第54話 妹の依頼 7

「この巨大モンスターを倒したのは本当なのか、どうやったらそんなに強くなれるのだ?」


 ラビットキングを指し、熱のこもった瞳で二人を見るカトル。


「それは私が竜種だからよ」


 ラピスが手を竜のそれに戻してカトルに見せる。ラビットキングを倒したという事実もあってラピスの発言をカトル達は信用した。


「な、竜種様だった、でしたか。ではトウヤ様も?」

「いや、僕はただの人間だよ」


 僕は魔王ですなんて答えられる訳も無く、無難に人間だと答えておいた。スキル偽装能力のおかげでステータスの特殊能力の『魔王』は『狩り』に変えてあるのでステータス確認能力を持った人に確認されても問題ない。


「竜種様と共に旅をする人、という事はトウヤ様は勇者という事か、ですか?」

「トウヤ君は勇者じゃないわよ、お父さんの弟子でしで私のカワイイ弟よ」


 ラピスがトウヤの後ろから抱き着く。


「弟子? 人が竜種様の?」


 ラピスの答えにカトルは困惑気味だ。


「そういえばドッカの酒場で聞いた噂……」

「知っているのかスターリン」


 横で話を聞いていたスターリンの呟きにソフィーが訪ねる。


「ほら、ゲペルの街を救った竜種様の噂。酔っ払いの戯言だと思っていたけど」

「あ、若い人間の従者を連れた女性の竜種様の噂ね。えっと、それじゃラピス様がそのダンジョンを支配したっていうゲペルの救世竜だっていうのかい」


 ソフィーもその噂を思い出しラピスとトウヤを見る。


「う~ん、どんな噂かは知らないけどゲペルやスピリットファームの事だったら私とトウヤ君の事よ、たぶん」


 ラピスの返答に三人の口から「おぉ~」と言葉がこぼれた。


「だからってそんなかしこまった話し方とか様づけとかは止めてね、堅苦しいのは嫌いなのよ」


 まあ彼女がそう言うのなら、こちらも普通の方が話しやすいのでその場の全員はラピスの頼みを受け入れる事にした。


「ちょ、これは何? 助けてシヴァイ」


 そんな時、馬車の方で騒がしい声と音、見ると御者の座る場所にて縛られたセシルが暴れていた。


「なんだい、どうして縛られているんだセシル?」

「もしかしてシヴァイがやったのですか?」

「ん、面倒だから縛った」

「面倒だからって……」


 さっきまではスターリンとソフィーが囮になっている間に、シヴァイにはカトルとセシルを街まで逃がす役目を頼んでおいた。だからその途中で気絶させたセシルが目を覚ましたら戻るとか言い出し暴れる可能性がある。だったら暴れられる前に縛り面倒事を事前に防ぐシヴァイの考えもわからなくも無いが、それで仲間を縛るのもどうなのかと思うスターリンだった。


「とりあえず縄をほどいてあげてください」

「りょ~かい」


 モンスターはすでにトウヤ達が倒したので危険はない。後はサムの事でまた暴走しないかだけど。


「ふう、変な夢を見たと思ったら縛られてるんだもの、驚いたわ」

「変な夢?」

「そうなのよ、サムがモンスターにやられて……」

「セシル、残念だけどそれは夢じゃないよ」


 セシルは周囲に転がるモンスター達を眺め、その中に横たわるサムの姿を確認した。そしてさっきまでの出来事が夢でないのだと改めて確認した。


「そっか、やっぱり……」


 セシルがサムの所まで行きその顔を抱きしめる。シヴァイが止めようとしたが、ソフィーがツヴァイの肩を叩き首を横に振ってそれを止める。


「あのラピスさん。ぶしつけな質問ですが、竜種の技の中に死者を生き返すようなものは無いのでしょうか」


 スターリンの質問、それが何を目的にしたものかはワザワザ聞くまでもなくラピスは察した。


「私は知らないわね。お父さんからも死者を生き返すなんて方法を聞いた事なんてないわ。基本的に竜は壊すのは得意なんだけど治すのは苦手なのよね、それより人間の中にはそういう術は無いの?」

「そうですね、ダイストナカバル国のセプターという街の教会には死者を生き返らせられる秘宝があり、そこの神官長に代々その秘宝を使う方法が伝わっているらしいという噂は聞いた事がありますが、その秘宝が使われた事は無いので本当にそんな秘宝があるのかどうか。他には死んでも何度でも炎の中から蘇る鳥のモンスターがいて、その羽を使ったポーションが死者を蘇らせるなんて噂もあります。他にもどこかに死者の国に繋がる洞窟がありそこから愛する人を連れ戻そうとしたという昔話もありますね。どれも事実なのかもわからない眉唾な物ばかりで実際に死者を生き返らせたものは無いですね」


 自分が聞いた側なのに色々と答えるスターリン。ダメで元々と思いながら聞いてみた事なので竜種にも死者を生き返す方法が無いという事を受け入れようとした結果、彼は必要以上に喋っていた。

 アイテムがあるならとトウヤはアイテム作成で死者を生き返すアイテムを作ろうとしてみる。


「そのアイテムを作るにはポイントが足りません」


 ナビから帰ってきたのはポイントが足りないとの返事、つまりポイントさえあれば死者を生き返す道具も作れはするようだ。問題は必要なポイントが大きすぎて簡単に作れない事と、作れたとしてもどう説明して彼らに渡すかだ。


「さてと、ツヴァイ。穴を掘るの手伝って」

「いいけど、何するの?」

「サムのお墓を作ってあげないと。このまま放置じゃ可哀想だもの。ちゃんとサヨナラしないとサムが安心して旅立てないもの」

「だったらあの丘の上とかにしてあげた方がいいんじゃないかい、あそこなら見晴らしが良さそうだし、それにあいつ高い所が好きだっただろ」

「ん、それがいい」

「そうですね」


 なんだか墓を作る方向で話が進んでいるようなのでトウヤは生き返らすアイテムの事は黙っておくことにした。人の生き死にに関わる事なので下手に手を出してはいけない気がしたからだ。


「それなら私があそこまで運んであげようか? 人間の足じゃ大変でしょう?」


 ラピスがサムの墓の手伝いを申し出る。その申し出は簡単に受け入れられ、全員で墓作りを始めた。




「それで仲間が減ったのでこれ以上カトル様の護衛を続けるのは困難かと、次の街で別の護衛を探してください」


 墓造りも終わりチームを代表しスターリンがカトルに話を切り出す。


「それは残念だな。ソフィーとは昔からの付き合いだ、お前達サギヨウほど信用できる冒険者が簡単に見つかるかどうか……」


 多少リスクが増えた所でソフィー達と一緒の方がいいと思うカトルだった。


「そうだトウヤ、お前達一緒に来てくれぬか?」


 彼らが増えればソフィー達と別れる事無く旅を続けることが出来るだろう。トウヤ達の実力は知っているので追加としては安心の人材だ。


「いや、僕達も別の護衛任務の最中なので、カトル様の護衛はちょっと……」


 トウヤ達は今はリヨナを村に送る最中だ、だからカトルの護衛は無理だと断ろうとした。


「その護衛の目的地は何処だ?」

「カリニ村です」

「わかった、ではそこまででいい、僕たちもその旅に同行させてくれ。それなら構わんだろ? そこからはスクラフト家の兵に護衛をさせればよいからな」

「う~ん、とりあえず雇い主に聞いてみないとわからないですけど」


 ここで考えてもしょうがないので、後はニッチやリヨナの判断に任せる事に決めたトウヤだった。

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