第13話 ゲペルの街 5
トウヤ、ラピス、タンクの前に死人の兵がニ十体ほど立っていた。
モンスター名は
街を歩いていた人達はモンスターが出現した時に慌てて近くの家の中に逃げてしまった。今外にいるのはトウヤ達三人だけだ。
「なんであいつら兵士さんと同じ防具なのかしら?」
相手の攻撃を避け、さらに反撃を入れながらラピスが気になった事をタンクに聞いた。
「アレはスピリットファームで死んだ仲間達だ。あのダンジョンでやられるとモンスターに変えられちまうんだよ」
タンクも相手の剣を自分の剣で受け止めながら答えた。
「リビングデットのレベルが一体一体違うのも、犠牲になった人のレベルに影響されたりします?」
トウヤがこっそりと魔王をオンにしてから戦いに参加する。もちろん支配者はオフのままだ。モンスターを狂暴化させ、強くさせる能力なので使うわけにはいかない。身体強化で少しでも有利に戦うのが目的だ。しかしタンクには自分の人間時のステータスが知られているので、彼の前であまり派手な活躍は出来ない。まずは家のドアや壁の前をキューブで通行禁止に指定しておく。これでドアや壁が壊される事も、中の人がモンスターに襲われる事も無いだろう。次に近くに落ちていたリヨナの使っていた箒を拾ってタンクに攻撃しているリビングデットを横から殴り、注意をこちらに向ける。その隙をついてタンクがリビングデットに攻撃を加えた。
倒せこそしないが、相手の生命力を大きく削れた。
「ああ、リビングデットになると元のレベルよりプラス2レベルほど強力になるらしい」
「それで
ダンジョンでラピスを倒せれば、竜の死体が手に入る。それを自分の配下に加えられたらいい手駒になるだろう。
「全く、そんな所で戦ったらモンスターになるってわかってて、どうしてそのダンジョンに行ったのよ」
目の前の兵達はスピリットファームで死んだからこうしてリビングデットになった訳だ。なら最初からそんなダンジョンに近付かなければいいではないか。行く理由がラピスには解らなかった。
「ほっとくとダンジョン内でモンスターが増えすぎてダンジョンの外にも出てくるんだよ。そうして近くにいた人間たちを半殺しでダンジョン内にさらっていく事件があったんだ」
たいがいその時の被害はダンジョンを監視している兵達になるらしい。
「だからその対策として年に一回、街の兵と冒険者が協力してダンジョン内のモンスターを大々的に掃討するんだが、その時に犠牲者が……」
何もしなくても被害は出る。なので少しでもその被害を少なくしようとこちらから打って出ているのだ。その最小限の犠牲者達の一部が目の前のリビングデットというわっけだ。
「ラピスお姉ちゃん、あのバトルアックスを担いでいるリビングデットが一番強いよ注意してね」
トウヤが言ったリビングデットはレベルが40もある。ラピスの二倍だ。下手に手を出したら無事では済まないだろう。
「あの方は
タンクの説明もトウヤの不安を加速させる一因となった。しかしクラウス以外のリビングデットはレベル15も無いので、早いとこ他を倒してしまえばなんとかなるかもしれない。トウヤはクラウスの周りを通行禁止にしといて足止めしておく。
(しかしそうか、この人達にも名前とか家族があるのか……)
今ステータスに出ている名前はリビングデット。それが生前、どんな名前なのかわからない。しかし元人間という事は、人間時の名前があったのだろう。
「この中に兵士さんの友達とかも……」
タンクが一緒に戦った者や、プライベートな付き合いがあった者もいたかもしれない。そう思うとトウヤは戦いづらくなってしまった。
「少年は優しいな。しかし勘違いするな、彼らはもう死んでいる。その死体を魔族に操られているだけなんだ。モンスターから解放してやることが奴らの供養に繋がる」
タンクは自身の言葉を態度です示すため、リビングデットに斬りかかる。
「それに今は君の妹の方が心配だ。彼女はまだ生きているんだ。早く助けてやらねば」
キザキとリヨナの姿はもうどこにもない。すでにスピリットファームの奥に移動してしまったのだろう。でもまだ助けられる望みはあるのだ。
タンクの友は既にリビングデットとなり、彼に剣を向けている。そんな相手に躊躇して、助けられる者を助けられないのでは自分が兵士になった意味などない。そうタンクは思って剣を振るっていた。
その様子を見てトウヤもリビングデット達を倒す決意を固める。タンクの視線に注意しつつ、石を蹴ってリビングデットを倒し、表向きは違う方法で協力していた。トウヤが箒で足払いたリビングデットの顔面をラピスが踏みつぶす。
「なんだか気が付かぬ間にずいぶんと数を減らしたな」
そんなこんなを繰り返すうちに戦いの終わりが見えてきた。
「ラピスお姉ちゃんが頑張ってくれているんですよ」
トウヤが適当に答える。すでに半数以上の敵が動かなくり、攻撃の勢いが弱っている。そのためタンクにも他を気にする余裕が出来て来ていた。
「しかしクラウス様は何をしているのだろうか?」
クラウスは何もない空間に向かって戦斧を振るっていた。それはトウヤの力で通行できなくなっているから、なんとかしてそれを壊そうとしているのだが、タンザナイトですら対処できなかったトウヤのキューブをなんとか出来るわけもなく、ただ空を切るだけの結果になっていた。
「さあ? ラピスお姉ちゃんが幻覚でも見せているんですかね?」
「ほう、やはり竜族とはすごいものだな。おとぎ話に聞いた通りのようだな」
タンクが感心している。そうしている間にもラピスがリビングデット達を片付けていった。残るはクラウスだけだ。
「少年は下がっていろ、俺ですらクラウス様の相手は無理だろう。レベル3の君では足手まといにしかなるまい」
タンクがトウヤを後ろに庇いつつ、クラウスに剣を向けている。しかし彼自身もクラウスから距離を取り、積極的に攻める気はないようだ。トウヤは素直に従った。どうせ裏からサポートするしか出来ないのだ。それならどこに居ても同じだろう。
「兵士さん、あなたは仲間を呼んできてちょうだい。トウヤ君は私が守るわ」
ラピスがタンクに指示を出す。
「わかった。すぐに戻るから少し耐えていてくれ」
タンクはすぐにその提案に従った。ここに居ても邪魔でしかない。守るものが少ない方がラピスも戦いやすかろう。
「さてと、この後どうしようかトウヤ君?」
タンクが去って行った後、ラピスがトウヤの隣にやってきた。
「とりあえず細かい能力を見てみるよ。弱点とか見つかるかもしれないし」
トウヤはクラウスの能力を見た。自分達よりレベルの高い相手だ。弱点でもあればそこを付いていきたい。
「なんだ、コレ?」
「どうかしたの?」
トウヤが気になったのは、特殊能力欄に書かれた水魔法だった。その文字は灰色で書かれていた。
「なんだか能力オフにしたときみたいだ」
その状態はトウヤが能力調整で能力をオフにした時と同じ色だった。どうして水魔法だけこうなっているのか気になり、魔法の中を確認した。武器に氷属性をつける能力や周囲を凍らせる魔法、空中からつららを落とす魔法など、氷系の魔法がいくつも書かれている。
それはタンクの言っていたクラウスの二つ名『氷戦斧』の由来を知るのには役立ったが、文字が灰色、つまり休止状態の原因はわからなかった。
「その原因はこれだと思われます」
ナビがトウヤの疑問に答えるため、一つの項目を出してくれた。それは『動く死体』死体をモンスターにしている能力だ。この能力の影響で詠唱の必要な魔法は使用不可になっているらしい。ナビが気を利かせて、その部分を赤で表示してくれているのですぐに見つけられた。
たしかにリビングデット達が喋っているのを聞いてはいない。低く「あぁ~」「うぅ~」とうなってはいるが、言葉にはなっていないのだ。
他にも『動く死体』には痛みを感じない。手足がもげても、頭さえ無事ならくっつける事が可能。ただし頭が潰されれば生命力が満タンでも一撃で死ぬなどの効果があるようだ。しかし頭を破壊した場合、経験値は手に入らないので注意と誰に向けてなのか謎のメッセージも書かれていた。
ならばクラウスもレベルは高いが頭を潰す事を意識していけば楽に倒せるかもしれない。方針は決まったので能力値を確認する。
「はぁ?」
「ちょっとトウヤ君、大丈夫?」
そこでトウヤはある事に気付いた。レベルに二倍ほどの差がありながら、クラウスの能力値がラピスとほぼ同じくらいなのだ。
「いや、クラウスとラピスお姉ちゃんが同じくらいの強さだったものでつい……」
「えっと、つまりリビングデットのレベル40って人間のそれと同じってことね、なんだ、モンスターや魔族のレベル40を想像して警戒して損した」
ラピスはあっけらかんと言う。トウヤは知らなかったが、人間とは弱い種だったようだ。といっても40まで鍛えれば今のラピスやトウヤには追いつくわけだし、希望はありそうなものだが。
ともかく、これならなんとかなりそうだ。トウヤはクラウスの周囲のキューブを解除した。そして、クラウスの足元を通行可に変更、彼が地面に落ちた。落ちていく途中で走ってきたトウヤがその顔面を蹴る。上手い事体から頭が離れた。しかし同程度の身体能力を持つ相手なのでさすがに一撃で仕留める事は出来なかった。生命力のゲージがまだ九割は残っている。
蹴られた頭はラピスがキャッチ、動かなくなった体をトウヤが引き上げ、今地面に設置したキューブは解除した。
「なんか以外にあっさりね」
頭だけとなったクラウスに出来る事など、ただ「うぅ~」と音を出すだけだった。
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