ある地域で噂の都市伝説11
■6月9日 午後7時25分 森本浩樹
俺は佐来子らしき人影が路地裏にいるのを確認すると、走って近づいた。路地裏の電灯が切れかけているためよく見えないが、佐来子は塀の上に向かって何かを突き出しているようだ。
その塀の上には頭を出したりひっこめたりしている影がひとつあり、さらに佐来子は左側に何かを抱えているようだが、影になっていてこちらもよく見えない。
ちょうど電灯が点いた時にそれが何か分かった。
「美奈! 風花!」
佐来子が俺の言葉に気がついたらしく、一瞬こちらを見たかと思うと、すぐに逆の方向へ走って逃げていった。
「大丈夫か?」
路地裏に倒れ込んでいる風花を抱きかかえる。風花の呼吸が荒い。
「私たち、殺されそうになった」
美奈が塀から顔を覗かせながら言った。
「怪我はないか?」
「私は大丈夫。風花が心配」
「私も、だいじょ、ぶ……こわ、かった」
そう言うと風花は安心したのか、突然わぁーんと泣き出してしまった。
「逃げたやつはどこだ、捕まえてやる」
「やめて、あぶないわ」
「風花と美奈を殺そうとしたんだぞ。許せない」
俺は風花を抱き上げ、塀越しに美奈に渡し、佐来子を追いかけに路地裏を走った。
しかし、佐来子の逃げ足は早いもので路地裏を出るとどこにいったのか分からなくなってしまった。
息を切らしながら佐来子に電話する。トゥルルルと呼び出し音が鳴る。その呼び出し音に合わせながら乱れた呼吸を整える。
3コールほどで佐来子は電話に出た。
「おい。おまえ、いまどこだ?」
「なによ急に。今家にいるわ」
佐来子はあっけらかんとした口調で答えた。
「家? 嘘つくなよ。今、路地裏から走っていっただろう」
「路地裏?」
「しらを切るつもりか? この性悪女め」
「しら? しらなんか切ってないわ。家にいるわ……――あなたの家にね」
「っ!」
「アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
佐来子は笑い声をあげた。静かに、そして狂気に満ちた不気味な笑い声だった。
「アハハハハ……――嘘よ」
ツーツーと電話が切れた。そしてすぐに背後から色のないクリアな声で囁かれた。
「――あなたの後ろよ」
振り向くとそこには佐来子が立っていた。
マスクを外した佐来子は口裂け女のように口を大きくつり上げ、不気味な笑みをして俺を見ている。と、同時に腹部に激痛が走った。
「捕まえた。もうずっとアタシと一緒。ヒロキサンハアタシノモノ」
俺は視線を自分の腹部に移すと、そこには包丁が刺さっていた。 その包丁は佐来子が握っている。
ツツーと血が垂れ、ぽたぽた、ぽたぽたと地面に落ちる。
佐来子が笑っている。満面の笑みで笑っている。不気味に、そして静かに笑っている。
視界が
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