戦いでも負けない。たとえ有利な戦場を放棄したとしてもだ」
オープンチャンネルにクローの高笑いが響く。
優勝したジヨウチームが完全に悪者としか見えない。
『クロー。オレらはジヨウチームだぜ』
ソウヤがオープンチャネルで無粋な台詞を吐くが、それは無視する。
充分にノイマンチームを嘲ってから、クローはオープンチャネルの通信を切った。
全員がオープンチャネルを切り、チーム内通信になってから喜びをあらわにする。
『ソウヤ、クロー、レイファ。俺たちジヨウチームが優勝だ!』
『優勝だぜ!』
『やった~。鳳凰楼だね~』
「ふむ、それでは予約しなくてはならんな。我が連絡を受けもとうぞ」
頭の中で鳳凰楼のメニューを思い浮かべながら、クローは連絡役を引き受けた。
『さあ、行こう』
ジヨウの台詞を合図にゲーム機から出ると、周囲は人だかりになっていて大歓声が待ち受けていた。
ただ、一部罵声もあった。
罵声の主は、ウェンハイからだったが・・・。
4人の人生が、大きく変わった瞬間だった。
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