第39話 ミズシマの招待 4
コロウ山を後にしたフィッシャーミズシマとバードウォッチャーツチミカドはネクタルレイクに戻るとすぐに魔王カイリキーに連絡を入れた。
ダンジョンマスターの部屋、そこに置かれた椅子に付属されたダンジョンを操作するための水晶にカイリキーの姿が浮かび上がる。
「おう、早いな。コロウ山にはもう行ってきたのか?」
「はい、それで目的のスピリットファームを奪った魔王にも出会えましたのじゃ」
「ほう、そいつは……。おう、ちょっと待ってくれ。その話題ならカネモトやヒノも呼んでやろうや」
そんなわけでミズシマ達配下の魔族全員の精神がカイリキーの元に招集され、コロウ山での出来事を話し始めた。
「という訳で一か月後にそいつと戦うことになりました」
一通りタンザナイトやトウヤ達との戦いやトウヤが現在、気の修行を行って一か月後に改めて戦う事まで報告を終える。
「なるほどな、新しい魔王か。もうそんな時期だったんだな」
「百年前に誕生した魔王は遠くで出現してたから僕達は戦えなかったもんね。新魔王は近くで生まれてラッキーだね」
「そうだな、前の奴は名前が売れ出したら三十年ぐらいで勇者に倒されちまったしな。今回は楽しめそうだ」
トウヤが新しい魔王という所にヒノとカネモトが反応する。
魔王はだいたい百年くらいの期間を開けて一人誕生する。前回、百七番目の魔王誕生からもうそれだけ経っていたのかとカイリキーも思うのだった。
まさかそれが自分の領地内で誕生するとは思いもしなかったが。
「それで、そのトウヤとやらはウチと戦争を起こす気なのか?」
「いや、それがのう。魔王として世界を支配しようなんて気はない感じじゃったわい。キザキを倒してダンジョンを手に入れたのも偶然じゃと言っておったぞ」
ミズシマがトウヤに出会った時にトウヤが言っていたことを伝える。トウヤは魔王として活動する気は全くないようだ。
「ほう、そいつはつまらんな」
戦い大好きなカイリキーからしたらトウヤの方から攻めて来てくれた方がうれしかったのだが、それは期待できなさそうだ。
「でも信用できませんよ。あの魔王、上級のモンスターを傍に置いていましたよ」
「そうじゃな、スピリットファームには上級モンスターなどおらんからな」
もしトウヤの話が本当で魔王になったばかりでスピリットファームしか行っていないのなら傍に居たモンスターの存在がおかしな事になるのではないかとツチミカドが疑問を口にし、ミズシマもその考えに賛同する。
「しかし魔王玉を使えばそれも可能かもしれんし、モンスターを上級に変化させれる能力を持つ魔王なのかもしれんぞ?」
賛同した後で、別の可能性も提示した。魔王玉を使えばモンスターの強化や新たな能力の付与も出来る。その結果上級モンスターにまで成長させられる可能性はある。そのためにどれだけ魔王玉を消費するかはミズシマにはわからないが、トウヤの魔王としてのランクもわからないのであり得ないとは言いきれない。それに、魔王玉を使わなくてもモンスターを成長させる能力を持った魔王の可能性もある。
「う~んなるほど、そういう可能性も……無くはないですね」
ツチミカドもそれには納得のようだ。
「それでその魔王は強かったのか?」
横で話を聞いていたトラの魔族、ビーストテイマーカネモトがトウヤに興味をもったようだ。
「いや、ワシは直接戦ったわけではないが大したこと無さそうだったぞ」
ミジシマはちょっと見ただけだが、ただ立っている彼の気の練り具合は雑でまだまだだと感じた。
「タンザナイト、コロウ山の竜が気を教えていると言っていたから一か月後にどれだけ強くなっているかはわからんがな」
「そうですね、配下の上級モンスターの少女はなかなか筋がよかったですよ。ですからその主である彼ももしかしたらとんでもない実力を隠している可能性もありますよ」
「くっそ~俺が戦いたかったぜ」
カネモトが話を聞いて悔しそうな声を出す。
「おうそうだ、それじゃ一か月後に俺も見に行っていいか?」
「おや、それでは貴方のダンジョンは誰が守るのですか?」
「ふん、俺のダンジョンは俺がいなくても充分やっていけるだけモンスターが強いから大丈夫だよ」
「そっか、だったら僕も見に行こうかな……」
それまで黙っていたヒノも一か月後の戦いの観戦をしたいと申し出た。
「だったらその日は全員でネクタルレイクに繰り出すか。竜を仲間にした魔王なんて珍しいからな。俺も見てみたいぞ」
カイリキーもノリノリである。その様子を見てこれはもう断れないなとミズシマは感じた。
「オヤジがそういうのならしょうがないのう。それじゃ三人分の観客席を用意しておくかのう」
こうしてコロウ山での報告が終わったミズシマはさっそくダンジョンの作り替えを始めるのだった。
◇◇◇◇
「それで、今日は何をするの?」
タンザナイトが新しい修行を始めるといのでトウヤは楽しみにしていていた。
ラピスとシンデレラは別の修行だ、二人は実戦形式で気を全身に纏って戦っている。
トウヤは川の近くで座らされていた。その背後にタンザナイトがその辺で拾った枝を片手に立っている。
「うむ、まず最初にお前の五感を奪うからその前に全部説明するぞ」
「え、ちょっと待って。五感を……奪う……?」
トウヤは聞き間違いかと思い聞き直した。
「そうだ、これからツボを付いて気の流れを乱して五感を奪うんだ。だが安心しろ、気と触覚の二つの感覚は残しておくから、それで何となくは周囲の事が分かるはずだ」
普通は五感と言えば味覚、触覚、視覚、嗅覚、聴覚の五つなのだが、タンザナイトにとってはこれに気と魔力を加えた七感覚が当たり前なようだ、そこから気と、トウヤが気を感じるのに使っている触覚の二つを抜いた五つの感覚を一時的に使えなくするようだ。
「その状態で俺はこの拾った枝に気を込めて偶に殴ろうとするから、それを感じたら避けるなり防ぐなり掴むなり好きに対応してくれ。近くでラピス達が戦っているからその気から動きを感じるのも修行になるかもな。修行の目的は気で周囲の情報をより詳細に集められるようになる事と、気を消費する事で体内の気の総量を増やす事だから頑張るんだぞ」
一通り説明を終えると、タンザナイトが指先に気を集め、トウヤの背後からツボを狙って攻撃する。
服越しなのに熱した鉄を直接背中に当てられたような感覚を味わった後にトウヤの視界は真っ暗になり、何も聞こえなくなってしまった。
トウヤは慌てずにその状態で気を周囲に広げていく、少し遠くにとてもまぶしい気配がある。太陽のような強くまぶしい気配だ、そこに短剣のような形も感じられるから、これはシンデレラの気配なのだろう。その気配に向かって殴りかかる気配がする。こっちは滝の近くで水しぶきが当たっているような冷たくて気持ちいい気配、両手に竜の手のような気の塊がある。こっちはラピスだ。ラピスは前にトウヤが作った気を操りやすくする腕輪をガントレットにして両手に装備していた。これによって人間の手の形のまま気だけで竜の手を再現できるようになっていた。さらに殴るために飛び込むときには足に、殴る時には腕や腰にも気が集まり、それによって攻撃の威力をあげているのだと、気だけの状態になってトウヤは初めて理解した。
「いてっ」
そうして二人の戦いぶりを参考にしていると、右肩に痛みを感じた。向こうの戦いに集中しすぎてタンザナイトの攻撃に気付けなかったのだ。
今度はタンザナイトを気にしだす。すると向こうに殴ってくる気配がないので、しばらくしてまたラピス達の戦いに意識を向けていくとタンザナイトの攻撃を受けるのだった。
タンザナイトはトウヤの気の動きを見てこっちから意識が外れてしばらくしたら殴っていたので、簡単に殴ることが出来た。
この修行を始めた最初の日、トウヤがタンザナイトの攻撃を当たる前に気付ける事は無かったのだった。
ネクタルレイクに向かうまで半月と少し、トウヤの修行は続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます