第37話 ミズシマの招待 2
「やったか?」
シンデレラの攻撃で全身に爆発を受けたツチミカドがいるであろう場所をトウヤが警戒しながら見ている。
爆発の煙で中がどうなっているかわからないが、これで倒せていればいいなと思うトウヤだった。
「いい火力の魔法ですね」
翼から強烈な風を起こし煙を払うツチミカド。その体や服の所々に焦げたような様子は見られるが、まだまだ余裕な様子だ。
「それにその気で作られた短剣も素晴らしい。これだけの配下を持っているのならキザキを倒せたのも納得というものです」
ツチミカドが何かに納得するようにカラス頭を上下に動かしている。
「ねえトウヤ君、魔族を倒した時はシンデレラちゃんが今の姿じゃ無かったの教えてあげた方がいいかしら?」
トウヤの耳元で小さな声でこっそりと話しかけるラピス。キザキと戦った頃は気を操る事など出来なかったし、シンデレラもバンシーではなくジャック・オー・ランタンだった。だからツチミカドの評価は正しくないのだが。
「別にいいんじゃないかな。シンデレラの元になっている子たちはみんな、あの戦いに参加していたんだから」
トウヤのモンスター合成でシンデレラの元になったモンスター達は全員キザキとの戦いには参加していた。キザキに勝てたのは相手の魔力を封じるアイテムがあった事と、弱点を責めた事。それと大量のモンスターによる物量作戦のおかげだ。だから仲間のおかげで勝てたというのは間違いではないのだから。
「トウヤ君がそう言うなら黙っておきましょ」
「内緒話ですか、私を倒す作戦でも練っているのですか?」
「う~ん、ま、そんな所かな」
トウヤが適当に答える。さてどうしたものか。シンデレラはツチミカドの速さについていけたようだが、トウヤは全く動きが見えなかった。今は立ち止まっているが、動かれたら厄介だろう。
(あ、だったら今の内に動けなくすればいいのか)
「ほう、それはどんな作戦ですかね。とてもワクワクしますよ」
キューブを発動してツチミカドの周囲を通行不可にしていく。もちろん通れないのは彼だけで、仲間は自由に動けるようにだ。これで一方的にこちらの攻撃を当てられる。
「ワクワク? 君は仲間の復讐に来たんじゃないの?」
なんだかその言葉に引っかかったので聞いてみる。
「復讐? どうしてそんなつまらない事をするといのですか。魔族は魔王が生きている限り何度でも復活出来るんです。それに勝負に負けるのはそいつが相手より弱かっただけ。そんなヤツの仇を取るよりもキザキより強い貴方達と戦える今の方が大事でしょ」
楽しそうに語るツチミカドを見ながらトウヤは心の中でため息を吐いた。つまり相手はただの
「なんだ、お父さんの同類ってことね」
ラピスもトウヤと似たような感想を持ったようだ。露骨に嫌そうな顔をしている。
「そういえば、タンザナイトはどうしたんだろう?」
ここに魔族がいるのに彼は何をしているのだろうか。もしかしてもうすでに負けてしまったのだろうか。
「ああ、ここの主の竜なら今は私の仲間と戦っていますよ」
(よかった、殺されたわけではないんだ)
まだ無事なのだと知れて安心する。
「それではお喋りはここまでですよ。私達も戦いを再開させましょう」
ツチミカドが翼を広げ飛び上がる。そして何かに頭をぶつけた。
「イタッ。なんですかこれは?」
周囲をペタペタ触ってそこに壁のようなものがあるのを確認するツチミカド。
「トウヤ君、もしかしてアレ、やったの?」
ラピスが向こうに聞こえるのを考えて抽象的に尋ねる。
「うん、今なら一方的にいけるよ」
「あらそうなの、それじゃシンデレラちゃん、やりましょ」
ラピスが竜の姿に戻り口から炎のブレスを吐いた。
「ファイヤーボム」
シンデレラも周囲に火の玉を大量に出して攻撃する。トウヤはその様子をただ見ているだけだった。今は何もアイテムをもっていないので、遠距離での攻撃手段がないのだ。いくら一方的な攻撃を出来ると言っても直接攻撃すればそれは向こうにも攻撃できるチャンスを与えるという事だ。だから今のトウヤにはただ戦いの流れを見ている事しか出来ない。
「いや、ちょっと待ってください。この動きを阻害しているのは何ですか、気も魔力も感じないですし。いや、だから攻撃をやめっ。せめて説明を……」
ツチミカドが何かを言っているが、こちらの攻撃の爆発音のせいでよく聞こえない。
「あ~二人とも、一回攻撃止めてくれる。相手がなんか言いたそうだから」
少し哀れに思ったトウヤがラピス達に攻撃を止めるように頼む。それに二人は従ってくれた。
「ハァハァ、いや~さすが……魔王ですね……。不思議な……技をお持ちな……ようで……」
肩で息をするツチミカド、生命力を示すバーは一割減っている。まだまだ余裕はありそうだ。
「お名前を……うかがっても……よろしいで……しょうか?」
「あ、トウヤです」
そう言えば名乗っていなかったと思うトウヤ。トウヤの方はステータスで相手の名前が分かるので、一方的に名前を知っている状態だ。
「もう、別に敵なんだから律義に名前を教える必要なんてないのに」
「いや、聞かれたからつい……」
「そうですか。魔王トウヤ、貴方は何の目的でオヤジのシマに攻め込んで来たんですか? 冥土の土産にそれくらい教えてください」
もう負けた気でいるツチミカド。あれだけ一方的な攻撃でまだまだ生命力を残しているので倒すまでには相当時間がかかるのではないかとトウヤは思った。
「いや、別に力の魔王さんの土地とか興味ないよ。そちらのネクロマンサーキザキが喧嘩売ってきて、人間を人質にしたもんだから仕方なく戦っただけだし」
リヨナが妹だという事は隠しておく。もしかしたらそれを伝える事でまた彼女が誘拐されるような事になるのを恐れたからだ。
「まさかダンジョンマスターを倒すとダンジョンが手に入るなんて知らなかったんだ。魔王になったばかりなんでそっちの常識に疎いんだよ。でもだからってダンジョンを渡せって言ってもダメだよ。あそこで出来た仲間とお別れするのは嫌だから。だから今回だけ無知が招いた失敗って事で見逃してくれないかな?」
「フォフォフォ、そりゃいい事を聞いたわい。まさかキザキを倒したのが新米魔王とはのう。安心せい坊主、ウチのオヤジはその辺の事は寛大じゃ。ダンジョンを奪われたのなら「管理者が弱いのが悪い」で見逃してくれるじゃろうて」
いつの間にか現れた老人の魔族が話に加わる。
「ただし、オヤジにそれなりの実力を認めさせられたらじゃがな」
「ミズシマ、そちらの戦いは終わったのですか?」
「引き分けじゃ。こっちで戦っている気配を感じた瞬間、タンザナイトは勝負を焦りだしてのう。自爆覚悟の無茶な攻めを始めたんでつまらんかったから中断した。ワシの目的はキザキを倒した相手を見つける事、そしてそいつがオヤジを楽しませられる実力を持っているか見極める事じゃてな。それを話したら向こうもその気持ちをわかってくれてのう、こっちに来れたという訳じゃ」
「そうだぞ、こいつら悪い魔族じゃなさそうだ。拳を交えて確認したから間違いない。ミズシマの気は穢れなき綺麗な武道家のそれだったぞ」
老人の後ろからタンザナイトも現れた。同じ戦闘狂としてなにか通じるものがあったようだ。
「と言う訳で坊主、いやトウヤよ。一か月後にワシと一対一の勝負じゃ」
という訳と言われてもどういう訳なのかトウヤには話の流れが見えない。彼らのオヤジ、つまり力の魔王カイリキーに実力を認めさせるわけだ。そのためにミズシマと戦えという事か?
「もしワシに勝てたらオヤジの居場所を教えよう、そこでオヤジに勝てたなら、はれてスピリットファームはお前さんのもんじゃ、それまでは仮の主として手出しせんでいてやる」
つまりその後はスピリットファームを取り返す事もあり得るという事だ。何としても勝たなければなるまい。
「一カ月? ずいぶんと悠長だな」
ツチミカドが疑問を口にする。
「なんでもこの坊主は現在気を習得する修行中らしいぞ。だからその修行のために一カ月は待って欲しいとタンザナイトに頼まれたのでな」
「修行中だって!? こいつの配下のモンスターは自在に気を操っていたぞ」
主が気を覚えたばかりだとすると、その配下が気を操れるようになったのも最近のはずだ。それなのにシンデレラはずいぶんと気を扱えていた。まるで何十年もの間修行を積んだ者のように。
「……ま、世の中には才能に恵まれた者もいるという事じゃろ」
ミズシマはツチミカドが一方的にやられているところからしか見ていないが、シンデレラの手にある気の短剣は目撃している。なので彼女の気の扱いがそうとう上手いと評価し、そういう才を持つ者なのだと判断した。
「なるほど。それでは貴女、えっと名前はなんでしょう?」
「シンデレラ~」
「そうですかシンデレラ、貴女は一か月後に私、バードウォッチャーツチミカドと一対一で戦いましょう」
「ばとる~」
シンデレラは楽しそうだ。彼女はもともと向こうのモンスターだった核から生まれた存在なので、カイリキーの戦闘狂因子が残っていたりするのだろうか?
もしかしたら気の扱いが上手いのも合わせたモンスターの中にそういうモンスターがいたからなのではなかろうか。ツチミカドの戦闘を考えると気を扱えるようだったので、気の扱いに特化したモンスターが紛れていたとしても不思議ではないとトウヤは思うのだった。
「では一か月後、ネクタルレイクで待っておるぞ。もし来なければスピリットファームにいるお前さんのお仲間がどうなるか……」
最後に脅しのような事を言うミズシマ。
「大丈夫、必ず行くよ」
トウヤに他の選択肢はない。一か月後にネクタルレイクに行かなければスピリットファームは襲われる。行ってもミズシマに負ければ同じ、そして勝っても次は魔王カイリキーだ。
その戦いに勝利するまでトウヤはスピリットファームの仲間達を人質に取られたも同然なのだから。
「フォフォフォ、では楽しみに待っておるぞい」
ミズシマとツチミカドの周りに黒い羽根が飛び散り、二人の姿を隠す。羽根が地面に全て落ちる事には二人の姿はそこには無かった。トウヤは静かにキューブを解除した。
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