第49話 妹の依頼 2

「やっほー。久しぶり」


 ラピスの背から降りたリヨナが近付いてくる。その背後にはゲペルの兵たちの姿もみえた。


「よく来たね、元気で……」


 元気だったか聞こうと思ったが、その前に彼女の姿に気になる所があった。旅行用の少し汚れた感じだが、服装は清潔で良さそうな生地を使っていそうだとトウヤは感じた。それだけで大切に扱われているのだなとはわかるのだが、それだけではなく、彼女の首にはこの前に見た時にあったあるモノが無くなっていた。


「奴隷の首輪、外れたんだね」


 奴隷の首輪とは所有者の命令を強制的にきかされる上に、逆らえば最悪首がしまって死んでしまうような呪われた道具だ。トウヤとリヨナの村で飢饉が起き、親に奴隷商人に売られた時に付けられたものだが、妹の首からそれが無くなっている事にトウヤは喜んだ。


「うん、ニッチ様が奴隷から解放してくれたの」


「そうか、それはよかったね」


 全員が降りた後、手に持っていた馬車を地面に置くとラピスは人間の姿になり、話している兄妹のもとにやってきた。


「ラピスさん、頂上まで運んでいただいてありがとうございました」


「うふふ、別にいいのよ。トウヤ君は私の弟のようなものなんだもの、その妹のリヨナちゃんも私の妹も同然、何かあったら気楽に頼ってくれていいのよ」


 ラピスがニコニコと笑顔でいる。


「ところで、ワザワザこんな所まで来て何かあったの?」


 コロウ山はゲペルの街からちょっと散歩気分で来るには遠すぎる。それにトウヤの『フラグチェック』の能力で彼女が何かしらの頼みごとがあって来ている事もわかっている。しかしその依頼の細かな内容まではわかっていないので聞いてみた。


「うん、結婚が決まったからその報告とあとお父さん達にも伝えるために村に行くからトウヤ兄ぃも一緒にどおかなと思って……」


「そうなんだおめでとう。でもまだ修行の途中だからこの山を離れるわけには……」


「おや、いいではないですか。一緒に行ってさしあげれば」


「えっと、アナタもここの竜ですか? ラピスさんの兄弟とか?」


 急に話に参加したツチミカドに対して疑問を口にするリヨナ。彼の現在の姿は人間の成人男性なのだが、この山にいる以上ラピスのように人間に姿を変えている竜なのだろうかと思ったのだった。


「違います、私はツチミカド。旅の途中で空腹で倒れていた所をトウヤ殿に助けていただいて、その縁で彼に剣術を教えているのでコロウ山でお世話になっていますが、ただの人間です」


 特に打ち合わせを何もしていなかったが、ツチミカドがそれらしい設定を話してくれた。


「いやでもツチミカ……」


 トウヤも故郷に戻りたい気持ちはあったが、トウヤの現在の状況、魔王である事を考えるとまたリヨナや家族、村の人をまきこみ魔王関連の何かの事件を呼び込んでしまうのではないかと不安に思っていた。それで修行を理由に断ろうかと思ったのだが。


「まあまあ、修行なら旅をしながらでも出来ますから。それに私達同じ相手ばかりでなく、モンスターを相手に実戦の中でしか学べない事もありますから。そうですよねタンザナイト殿」


「ふむ、そうだな。実戦で得られる経験は重要だぞ」


 ツチミカドの言葉にタンザナイトも同意する。師匠二人が賛成している以上、この場でトウヤに断る理由は無くなってしまった。


「トウヤ殿、ちょっとこちらに。旅の間の修行内容について話がありますから」


 ツチミカドがタンザナイトの足元に向かいトウヤを手招いている。


「どういうつもりなのさツチミカド、僕が一緒じゃまたリヨナに危険が迫るかもしれないじゃないか」


 トウヤもタンザナイトの元に向かい、ツチミカドがどういうつもりなのか尋ねた。ツチミカドもこの話を他の人に聞かせない目的でここに呼んだので自分の考えを伝える。


「どうせ旅をすればモンスターに襲われる危険はあるのです。それをトウヤ殿が一緒ならモンスターから守れる可能性は各段に上がります」


 トウヤの現在のレベルは二十五、魔王の能力の一つである『身体強化』は心も魔王として侵食されてしまい狂暴化するとカイリキーに教えてもらい現在はその力を能力調整でオフにしてあるので人間としての身体能力だけだが、トウヤにはマップを表示する事で不意打ちは防げるし、『アイテム作成』があるので強力な武器を創り出す事も可能だ。

 普通の人間が護衛をしながら旅をするよりよほど安全というものだ。


「それに私も一緒に行きます。そうすればオヤジの領内でモンスターが襲ってくることはありません。後は私の魔族としての気配を消す能力か、普通の人間の気配に錯覚させる能力のアイテムを作っていただければ、他の魔王の領地でも魔王や魔族という理由で絡まれる事は無くなるでしょう」


 その説得を聞きながら、実際にそのアイテムが作れるのか確認した。現在のポイントでは足りないようだが作れなくはないようだ。これを自分とツチミカドの二人分作ればいいだけなら、確かに他に任せるより安全な旅が可能だろう。


「分かったよ。そういう事なら僕も故郷には行ってみたいし」


「はい決定ですね。それでは妹さんに一緒に行くと伝えてはどうですか? さっきから不安そうにこちらを見ていますよ」


「あ、うん」


 トウヤはすぐにリヨナに一緒に村に帰るむねと、ツチミカドが一緒に行く事を伝えに向かった。

 それを横で聞いていたラピスも当然ついて行くと言い出したが、それを断る理由は無く、むしろ戦力が増えるので賛成だった。

 結果、気配を人間に誤魔化すアイテムを三つ作る事となり、さらに何かあった時のために予備のポイントを蓄えるためにタンザナイトの爪や鱗が大量に犠牲となり、リヨナ達が帰った後の山にタンザナイトの悲鳴が響くのだった。

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