第四章 聖女の騎士団

第十六話 報告

 アメジストと名乗る謎の女からの攻撃を何とか乗り越え、さらに突如として何故か完全治癒になった二人は、三番ターミナルに着いた。バスは目的地の軽井沢と繋ぐ専用の海底トンネルを通って向かう。

 そこには、財閥階級プラチナランクの生徒達がバスを今か今かと待っていた。二人は羽川に詳しい状況を報告すると、『分かりました。騎士庁に連絡しておきます。後で事情聴取を受けると思いますが、とりあえず合宿のことだけを考えてください』と言われた。

「シュテルー! こっち、こっち!」

 すると、カリーヌがシュテルを見つけて元気よく手を振って言った。

「カリーヌ。合宿だけど、大丈夫かい?」

「大丈夫! だって、プロが直接私達に教えてくれるんだよ? こんな贅沢なことは、最高だよ!」

「アハハ、そうか」

 後ろから谷村の視線を感じつつも笑顔でカリーヌを見ていた。

 そのシュテルを見ていた谷村は、電話で自分の|監視者にかけることに……

「寛二様」

「どうだ? 奴について何か分かったか?」

「今のところは、確定的な証拠は掴めておりません。ただ、三つだけ気になる事が」

「言ってみろ」。

「一つ目は、筆跡についてです」

「筆跡?」 

「寛二様がカリーヌとのデートをしているシュテルを尾行するよう指示した時です」

 谷村はマンションのロビーで別れた時、曲がり角に潜んでいた|監視者に尾行の指示をしていた。


 中流階級シルバーランクとの喧嘩から、カリーヌの送りまでずっと尾行しており、シュテルとカリーヌは、全く気付いていなかった。そして、筆跡というのは二人が服を買いにいった時だった。

「小切手で自分たちの名前で書き、それで支払って店を出たのですが、夜の閉店時に忍び込んでその小切手を一枚コピーして父との筆跡と比べてみたのです。」

「で? どうだった?」

「一致しませんでした」

「一致しないだと? それは、おかしいな」

 谷村は、それを聞いて少しイラッとした。

「筆跡って言うのは、一族全て共通の特徴があるはずだ。それが無いというのは、学園長のダイルがシュテルを養子だということを黙っていたということになるな」

 この時、一つ目の時点で谷村はこんな推測を監視者に言った。


 それは、権力を維持するためのだ。長い間、自分の妻と子宝に恵まれずに、何とか産婦人科医に相談するなどして、子宝に恵まれようとしていた。しかし、どうやってもできなかった。もし子供が出来ずに学園長に就任してしまうと、のような支配をするしかなくなってしまう。


  つまり、学園長の跡継ぎを息子に継がせてアルフォード家の完璧な支配体制を作り上げ、影響力を大きくする計画ということだ。そこで、最終手段として養子を取り自分の実の息子というのを権力を使い偽装したということだ。

「なるほど、もしそれが本当だとしたらとんだ大事件ですね」

「あぁ、でもそれだけの理由で言ったら上手いこと言い訳されて、逆に名誉毀損で訴えられるからな」

 続いて、監視者は二つ目の気になることを言った。

「続いての件ですが、カリーヌの件です」

「はぁ? お前、『シュテルを調べてこい』と言ったはずけどなぁ?」

「まぁ、そう怒らずに。カリーヌにもシュテルと関連があるのか分かりませんが、不自然な点があったのです」

「不自然な点?」

「はい、シュテルがカリーヌを送った時です」

 監視者は、その時の様子をこう話した。


 夜六時ごろ、彼は、長距離移動魔術でマンションに着いたシュテルとカリーヌを尾行していた時だ。シュテルがカリーヌの手をつなぎ、入り口のとこまでエスコートした。

「シュテル! 今日は、本当に! 本当に! 楽しかったよ!」

「僕もだよ。こんな楽しい一日になって、君とのデートは人生の中で最高だよ」

「ありがとう! それと……」

「ん?」

 するとカリーヌが、もじもじして照れながらこう言った。

「また、機会があれば……デートしてくれる……よね?」

「う、うん……勿論だよ!」

 シュテルは、照れながら答えた。この二人の親密さは、より深まる事になる。 

「ありがとう! それじゃまた学校で会おうね!」

「あぁ!」

 二人は、手を振りながら別れた。


 近くの草むらから小さなバックを掛けて隠れながら二人の様子を見ていた。シュテルは、自分が住んでいるマンションへと歩いていった。

 ここで、尾行を終わろうとしたが、何故か彼の勘が、「カリーヌを尾行しろ」と言っていた。それに従いカリーヌの尾行をすることに。

 しかし、財閥階級プラチナランクのマンション内には、生徒達の部屋以外には監視カメラが沢山あって隙がなく、映ってしまうと不審に思われてしまう。

 そこで、彼は何か何処かの生徒に用事があると装うことで侵入することにした。


 警備室の受付に行き、警備員に上手くごまかすことに。

「ご用件は?」

「私、サリー様にお世話になっている谷村寛二様の使の田村です。入学されたということでそのお祝いの挨拶に参りました」

「そうですか、ちょっと待って下さい」

 警備員は、サリーという女に電話をかける。

「サリー様、こんな夜中に申し訳ありません! 実は、谷村寛二様の使用人の田村という者が入学祝いの挨拶にしにされたそうですが……はい……はい……分かりました! そう伝えます」

 電話を切った警備員が彼にサリーからの言葉を伝える。

「田村さん、サリー様から『通していいわ。今後とも谷村家との交流を深めるための良い機会だから、是非彼を通して』だそうです」

「ありがとうございます! あと、後ろで監視カメラを見てらっしゃる警備員さんでこのカップラーメン二つをどうぞ」

「良いんですか! ありがとうございます!」

「互いに、頑張りましょう!」

 彼は、不審を抱かせないためのとして、アーサーラーメン醤油味と味噌味をそれぞれ一つずつ渡し、エレベーターに向かった。

 彼は、エレベーターに入り二十五階のボタンを押しその階へと上がる。


 エレベーターがその階到達し、彼が降りてサリーの部屋二〇五五号室の扉へ向かう。マンションの部屋の通路は、まるで超一流ホテルのような外観。高級なバラ、ボタンなどの花が生けられた花瓶、床には五千万円以上するカーペットが敷かれており、このマンションのオーナーからの許可証が貰えれば、遊戯室、レストランなどが利用することが出来る。なお、有効期限は、許可が降りてから二十四時間となる。

 因みに、もし延長するなら延長料として二時間ごとに三万アーサーか、五万円をオーナーに支払う事になる。


 インターホンを鳴らしサリーが扉を開け、入学祝いの挨拶をすることに。

「サリー様、入学おめでとうございます」

「ありがとう」

「これ、入学祝いにご祝儀をどうぞ」

 彼は、バックの中から分厚い物が入っている茶色い袋を渡し、サリーが中身を確かめる。

 そこに、入っていたのは入学祝いの五百万だが、犯罪のようなことをして手に入れたお金。これをどうするか迷っていたところだったので、サリーにご祝儀のお金として渡した。言わば、マネーロンダリングだ。

「あら? 随分多いのね?」

「谷村様から、『これを渡すように』と言われたので」

 もちろん、嘘の発言だ。

「そう、有難く頂くわ」

「谷村様には、そう伝えてときます。」

 この後、三十分ぐらい部屋の中に話をして、別れの挨拶をした後、カリーヌが住んでいる最上階のフロアへ向かう。


 彼は最上階に降り、カリーヌの隣の部屋へ向かう。彼女の部屋は三〇一五号室でその両隣は空き部屋になっており、彼はカリーヌの部屋の左隣りにある部屋の扉の前に立つ。

「よし、ここの人達は、夜の十時半までカリーヌ以外、外出しているからな……さっさと、短めにカリーヌを調べてこのマンションを出よう」

 空き部屋の電子ロックの暗証番号は、必ず零が四桁なので安易に入れる。中を通りベランダに出る。


 部屋を出ると、カリーヌが誰かと電話で話している。彼は、彼女の声に注目して聞く。

「うん……分かった。でも、を今さら教えるの? に? でも、早すぎない? どうしても、話さなければならないのね? そう、分かったわ。そこまで言うなら告白するわ、を」

 そのまま話を盗み聞きするが、彼女が電話を切ったため一階に降りて、マンションを後にした。


「なるほど、それは気になるな。そのの言葉、もし何かシュテルについて手がかりになるなら調べてみる必要があるなぁ」

「はい」

「そして、三つ目は何だ?」

 監視者は、最後の気になることを報告する。

「実は、入学の日になる最後の一時間で複数の生徒達から目撃情報が有りましてね」

「目撃情報?」

「はい、実は大聖堂の方から青い光が見えたというのです」

「青い光?」

 谷村は、カリーヌとマイケルと楽しそうに話しているシュテルをちらっと見る。

「えぇ、その青い光を見た時に何故か強い眠気に襲われて、寝てしまったようなんですよ」

「分かった。合宿が終わった後、大聖堂を調べる。それまで大人しくしていろ。いいな?」

「分かりました」

 谷村は、電話を切ってシュテルを見ていた。

「では、皆さん! バスが来たので即刻荷物を積み、乗って下さい!」

 彼女の指示が出て、財閥階級プラチナランクの生徒達は、それぞれのバスに荷物を積み、乗車する。全員を乗せた後、海底トンネルを通りながら軽井沢へと向かって行った。後にシュテルは、待ち合わせになっているの正体を知ることになる。






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