八.表沙汰

 おじさんの帰りを待っている私の気分は、判決が下されるのをただただ待たされているソレだった。


「おじさんもこんな気持ちだったのかな……」


 あの日、お風呂で私の言葉を待っていた……おじさんの気持ち。



 ガチャリ


 玄関を開ける音がする。

 私は相変わらず、正座して指をついて待つ。



 鉄格子の向こうに立っている人の姿を見る。

 おじさんだ。

 良かった。

 良かった……のか?


 おじさんは急いで鉄格子の鍵を開けようとしているが、焦りのせいだろう手間取っている。そりゃ三重なんかにしてかけるから……




 部屋に入ってきたおじさんは息を切らして、私を見下ろす。

 私はおじさんを見上げ  ドキッとした。おじさんの私を見る目は、昨日までとはまるでちがっていた。得体の知れないものを見るような、知らない人を見るような……



「亜季ちゃん……君の家に行ってきたよ……」


「……」


「両親はいなかった」


「……」


「も う い な い って言われたよ……」


「………? 誰に?」


「警察官に……」


「………」


 そうか、そのパターンがあったか。

 知られないと思ったんだけどね……


 この家では新聞を取っていない。

 おじさんは仕事が終わると毎日急いで家に帰ってきてくれるし、仕事の休憩中などもカメラからこの部屋の様子を見ていたはずだ。家にいる間は、テレビを点けられないように私からそれとなくイチャイチャしようとした。


 おじさんはニュースなんて見るヒマがなく、そうしてそんな事件があったことすら話題にならなくなるくらいに時間が経ったものだと思ったんだ。でも、そうか……事件のあった家は今も見張りの警官が立っていたか。それは考えていなかった。


「ご両親に会いに来たって言ったら、警察官の人が親切に色々と教えてくれた。

犯人だと疑われるかと思ったけど、そんなこともなかったよ。」


 そりゃそうだ……

 警察は間違いなく、犯人が誰なのかを確信しているのだし。





 そして、

 審判が下される。




 おじさんは私の目線と同じ高さまでしゃがみこんで言った。


「亜季ちゃん、自首しよう」








「おじさんも罪を償うから、亜季ちゃんも一緒に自首しよう」



 言って欲しくなかった。

 おじさんだけは、

 おじさんだけは私の味方になってくれると思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、

思っていたのに、


 私は おじさんのことを 赦したのに ――――

 おじさんは 私のことを 赦してはくれなかった―――


 ロングスカートの下に隠していた包丁で、私は おじさんのノドをかっきった。

 信じられないような顔をしたが、そのまま血を噴き出して、おじさんは横に倒れた。



 こうしたことは、初めて行う時はなかなか上手くいかないものだが、一回でも経験していれば二回目以降は案外カンタンに出来てしまうものだ。ましてや、私はこれで五回目だ。私が人を殺したのは、これで五人目だ。




 案外カンタンに、私はおじさんを殺してしまった。




 to be continued...

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