罠に嵌った勇者

水無月

本望を悟る

 あぁ、僕は一体、何をしていたのだろう。ただ、毎日、恐ろしいものと戦って逃げて。仲間達と笑いあったりもした。なのに、罠に嵌って、こうして閉じ込められて。静寂の、無音の世界に押しつぶされそうだ。誰か、僕に音をください。


 怖い、怖い……っ! 自分から大事なものが抜けていくようだ。そういえば、仲間達はどこにいるんだろう。あぁ周りにいた。僕のせいで皆、捕まったんだ。

 歓喜に湧く人達は僕達を銀の檻に置いて、どこかに消えた。

 あの人達が何をしようとしても、僕達は、装備をつけたままだから、危害は無い。


― ― ― ―


 何時間、経っただろう。あの人達が戻ってきた。僕達が閉じ込められている、銀の檻を掴み、違う銀の檻に僕達を落とした。カラッと衝突音がする。悲鳴が聞こえた。

 何が起きているのか、それは分からない。けれど、何かが動き始めた事は分かる。

 仲間達の悲鳴が途絶えたかと思うと、身体を掴まれ、灼熱の鉄の上へ落とされた。装備のおかげか、あまり苦しくない。

 パカッと熱で、視界が開ける。じゅわあっという音の後にアルコール臭が漂う。

 僕らの周りに、やや白い透明な液体がかけられていた。アルコール臭はこの液体の臭いだ。

 カポッと何かが閉まる音がした。恐らく、天井が何かで蓋をした音だ。湯気が立ち込め、むせ返るほどの量で、危険だと判断した。

 しかし、逃げる場所が無い。そうこうしているうちに、意識が途絶え始める。


「アサリさん、美味しくなるかなぁ」

「美味しくなるに決まってるじゃない。この匂いが分からないの?」

「そだねー!」

  

 途絶える間際、そんな会話が聞こえた。

 嬉しそうな声で、最後に誰かに美味しいと喜んでもらえる、それこそが、アサリの本望なのかもしれない。

 そう悟り、僕の意識は途絶えた。

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罠に嵌った勇者 水無月 @kuro0906

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