第八章・そして、始まるタクティクス ~ La・WOOL side① ~
絢爛と正義と白銀によって輝いた夜が明けた。
それから当たり前に朝はやってきて、今度は新鮮な朝日が煌めいた。
ただ、その太陽がいつもより翳って見える。
その雄大に広大に拡がり続ける青空がなんだか狭く思える。
色が違う。
空気が違う。
温度が違う。
何かが違う。
いつもと同じようで、どこか違う。
変わらぬようで、まるで違う。
……どうやら、彼女がここにいないというただその一点だけで。
俺や俺たちの世界は途端に色あせ、簡単に狂ってしまうようだ。
そして、そんな狂いを正すことはもちろん。
うまく馴染むことも馴染ませることもできないまま。
あっという間に時間は流れていく。
「……それでは皆さん、既にご存知かと思いますが……」
時刻は夕方。
騎士団の詰め所へと俺たちを集めたアンナが、作戦行動の最後の詰めをまとめる会議の始まりを宣言する。
「今朝方、『革命の七人』からラ・ウール王国に向けた宣戦布告がなされました。それは『ラクロナ大陸諸王国機構』の定めた宣戦布告時における条約の規定に則した……ええ、もう、これでもかというくらいに則した正式なもので、応じる側である我々もまたその規定に準じて手続きを踏み、ここに私たちの戦いは公的に『戦争』という形として相成ってわけで……」
「……なぁ、リリー」
「ん?なんじゃ。マスター」
「なんだかアンナ、微妙にイライラしてない?」
アンナがつらつらと流れるように概要を述べていく中、俺は声を潜めて隣に座るリリーに耳打ちする。
「ずっと君と一緒にいたけれど、何かあったのかな?」
「うむり。単に寝不足なんじゃろ。女の子の周期にはちと早いし」
「……俺にその余分な情報を教えて君はどうしたいんだろうか?」
「もちろん、それは今のところ遅れをとっとる地味子へのアシストに……」
「あ、いい。やっぱいい」
「女の子のしゅーきってなんだゾ?」
「ほら、無垢な幼女が食いついちゃった」
「女の子のしゅーきってなんなのだ?」
「ほら、むくつけき漢まで食いついちゃった……」
「あれじゃ、あれ。たぶん、相手が嫌味なくらいピッチリ、カッキリと戦争の作法を守ってきたことが、なんとも言えず腹立たしいんじゃよ、地味子は」
「まぁ、なんとなくわからないでもないか」
「そうなのだ、タチガミ殿。無法者の集まりのクセに、そこらの小国よりもよほど律儀に条約に準じてくるのが面白くないらしく、朝から終始あの調子だ」
「おねぇさん、ちょっと怖いんだゾ……」
「そういえば、やり手の副官っぽいのがいたっけ」
「あ~なんかいかにも委員長っぽいお姉さんっすね」
「そうそう、地味子とキャラがモロ被りした秘書っぽいオナゴな。その辺りでもきっとイライラしとるんじゃろうて。ほれ、別会社のエリート秘書にライバル意識を燃やしちゃうみたいな?……あ、ひそりひそり……」
「……君、内緒話する気ないだろ?」
「はい、そこ、うるさいですよ」
眼鏡の弦を苛立たし気にいじる我らが副官にして委員長にしてエリート秘書。
その眼鏡の下で細められた彼女の目蓋には、くっきりとクマが浮かんでおり、確かにここまで一睡もせずに忙しなく動き回っていたのだろうことがうかがえた。
……そう、ここにいる誰もと同じように、眠れぬ夜を越えて。
「ヒイラギさん、きちんと聞く気、あるんですか?」
「何故にほとんど絡んでない僕だけピンポイント!?」
「……ごめん、アンナ。話を続けてくれ」
「まったく、遊びじゃないんですからね。とゆーか団長はなんでそちらにシレっと混ざっているんですか。あなたはこちら側でしょ?」
「うむ、すまんすまん。カリカリしているお前の横にいるのが怖かったものでな」
「なら私が余計にカリカリカリカリしないよう、ご協力をお願いしたく存じ上げますでございます」
「……メイド長の系譜?」
「……すぐに脱線しやがるな……コイツら」
「とか言いつつホントは混ざりたいんじゃろ、猫耳よ?」
「……うっせぇよ……」
「『俺関係ねーし』とか風を装いつつ、実は笑っている皆の輪に入りたい、そっちから声を掛けてくれるのを待っている寂しがり屋なんじゃろ?」
「う・る・せ・え!!(ボグシッ)」
「イタ!!だからなんで僕ぅ!?」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
アンナが心底、疲れた溜息を吐く。
そんな実際に身も心も疲れ果てているであろう彼女には悪いけれど。
正直、こんな風に空気が緩むだけの余裕が生まれて、少し安堵もしている。
……アルルの背中を見送ってから今まで、本当に王宮中の雰囲気が重たかった。
当然だろう。
何と言っても国王と王女が一度に賊の手に落ちたのだ。
舞踏会の場でよくわからないうちにリリーによって飛ばされてしまった者も。
あの場に立ち会わず、穏やかな眠りを貪っていた者も。
当初はあまりに突拍子も現実感もない現状を懇切丁寧に説明されても、イマイチ、ピンとはきていなかった。
この平穏の世に。
少なくとも自分たちが属している豊かで華やかでとても狭量な世の中に。
そんな血生臭い暴力が侵入してこようとは誰も信じていなかったし、そんな物騒なものを想像することすらできなかったのだ。
しかし、帝都のラ・ウール領事館と暗部たる諜報部からの緊急報告。
各地に散らばる自分の領地から次々と舞い込む賊の進軍状況。
それらの情報の真偽を裏付ける『革命の七人』の遣いがもたらした宣戦布告。
そして国王陛下とアルル王女の姿がともに無いという事実。
現実感うんぬんと言って思考を逃避させるには、あまりにも現実が現実としてそこにあった。
真夜中に内政を実質とりしきる議会議員を招集して緊急会議を開いたのだけれど、混乱だの金勘定だの責任の所在のなすり付け合いだの、よくわからない各々のメンツや保身に関する討論に終始した。
なんの実りもない話し合いが数時間続いたのち、虚空が白い法衣を纏ったような『革命の七人』の使者(使い魔というらしい)から宣戦布告や各戦争の条件などを記した書状が届き、議会はさらに混迷を極めた。
『……見るに耐えないのじゃ』
『……であるな』
『……というわけで、イチジさん達は退場して客室にでも待機していただけますか?』
『ん?』
『こんな不毛な時間にあなた方まで付き合う必要はありませんから』
『それは別に構わないけれども』
『姫様が行方知れずとなった時もそうでしたがこの欲に狂った老害どもは……』
『……アンナ?』
『浅はか浅はか浅はか浅はかあさはかあさはか……(ブツブツ)』
『アンナ?えっと……アンナさん?』
と、アンナ、ギャレッツ、リリーだけを残し、討伐軍のメンバーは議論が行われた玉座の間から半ば強制的に追い出された。
……手持ち無沙汰になった俺やゼノ君が適当に時間を潰すことまた数時間。
議会が閉会したと知らせを受け、改めてこうやって呼び出される頃には幾らか緊迫した空気は薄らぎ、代わりに王宮内を慌ただしさと忙しなさが取り巻いた。
それはようするにパニックやら困惑やらでそぞろになっていた人々の心が何某かの方向性を見出し、明確に動き出したのだということに他ならない。
「しかし、よくまぁ、あんな会議ごっこの収拾がついたもんだ」
「それはひとえに、そこな眼鏡を被った鬼神の働きじゃよ、マスター」
「眼鏡は被る物ではなく掛けるものですが」
「と、ツッコミがズレるくらいに今も怒り心頭気味な地味子ちゃんの一喝によって場は収まったわけじゃ」
「……なるほど」
「いえ、ち、違うんですよ、イチジさん?私はただいつまでもグヂグヂクチャクチャと見当違いなことばかりを口にする方々に注意をして差し上げただけで何をしたというわけではなく、鬼だなんて言われるようなことは別に……はい。……そうです、そうです。何かをしたというなら貴女たちの方がよっぽど……」
「……何をしたんだろうか?」
「にょっほっほ。べっつにぃ~。なぁ、ヒゲ熊?」
「がっはっはっは。であるなぁ~始祖様ぁ?」
「議会場に続いて玉座の間も只今、倒壊の恐れがあるため閉鎖中になっております。……はぁ……陛下がお戻りになられたらなんて言い訳をすればいいのでしょう……ああ、どこから修繕費を引っ張ってくれば……もう全部『革命の七人』のせい。……是が非でも賠償金をふんだくって……(ブツブツ)」
「……なるほど」
『聞かぬが仏』と『触らぬ神に……』という逃げの文句を、最近どうも自分に多用している気がする。
「ともかく、アンナ。その辺の心配は国王様を無事に助け出した後ということで」
「……はい。もちろん。陛下と姫様の身、そしてこのラ・ウール王国もすべて守り抜いた後です」
そこでアンナは、この詰め所にも設置してあるアルル謹製のホワイトボードにサラサラと文字を書いていく。
「あちらが提示してきた開戦の日時は今日から数えて三日後の早朝。猶予が短い辺りはどこまでも、戦争という体を成しただけの侵略と略奪……お相手側の主張するところの『革命』なので文句は言えないでしょう。その短期間のうちに出来うるだけの備えをして私たちは戦いへと臨まなければなりません。……では改めておさらいしますが……」
そうしてアンナは追加でペンを走らせる。
(1)・『
(2)・敵本陣に捕縛されたアルル姫の奪還。
(3)・ラ・ウール王国へ侵攻してくる敵兵からの防衛。
「……と、戦いの目的は大きく分けてこの三つです。そして今からこの場にいる者たちだけでそれぞれに具体的な作戦を立案していきたいと思います」
「え?この七人だけ?いいんすか?」
「はい。他の方々には各々のやるべきことをしてもらっています。頭数ばかり揃えても何一つ良策が思いつかないのは先ほどの会議で嫌というほど理解しましたので全権を委任させ……委任していただいた私の独断ですけれど」
「委任させたんっすね……」
「こほん。……それに何も身内贔屓してのことではありません。ここにいるメンバーが、現時点のラ・ウールにおいて一番、戦いに慣れているからというのもあります」
「うむ。だから他の者には各国への支援要請や散らばった討伐軍への招集、兵の出撃準備やら城下の国民の避難誘導など細かい業務にあたってもらっておるのだ」
「適材適所、というやつです。……では、作戦会議を始めましょう」
「ああ、じゃぁ、はい」
そんな号令とともに、俺は手を挙げる。
「どうぞ、イチジさん」
「まず、純粋に兵の量が必要なのは(1)と(3)か」
「はい、特に(1)。デレク・カッサンドラの言を信じるなら『革命の七人』だけではなく、帝国軍5万人もあちら側についているということですからね。……どれだけ兵をかき集めても、まず物量差は絶望的のまま埋まらないでしょう」
「それなんじゃが、おそらくはハッタリじゃぞ」
「根拠はなんです?」
「あの正義マンの言い方は『帝国軍人5万は傀儡』だとかじゃったろ?つまりは己が手勢というよりは、何らかの術式で操り人形と化しているのか、ただ皇帝が人質に取られて嫌々従わせているのかのどちらかじゃ」
「単なる言葉の綾かもしれませんし、どちらにしても交戦は避けられないと思いますが?」
「じゃが、考えてみぃ?5万じゃぞ、5万?しかも泣くも黙る選りすぐりのエリート集団たる帝国軍人様(笑)なんじゃろ?そのすべてをそこらの魔術師風情が魔術によって完全に操り切れているとは思えん。中には魔術専門の兵士や魔術耐性の高い者だっておるじゃろうに」
「魔術による洗脳ないし操心の可能性は低い、と?」
「まぁ、決して可能性はゼロではないし、本当に骨の髄まで操られている者もいたりもするかもしれん。ただ現実的に考えるなら、やはり後者。単に協力を強制されているだけとみるのが妥当じゃろ」
「だとしても数の不利は変わらないのでは?」
「数はな。しかし、著しくその士気は低いじゃろうて。なんであんな正義バカに付き合わなくちゃならねーんだよと」
「それじゃ、リリーの作戦としては、まず先に皇帝を助け出すってことかな?」
「そうじゃ。いの一番、真っ先に。余計な殺し合いをしてせっかくの低い士気をムザムザ上げてやる必要もないしのぉ」
「そう交渉を持ち掛ければ道を開けてくれるのではないですかな?」
「どうじゃろ?聞く耳を持ってくれていればいいんじゃが……」
「交渉をするにしてもやはりより位の高い者。もしかしたら5万人は無理でも要所要所。現場指揮官あたりにその傀儡術を仕掛ければ話し合いの余地もなく、術の有無にも関わらず一般兵は否が応でも戦わざるを得ないですね」
「そういうことじゃ。先ほど地味子が言った通り交戦は避けられん。じゃから、この競り合いをいかに最小限に抑え込めるかじゃな。素直に5万人とやり合っても仕方ないから、『
「……なるほど、理解はできました。しかし、肝心の内部へ突入し陛下たちをお救いする役目は?仮にうまく道が拓けたとしても、建物内部の守りもまた一筋縄どころか、外側よりも厚い可能性の方が高いでしょう」
「我が行こう」
「貴女が?」
「なに、簡単な理屈じゃ。自惚れるわけではないが、いや、大いに自惚れちゃうんじゃが、おそらく我が今のこちらの最強戦力じゃろ?」
「……否定はできませんか」
「それにここの王宮のように、元からあちこち魔術的トラップや結界なども張り巡らされているじゃろう。そういったモノへの対処も我ならちょちょちょいとできる。さらにあそこの内部構造もある程度は知っておるから迷いもせん。さらにさらに不慮の事態がおきて作戦目標の遂行に支障が出た場合、最悪、建物ごと木っ端みじんにして無理矢理にでも道理を引っ込められるだけの火力もある」
「相も変わらず色々と規格外だな、君は……」
「かぁいいだけの幼女じゃいられない」
「そして、珍しくやる気なんだね?」
「うーん?まぁ、色々とな。思うところがあるんじゃよ。我は我なりに」
「……そっか」
少しだけ。
いや、瞬きするくらいのほんの一瞬だけ。
リリーの目が少し遠くを見るように細められた。
思うところ……か。
思わせぶりな言動でお茶を濁したり、お為ごかしを言ったりするのは普段からリリーの常套ではあるんだろうけれど。
その深く深く澄んで……澄みすぎてまるで底が知れない真っ黒な瞳の中に彼女が何を見ているのか。
たぶん、それはこんな時、こんな場所で詮索するものじゃないんだろう。
「吾輩もお供しますぞ、始祖様!!」
そう一際力強い声音とともに前に出てきたのはギャレッツ。
「元より吾輩はアル坊の代わりに陛下奪還作戦に参加する討伐連合軍の一部隊を指揮する役目。そして国王陛下の御身をこの手で持って救い出すことこそ使命と心得ておりますゆえ」
「まぁ、妥当じゃろうな」
「はい。団長にはそちらをお任せするつもりではいましたから」
「このギャレッツ。必ずや『
「それと……モブ男。お主も来い」
「ぼ、僕っすか?」
急に名前を呼ばれ、ビクンと、ヒイラギが反応する。
「い、いいんすか?そんな鉄火場に僕なんかが行っても」
「何をヘタレとる。だからお主はいつまでたってもモブ男なのじゃ」
「い、いや。大丈夫。ぼ、僕やります!やってやりますっす!!」
「……ですが、ヒイラギさんには酷なのではないでしょうか?」
アンナが少し控えめにリリーの案に反論する。
「コヤツのこと信じきれんのか、地味子よ?」
「いいえ、決してヒイラギさんの力を侮っているわけではありません。彼がこれまで示してくれた、特に魔術・魔力の強大さ、それでもまだ伸びしろ十分な秘めたる潜在能力など、あくまで部分的にではありますが、戦力としては貴女と比肩する部分も大いにありますし、頼りにもしています。……しかしながら……」
「……アンナが危惧しているのは精神面の問題かな?」
「……はい。正直に申し上げまして、ヒイラギさんは内面がまだその膨大な力について来ていないのかと思います」
「……そう……っすね」
「本来、≪
「……わかってるっす……」
「中途半端な理解と覚悟では、戦場は生き抜けません。斬ったハッタや殺し殺されが目の前で繰り広げられ、当然、その危険は自分自身にも及びます」
「わかってる……いや、これはわかっているつもりなんっすね、きっと……。実際にそういった場面……あの敵のボスが攻めてきた時、タチガミさんたちが戦っている中で、ただすくんで何もできなかった僕っすから……」
「……申し訳ありません。只でさえ、この作戦はどれも万に一つすら失敗は許されないのです。皆、生きるか死ぬかで他人を思いやっている余裕はないでしょうし、作戦の遂行に集中しなければなりません。……不確定要素たるあなたに、帝都組をまかせるは少々荷が重いと……」
「そんなもん、どこにいたってリスクは変わらんよ、地味子」
アンナがヒイラギの身を案じているがためにあえて厳しい意見を突き付けるのを遮るように、リリーが口を挟む。
「1~3、一つの失敗も許されないのはどこも同じこと。もしも、このモブ男を足手まといと判断しておるなら、本人の意思など問わず、問答無用でここから締め出していればよかったじゃろ」
「いいえ、足手まといだなんて言ってはいません。ただ、私は今の彼に最前線を任せるのは可哀そうだと……」
「『今の』と言ったの?」
にょほほと、いつもの軽薄な笑い声が、再度アンナの言葉尻をかき消す。
「のぉ、地味子よ?小娘もそうじゃったが、どうにもお主らはこのモブ男に対して過保護すぎやせんか?」
「過保護って……そんなつもりはありませんが」
「いいや、過保護じゃ。過剰保護じゃ。……まぁ、成り行きで巻き込んだ感は否めんし、そもそもコヤツを引っ張り込んでしまったのは我じゃからな、そこら辺は責められん。……じゃがな、地味子……」
テクテクと、うつむき加減のヒイラギの傍に歩み寄るリリー。
「こんなでもな、一応、オノコなんじゃ(ペシッ)」
「イタッ!!」
「一丁前に格好つけたくもなるし、誰かを救うだなんてヒーローめいたことを夢想していたりするんじゃよ。のぉ~モブ男よ?(ペシペシ)」
「は、はいっす!!ぼ、僕も皆さんの役に立ちたいっす!!」
「そんな男心、少しは汲んでやってくれんか、地味子よ」
「……しかし、そんな志だけで生き残れるほど戦場は甘くありません」
「なに、先ほどお主自身『今の』と言ったじゃろ。こういった力ばかり持て余したタイプは、実践の経験を積ませてやってなんぼ。頭の中や稽古などでばかり強くなった気になっても、本物の真剣な殺し合いを避けてばかりでは成長なんぞ永遠にできんぞ?」
「……彼の成長の場としてこの戦争を使えと?」
「そんな生温いこと、我が言うわけがなかろう」
「それはどういう……」
「もしも、後ろめたいことがあるのなら、それこそ死線の真っ只中にぶっこんでやる方がよっぽどコヤツの為じゃと言っとるんじゃ」
「そんな横暴な……」
「……いいじゃねーか、姉さん。やらしてやんなよ」
それまで腕組みをしながら静かに成り行きを見ていたゼノ君が割り込む。
「せっかく男が粋がってんだ。そいつを黙って買ってやるのも女の甲斐性だぜ」
「うむ、ゼノ青年はいま良いことを言った!」
そしてギャレッツが追従する。
「吾輩はヒイラギの男気に敬意を表す!案ずるな、ベルベット。コイツは吾輩が責任を持って面倒見てやる。なに、部隊を指揮しつつ、敵をブンブカと薙ぎ払いつつでも若人一人のお守りをするくらい楽勝である!!」
「ゼノさん、ギャレッツさん……」
「はぁ……男だ女だと持ち出している場合ですか……」
「アンナ、俺からも頼む」
一層、疲れたような表情を浮かべたアンナに、俺も声を掛ける
「イチジさんも……賛成なのですね?」
「君の言いたいこともわかる。むしろ、俺も君の意見の方が正しいんだと思ってる。何より確実性が欲しい作戦の中、やっぱり不確定要素をわざわざ難関な場所へ配置するのは愚策だろう」
「……はぁぁ……でも結局は男気とかいうヤツを汲めということですよね?」
「いや、少し違うかな。俺は純粋にヒイラギの力は国王奪還に必要な戦力だから推しているだけだ」
「タチガミさん……」
「まだまだ未熟だろうし、不確定要素極まりない奴だけれど……それを上回るだけの確実な力。全部のマイナス面を覆してあまりあるだけの力をヒイラギは持っている。……この感覚はたぶん、同じ≪
「ベルベットさん……お願いしますっす!!やっぱり胸を張れるほどの自信はないんすけど、それでも僕を……僕をどうか王様奪還作戦の方に加えて下さいっす!!」
深々と。
その内に秘めたる熱い決意。
自分の未熟を大いに理解し、それでも最前線に出たいという強い覚悟。
そんなものを過分に込めて下げられたヒイラギの頭に……。
「……はぁぁぁぁぁああああああ……」
感情よりも理性。
情熱よりも合理性を優先するいつでも冷静な参謀だけれど。
「……わかりました。では、ヒイラギさん。あなたは団長の指揮下に入って陛下救出の任務にあたって下さい」
やっぱり根は情に厚い、アンナベル=ベルベットは首を縦に振ってしまうのだ。
「あ、ありがとうございますっす!!」
「ですが、決して無理をなさらぬように。幾ら団長が見ているとはいえ、イチジさんのお墨付きがあるとはいえ、何かあってはあなたに最大限気を配っていた姫様に顔向けできませんので」
「なんじゃ~結局は、マスターの意見が決め手か、このムッツリ眼鏡め」
「ムッツっ!?」
「おうおう、そうやって普段はクールぶってるくせに実は私、あなたに従順なメスブタなんですというアピールじゃな、これは」
「ほぉ、ベルベット。お前いつの間に女の手管と言うヤツを身に付けたのだ?」
「頭の中ピンク姫の居ぬ間に露骨な好感度アップを狙っとる。あーあざとい、あざとい」
「な、なにを言ってるんですかそんな私情を挟むわけないじゃないですか何を考えているんですかありえないじゃないですかこんな時に不潔です!!」
「大丈夫」
「い、イチジさん。ち、違いますからね、ホント、絶対……」
「大丈夫だから」
「は、はい、あなたならそう言って……」
「そんなことしなくても君は十分イイ女だ、アンナ」
「ふみゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
まるで、ここにはいない、どこかの誰かの代わりを務めるみたいに……。
さりとて貞淑な彼女らしい控えめで可愛らしい叫び声が詰め所の中に響く中。
それでも作戦会議は廻り続ける。
「萌えるのぉ」
「萌えるねぇ」
「うにゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
【帝都組】
◎リリラ=リリス=リリラルル。
◎ギャレッツ・ホフバウワー。
◎ヒイラギ・キョウスケ。
◎反ラクロナ帝国組織討伐連合軍・約3千人。
◎その他諸王国有志・約3千人。
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