余所事の話 秘者

 ◆ペール王国騎士団所属、魔界調査室からの資料より抜粋。


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 秘者というのは魔界を統べる、最上位魔族の総称である。

魔界の住人たちは大きく二つに分けることができる。


 一つは魔界に済む知性の劣る獣達。

 もう一つは秘者達である。


 であるので、魔族+種族。そして秘者+種族という二つのくくりが成り立つ。


 分かり易い例で言えば、国境付近に頻繁ひんぱんに視認できる、隊員一人でも対処可能な小型のサンドウォームは、『魔族のウォーム族』である。

 そして隊伍たいごを組んでいたとしても、戦闘行動を避けるべき大型サンドウォームも同じく『魔族のウォーム族』である。


 秘者とは、魔族の強さの強弱によって使い分けるのではなく、強大な力を持ち、言語を操る知性があるかどうかで分ける。


 よって未確認ながら『人語を理解し応答でき、なおかつ強大な力を持つサンドウォーム』が現れた場合は、その個体は『秘者のウォーム族』と呼ばれるようになる。


 種族としての秘者というのは存在せず、魔界の秘者である種族は、元は人界にも同じ種族が存在すると思われていたが、第三十二回目の大魔法使いハーゼン率いる派遣調査隊によれば、新たな種族が複数見つかった。


 例えばその身に五大精霊を宿す、オーガ族がいる。オーガ族は人界でも確認できるが、精霊を宿すオーガ族はいない。(別稿・グランクラン神聖王国の、オーガとの交流記録を参照の事)

 ゆえに精霊オーガ族とも呼ぶべきその種は魔界においてのみ存在したものと思われる。



 一説によれば魔界内で、秘者の祖ともいうべき何者かが存在し、それぞれの種族の主立った者を秘者に変えたとも言われている。



 秘者となったであろう人間の存在も、確認済みではあるが、その後、その秘者との接触が、皆無のため実態は知れない。


 秘者は長命の者が多いとされているが、それが立証されるような観測はいまだにできていない。


 王都ルイネリアが幽界に沈んでから、早五年。


 幽界に対して有効な手段を持つ秘者との友好関係の構築は、ペール大王国において、最優先課題であると言える。




             王国暦673年

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