第38話 ミズシマの招待 3

 ネクタルレイクに行くまで一カ月、その間にトウヤは修行とは別にやっておくことがあった。それは後回しにしていた新たに得た能力の確認だ。

 これによって今度の戦いが有利になるかもしれない。なのでミズシマ達が帰ってすぐにトウヤは能力の確認を行う事にした。場所は修行している川、右手に気を集めタンザナイトが手を叩いたらすぐに中断して左手に気を集め、また手を叩いたら右に集める。そんな修行をしながらの確認だ。隣でシンデレラが同じ修行、彼女の場合は右手、左足、頭、右足、左手、右手の順番でしかもトウヤより早くて多くの量を動かしているのだが、なんだか修行でなく遊んでいるつもりのようだ。


 新たな能力は能力調整に加わった「ステータス偽装能力」とアイテム作成に加わった「ストック機能」だ。

 ステータス偽装能力は指定した能力の名前をステータスで表示している時、別の名前や能力に見せる技のようだ。つまりトウヤの「魔王」を「狩り」とか「長剣の扱い」などの別の能力に変えておけば、誰かに能力を見られた時に魔王だと分からない上に、能力調整でオフにしていた時と違いこれなら魔王としての能力を使えるという事だ。

 だがステータスは変えれても気や魔力を上手く抑えるすべが無ければタンザナイトのようにステータス以外で判断できる相手には魔王だと分かってしまい意味がないのだが、普通に街に入るくらいになら使える能力と言えるだろう。残念ながら今回のミズシマとの戦闘に役立つかどうかは疑問だ。

 

 もう一つのストック機能はアイテム作成時に残ってしまったポイントをそのまま保存しておくことの出来る能力のようだ。別にアイテムを作成しなくてもただポイントに変換してしまうことも出来るし、アイテムをそのまま保存もできるようだ。この保存できるアイテムはアイテム作成の代償にできるもの、つまりトウヤが持てるサイズまで。アイテムの状態で千個とポイント状態が十万ポイントまで貯める事が出来る。

 こっちはアイテムを大量に持ち込むことが出来るという点で有効だろう。


「どっちも今回の勝負には微妙な能力だな。残るは……」


 トウヤはステータスの魔王の項目にある魔王玉3を見た。これは魔王として成長する度に一個ずつ増えていったものだ。これを使って自身の強化をしたり、配下の魔族を造ったいり配下の強化が出来るわけだが。


「でもなんかもったいないよな。ギリギリまで取っておくか」


 今回の戦いは一対一なので魔族を造っても意味はない。最悪これを全部消費してピンチになったら身体強化はありかもしれないが、今焦って決める事ではない。今回の戦いではなく、本当に必要な時まで残しておいた方がいいのではとトウヤは思った。


「やっぱり地道に修行かな……」


 とりあえずは体内の気を増やし、自在に操り素早く一点に溜める修行だ。

 あとは前にタンザナイトとイバラ達が戦った時に出たタンザナイトの鱗や爪なんかを使って何かアイテムを作り出す事も有効だろう。


「ねえ、ミズシマはどんな戦い方をしてたの?」


 アイテム作りの参考にしようと実際にミズシマと戦ったタンザナイトに聞いてみた。


「武器は釣竿だな、ウキから先に大量の気を集めて鉄球のように振り回したり、糸に気をトゲのように通してムチのように使ったり、気を通した糸を自分の周りに展開して防御に使ったり、ウキの先に気の刃を作り糸を気で自在に操り四方八方から攻撃してきたりと変幻自在な攻撃を繰り出していたな。それと水の魔法を使っているところも見たぞ」


「武器攻撃って事は物理攻撃対策をしておくか……」


 やはりイバラ達のような物理無効を付与した防具でも作るべきだろうか。そうしたらもしかしたら残っているタンザナイトの鱗たちは全て消費してしまうかもしれないが。


「いや、それで防げるのは武器そのもののダメージだけだろ。気の攻撃は物理攻撃ではないからそれでは防げんぞ」


「じゃあ気は魔法防御系で防げるって事?」


「いや。魔法とも違うからダメだぞ。気を防ぐには同じ量の気をぶつけて相殺するくらいしか対処法がないな」


「それじゃ今の僕ではかなりきついね」


 気を操るのにだいぶ時間がかかる上に少量しか扱えないのでは気の攻撃は防げないだろう。だから今、気を増やし操る修行をしているわけなのだが。


「そうだな、そこは一カ月でなんとか成長してもらうしかないな。せめて視覚でも気を捕らえらえたのなら気の節約ができるんだがな」


 トウヤは気を触覚を通して肌で感じている。なので相手の気に直接触れるか、コウモリの音の反射で状況を把握するように自分の気を周囲にまいてそこから相手の気を察知するしかない。これが視覚で見れるのなら遠くても見えさえすればいいので、気をまく必要がなくなるのだ。


「出来ないんだったら、そいうい道具を作ればいいじゃない」


 二人の会話を横で聞いていたラピスが話に入る。彼女もトウヤ達と一緒にシンデレラと同じメニューで修行に参加していた。


「そうか、それじゃイバラ、悪いんだけどさっそく山頂の巣から鱗とか持ってきてくれる?」


 とりあえず作るアイテム一個目が決まったのでイバラとコシュタに山頂から残っていた鱗たちを全部持ってきてもらい、検索して出てきた気の見える眼鏡を自分と、嗅覚でしか気を捕らえられなかったラピス用の二つ用意した。シンデレラは聴覚以外では気が分かるそうなので今回は不要だ。

 残った鱗や爪は全てポイントに変えてストックしておく。約五千ポイントになったのでそれなりに道具を揃えられるかもしれない。


「気がバッチリ見えるわね。でも戦いの最中に眼鏡これなんて危なくない? ガラスが割れて目に入ったら危ないわよ?」


「あ~」


 確かにその可能性はあるかもしれない。なので能力だけそのまま腕輪の形にしておいた。それでも気はしっかりと見えているので問題ないだろう。


(せっかく腕に付けるならついでに別の能力も持たせるかな)


 トウヤはついでで気の操りを補助したり、気を溜めておけたり、溜めた気を放てる機能なんかを追加してみた。


(これでいいかな)


 出来た物を実際に装備して試してみたが気を溜めるのが装備前より早くなった。だがそれでもシンデレラには負けている。

 気を放つ技も試してみた。少し離れた所にある岩にパンチを繰り出す。すると腕輪に溜められた気がボールになってパンチと同じ速度で岩まで飛んでいき、岩を破壊した。

 ラピスも同じものを装着して気を右手に溜めてみるとトウヤより早くて多くの気を操れていた。ほぼシンデレラと同じレベルだろう。装着者の基本の能力に腕輪の補助分がプラスされる仕組みのようだ。


「シンデレラ、これつけて気を操ってみてよ」


 ではシンデレラが装備したらどうなのかと思いトウヤは自分の装備していた腕輪を渡してみる。


「あれ、変化ない?」


 その結果は装備前と違いが無いようにトウヤには感じられた。


「ふむ、彼女の場合はもともとの能力が高いからこの装備の恩恵では誤差程度の変化しかないという事だな」


 トウヤの疑問にタンザナイトが答える。多くのポイントを使って能力を付ければ彼女でも変化させれるアイテムも作れたかもしれないが、今回のではシンデレラにとっては意味のないモノだったようだ。


「ま、ここまで気を操れるならもう装備に頼る必要もないだろうがな」


「そっか。それじゃシンデレラには何を用意すればいいかな?」


 彼女もツチミカドとの勝負が控えている。何かしらの装備をあげた方がいいだろう。


「ふむ、そうだな~、気を溜めておけるのは自身の気力が少なくなった時に便利だな。後は気を武器にした時の形が短剣だったから短剣に気を溜めれるようにするといいんじゃないか?」


 気で短剣を作ると、その分余分に気を消費する。なので最初から短剣を持たせ、その周りを覆うように気を操る方が効率的だ。それに戦いまでのこの期間に武器に少しずつ気を溜めておけば戦いの中で色々と役立つし、武器を手に馴染ませる必要もある。そんな訳でトウヤさっそく言われた通りにアイテムを作り始めた。


「そう言えば、カラスの魔族が気を雷にして出してたけど、どれだけ修行すれば出来るの?」


 武器を作りながら思い出したので尋ねる。もしかしたらこの知識をプラスする事でよりよい武器を作れるかもしれないからだ。


「気を雷にだと? そんな事できるなんて俺は知らないぞ。少なくとも俺の親父からはそんな話聞いたこともない。魔力は火や風、水なんかの自然現象に変化させられるが、気は身体の強化や武器の強化、相手の気を読んで攻撃の予測や弱点を探すのに使うか、相手に叩き込んで相手の気を乱し内側からの破壊をするのに使うものだからな、自然現象に変化なんてさせられないと思うが……」


「え、そうなの? じゃあアレは何だったんだろう?」


 カラスが錫杖に注いでいたのは確かに気だったと思う。しかし気が雷になる事はないとタンザナイトは言う。ではあれは何だったのだろうか。


「ふむ、竜族に伝わっていないだけで、もしかしたら気を変化させる何かしらの道具なり術があるのかもしれんな」


 魔力を込めれば発動する道具のように、あの錫杖が気を込める事で電気を発生させる武器だった可能性は確かにある。


「考えてもわからんことは後回しだ。今は一か月後のために修行だぞい」


 わからない事をいくら考えていても時間の無駄だ。そして今のトウヤ達にその無駄にしていられる時間はあまりない。そんなわけでトウヤはシンデレラの武器を作ると修行を再開するのだった。

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