おしゃべり相手
ジロは空の上から預かり所を魔法で探って驚いた。
亜人と人間の混合集団であったからだ。
(てっきりゴブリン辺りの山を根城にする盗賊集団だと思ってたけど、まさか人間とゴブリンの混合集団だったとは。人里離れた山奥とはいえゴブリンと一緒に暮らす事ができる人間がいるなんて、世の中は知らない事だらけだな)
本店近くの街道警備隊には世話になった為、お礼としてこの洞窟に住み着くゴブリン退治を報告に上げようと考えた。
(人界では呆れるほど強力になった魔術で殺せばいらない詮議を受けかねないから、剣で切り捨てて見た目もまずい事になりそうな致命傷も、死体は狼に食べられていたってのを演出しようと、わざわざ森にいた狼の一団を使役したってのに……)
「まさか肝心の剣を買う金もないとはなぁ……。言われてみりゃ、いつももらった剣士か使った事なかったからなぁ。安い剣の相場なんて知らないし……ゴーンさんが呆れる訳だな……まさか最下級品ですら銅貨じゃ買えないとはなぁ……」
震えながらも、ゴブリンを見下ろしながら、ブツブツと文句が口をつく。ジロは自分の商人としての知識の無さに嫌気がさした。
「でもしょうがねえよな……。貴族で剣の話する時は、誰それの業物がっとか、どこそこの王室鍛冶屋が魔石付与の新作を発表したとか、高い剣の話題しか出なかったからなぁ……。贈り物にしても値段を聞くなんて野暮だし……」
ふと坂下の、普通ならば凄惨な光景に映る虐殺が目に入った。
(待てよ? 人間もあいつらに食べさせる事になるのか……、……? 心が少しも痛まねえ。半魔様々かな?)
人間には悪い事をしたと思うが、まぁ街道を荒らし人を殺す事しかしないゴブリンと群れていたんだ、こんな死に方でも仕方がないっとジロは自分のこれからすすであろう殺人行為は少しも悪びれずに、人間達の冥福を祈った。
降りる先にいるゴブリンが目障りだったので、群れに指示を飛ばすと一際大きい一頭の狼が急坂をもろともせずに、駆け上がっていく。
「おっ、あいつは……」
ジロの心の精霊を使った魔術、ジロ命名では《
入り口にいたホラ貝ゴブリンは自分に向かってくる大きな狼に気づき洞窟の中へと逃げようとし、入り口にも張ったジロの魔法壁の存在に気づき、洞窟への逃亡を即座に諦め、腰の手斧に手を伸ばし、リーダー狼へと向きなおる。
その判断の速さにジロはほうっと感嘆の声を上げる。
ホラ貝ゴブリンは、素早く狼へと手斧を振り下ろした。
だが、リーダー狼はあろうことか、手斧ごと牙で破壊して、ゴブリンの頭を食いちぎった。
「……強化しすぎたかな? ……バレたらまずそうだし、終わったら始末して新しい――」
いかにもまずかったという風に、リーダー狼はゴブリンの頭をペッと吐き出すと、一目散に坂下に駆け下り、落ちていた槍を咥えなおすと再び坂を駆け上がり、洞窟の入り口へと舞い戻った。
そしてジロを迎えるように、デンっとお座りをして洞窟の横で口を血まみれにしたまま、槍を咥え、パタパタとシッポを千切れんばかりにふりながら、待機している。
「――かわいい奴だな。よし生かそう。要は人前で狼達を使役しなけりゃいいんだ。森の奥で生活しろって命令して……。人里には近づくなと言っておけばいいし、それにいざとなったら目撃者を徹底して殺させれば問題もないな」
ジロは一瞬前まで殺そうと思っていた狼達を生かす事に決めた。
ジロは地面に降り立つと、その頭を撫で、血塗られた槍を受け取った。ジロは首なしになったゴブリンの服でその血を拭い、槍を数度振って使い心地を確かめた。
「ご苦労様。……長槍か。洞窟で振り回すにはちょっと面倒だが、ありがとう。使わせてもらおう。中の連中は逃がしはしないが、万が一、逃げてきたら確実に殺してくれ」
っとリーダー狼に伝えると、オオオオオオ~~~~ンと遠吠えを上げた。
狼は任せておけと言っていた。ジロは微笑んで再度頭を撫でる。温かくもあったので、暖を取るため抱きしめようかと思ったが、ゴブリンの血で汚れそうなので止めた。
「お前は賢いな。名前をつけようか……アーグの友達になってもらいたいって願いも込めて……、アーグルってのはどうだろうか?」
リーダー狼は再度遠吠えをした。
「気に入ってくれたか。じゃぁアーグル、頼んだぞ。魔法で探ったこの洞窟の緊急時の逃げ道っぽい方は……。ふむ? 大丈夫? そうか、何頭か手練れを伏兵として配置済みっと。ああ、それと、ゴブリンは喰ってもいいが、人間達の顔をグチャグチャにするのは止めろ。名のある賞金首かも知れないからな。他にも中にゴブリンは一杯いるから、仲間にそう伝えておいてくれ。
「……何? そもそもゴブリンも人間も不味いから食べる気がない? ……そ、そうか、お前らってなんでも食べるわけじゃないんだな。ふむふむ、今は冬でもないし、他に美味い獲物は一杯いる? 命令なら食べるって……、いいや、食べなくてもいい。俺が死体に残すであろう傷を、適当に噛みついて、荒らしてくれ。……まぁいい、今のお前なら細かい話も仲間に通じるはずだ。行け」
即座にアーグルは坂を駆け下り、藪へと飛び込んでどこかへ消えた。
アーグルの耳慣れない狼の遠吠えが鳴り響いた。
ジロは中へ入るために魔法壁を破壊する。
途端に中から複数の声が聞こえてくる。外の騒ぎに気づいている様子はない。
当初、魔界で習った魔法、《
サラに習った同じ効果が重複する詠唱など、無意味な手順の多い術式を忠実に展開させるとあっさり成功した。
サラの方法は無駄と思える術式が目立ったのだが、《
《
そしてアーグルの群れは数も二十頭ほどいるので、例え一般的な騎士団相手でも、百名程度であれば無傷の勝利は揺るがないという事も知らないし、頭の良いアーグルはそんな単純な正面戦闘もしないという事実も知らない。
そしてジロの《強化》は人界のすぐ効果の切れる通常魔法と違い、魔王から直接魔法指南を受け、魔界魔法とも言うべき魔法基礎を叩き込まれた為、人の魔力はきっかけで、漂う精霊を捕まえる事で発動する代物となっていた。
ジェリウスやカルラほどに魔法センスがあれば、驚天動地のその事実に気づいたのだが、才能無いジロはサラに習った魔法の使い方は魔力消費が減った事と裏の精霊の存在を知らされただけと思っていた。
アーグル達に施した《
それは解除するまでは百年、二百年と言った、人の世で個人単位としては永遠とさえ定義できる常識外れの長期間に渡り、効力を発揮する。
アーグルの群れは、一夜にしてルイネ王都も含め、付近で最強の戦闘集団となり、無知、無自覚のままジロは最強の一隊を手に入れていた。
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