掌握
ジロはその日と翌日丸々、街道の警備隊詰め所に軟禁され、事情聴取を計三度受けた。
街道警備隊からと、神殿騎士団と王国騎士団からだった。
全てを終え、ジロが警備隊詰め所から丁寧な扱いで解放された。
政治から距離を置く街道警備隊は各方面の零細領主連合ともういべき組織であり、関心事のもっとも上位は街道の安全であるので、ジロの語った黒装束の夜盗退治は顔見知りの警備隊隊長からみれば、感謝の念だけしかなかった。
街道警備の手伝い、感謝します。との言葉さえもらった。
(今度なんらかの手伝いを本当にやらないとな)
っと頭を掻きながら森へと急いだ。
シカリイクッター以外からの尾行がないのを確認して、ジロはいそいそと宝の回収にしようとし、
藪には何もなかった。
ジロは時間をかけて必死に、金貨の山となるはずの武器五点を探したが、影も形もなかった。
怒りにまかせて探知魔法を使うと、見覚えのある反応があった、人里ではなく、山中のようだ。
ジロは上前を跳ねた山賊、または亜人種の仕業だと解り胸をなで下ろした。
近所の木こりやら村人、旅人であったならば記憶改竄や調査が必要だったが、これなら話が早いとジロは逆に喜んだ。
(思えばあの武器をエリカやリーベルトが見咎めるとも限らない。安全な隠し場所に隠してあると考えるか!)
そう思うと、ジロの怒りは霧消した。
◆
街道を再び王都へと向かい、今度は検問所を通らない道を選び、王都へと舞い戻り、そこに待たせてあったマールの先導で、ジロが根城にしてある宿屋へとやってきた。
別の女性を連れ込みやってきたジロに嫌味をいう宿屋店主から部屋を一室借り受け待機していると、アルフレッドが
ジロが待っていた事に驚き瞬時に逃亡を図ろうとした駐在所のトップを、アルフレッドとマールが無力化させ、その後ジロが四人と同じ手順で洗脳を施す。
今は暗示が解け、正気になっているアルフレッドは、ガタガタと身を震わせながら怯えていたが、キーワードをジロが言えば、また洗脳された記憶を無くすために、ジロは問題にしなかった。
(マールはアルフレッドよりも肝が据わっているようだな。……やはり女は強いな)
まるで前々からの忠実な部下のように、ジロの一挙手一投足をジッと黙って見ているだけだった。
それから丸一日を使い、トップが管理している全駐在員の男女八名すべてに洗脳を施して宿を後にした。あの夜街道を見張らせていた下っ端は全員で話し合い、もっともらしい事故死という報告を作らせるように指示して、ようやくジロは一仕事終えた気になった。
◆
酔っ払いながら城門を出て六日目の朝、ようやくジロの生活の場の中心である本店へと辿り着いた。
ジロにばれた木こりギルドの息子が、いたずらをやめた為に、今度は小屋は無事だった。
本店から1㎞程離れた場所に覚えのある魔石の反応がある。
単なる技術となった魔法、『魔術』を使い気配を探るまでも無く、ジロがキーワードを口にするまではジロの手先になった記憶を失ったマールが、偽りの記憶のまま、ジロを遠方から見張っているのが解る。
(あいつともこれからは定期的に接触しないとなぁ……。洗脳に不具合が起きていれば、俺好みの美女だが、殺してしまおう。他にも情報源はアルフレッドを含めて三人もいるしなあ)
物騒な決意をしながら、いかにも暇だという風に、マールに向けて伸びとともに大あくびをしてみせる。
「間抜けた奴を監視する意味はあるのか? なんて考えてんだろうなあ」
独り言の後、掘っ立て小屋の中に入ると、不覚にも居心地の良さを感じてしまった。
昔の暮らしぶりとは雲泥の差はあるが、今やここだけがジロにとっての居場所なのだと解り、内心うんざりとした。
木箱をチェックして盗まれた品はないかと確認したが、やはり何も盗まれていない。
食料棚に、市場で仕入れた当面の食料を入れるとようやく人心地付けた。
木戸を開け放ち籠もった空気を逃がすと、カウンターに座って筆の用意を整え、ジロは自分の師匠宛に手紙を書いていく。
本題である壊された魔法剣の事は書かず、訪ねてもよい日程を尋ねるだけの簡素な内容にした。
「まあ、本題は聖剣の方なんだけどなあ」
◆
手紙を書き終えるとジロは小屋からほど近い、人口五百人程度のトロンの町にある木こりギルドへと赴く。
ジロは、小屋を荒らしたドラ息子を捕まえ、小間使いとして雇う契約を無理やり果たした。
ドラ息子のダンは、ジロの騎士としての功績を知っており、ブルブルと震えながら、
「ご容赦下さい! なんでも従います! 殺さないでくれ! 騎士様!」
っと懇願した。
(うわぁ……騎士のイメージ悪ぅ!)
ペール王国民が抱える騎士像の大半は王国騎士団員によって作り出されている。
王国騎士団は、各貴族の領土と違い、王都近郊において、平民に対する唯一の警察権も有しているため、騎士ではない平民が王国騎士ともめごとを起こすと、大半はもみ消される。
最悪の場合は、王国騎士団と揉めた平民は殺されるが警察は動かず、被害にあった平民は泣き寝入りするしかないという類の話は掃いて捨てるほどあった。
たまたま通りかかったギルド長であり、ダンの父であるゴーンは、長としての貴族との折衝などを経験しているため、王国騎士と神殿騎士出身のジロとの騎士団的構造の違いをよく知っているようにジロには見えた。
ゴーンは王国騎士団以外には特別気を張る事はない。
ましてや近所に越してきたジロに対しても初対面時に「所属はどちらで?」と一番最初に聞いてきたし、王国騎士団派閥ではないと知り、数週間後にはジロからの情報の裏取りもし終わったようで、それからはさらに(敬意はあったが)ジロに対しての遠慮がなくなった。
そのゴーンが「ジロさんよ! こいつの性根をたたき直しておくんな!」っと豪快に笑いながら歩み去った。
(なら、ゴーンさん……。その辺りの事もしっかり息子に教育もしておいてくれよ)
と、ゴーンと世間話をしながらジロは心中で愚痴を言った。
◆
ジロは、ゴーンに対しては、小屋の件で、これ以上は貸しを作れそうにないなと
さっそくダンにトロンの町外れにある郵便屋に手紙を届けるよう命じると、矢のように飛び出していった。
ガルニエ家の王国最後の一人であるジロの失点を探す悪質な王国騎士団の監視下であろう郵便屋であったが、内容は誰に見られてもいい内容だったので、ジロは特に気にしない。
風のように走り去るダンに興味を覚えて、郵便屋へと駆けて行くダンを、暇しか持っていないジロは長い事眺めていた。
そしてダンの走力と脚力を見て、小屋を汚くされただけで、いい小間使いを手に入れたもんだっと、召使に囲まれて育った大貴族出身のジロは、自分の幸運にしみじみと感謝した。
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