第二十八話  合体。

 【Tシリーズ】パイロット達は緊張とともに混乱していた。【合体シークェンス】の起動アイコンがどこにも見つからないのだ。マニュアルにも記載されていない。

「くそ、ここに来て、どうやればいいかわかんないなんて!」

 勇夫の声が6人のコクピットにも響いていた。

「マニュアルに記載されていないと言う事は、正規のパイロット以外へシステムの存在が漏れるのを防ぎたかったんだと思います。だから……」

 華夕は必死で考えた。合体システムの秘匿、それには理由があるのだろう。だとしたら、合体システムの起動は隠しコマンドになっているのではないか。

「みなさん! 音声入力に切り替えて下さい! 早く!」

 【敵】の集団がインターチェンジに向けて進路を変えて迫ってきていた。着弾の音が響く。が、堅牢な装甲は傷一つついていない。

「高度をとりましょう! ドッキング中に攻撃されるのは危険です」

 華夕の指示に従い、6機は高度を上げた。

 何が起きるのか、予想もつかなかった。しかし無数の敵機は迫っている。

「倉科! みんな! やろう!」

 勇夫は音声入力を起動したコンソールに向けて、コマンドを叫んだ。

「【合体シークェンス】、起動ぉ!!」

 5人のコマンドも聞こえていた。勇夫はコンソールに表示された手型の枠に自分の右手を当てた。コマンド・声紋・静脈認証がクリアされ、合体シークェンスが起動する。

 勇夫の機体が高度を下げ、一瞬にして地表近くまで降りた。もう一機が接近してきて、外部装甲が移動を開始した。機体のコア同士がドッキングして、人型のフレームが形成され、装甲板が再配置された。変形が完了した時、勇夫は巨大な人型のマシンのコクピットに座っていた。

「これは……ロボット!?」

 メインコンソールに名称とスペックが表示され、操縦桿がダブルグリップ式に分割された。

「トライツヴァイ……? A/Rコントローラー……? なんなんだこりゃ……。倉科!」

「勇夫君、何ボーっとしてるの! 敵に囲まれてる!」

 突然コクピットに響く肉声。声のした方を振り返ると、勇夫のシートの後ろ斜め上方に、瀬里奈のシートがあった。

「せ、瀬里奈さん!? く、倉科は!?」

 次の瞬間、智美の悲鳴が響き渡った。


 勇夫の機体がみるみる高度を下げていくのを見て、智美は後を追おうとしたが、合体シークェンスが起動している智美の機は制御不能になっていた。

 高度を保ったまま旋回するように飛行し、接近してきたもう一機とドッキングする。装甲が配置を変え、猛禽類を思わせるフォルムが完成した。

「トライアイン……?」

 恐る恐るシングルグリップの操縦桿を掴む。

「と、智美さん……ですか?」

 後ろから突然声がした。頼造だ。思わず智美は操縦桿を押し込んでしまう。

 機体は地面に向けて一直線に降下していった。

「智美さん! 操縦桿を引いて! 引いて下さい!」

 頼造の声と目前まで迫った地面。智美は悲鳴を上げて操縦桿を引いた。


 合体シークェンスが起動すると、華夕の機体も高度を下げていった。もう一機に接近し、両機の装甲板が移動を開始する。無限軌道を備えた可変式の足部が露出し、ドッキング後は4足歩行型の特殊車両となる。フォルムは重量級の四足獣だ。

 華夕のシートの前下方に、真島一樹のシートがあった。

「真島さん……」

 華夕がつぶやくように声をかけると、一樹は振り向きもせず、ただ舌打ちした。


 急降下してきた鳥型の機体が急上昇したのを見て、勇夫はそれが智美の機体だと確信した。

「倉科! 大丈夫か! なんで、そっちで……!」

 勇夫としては智美のパートナーは自分であるべきだった。

「勇夫君! 敵!」

 瀬里奈の声も、機体を直撃している着弾の音も勇夫の耳には入らない。

「倉科! 誰と……。 華夕ちゃんか?」

「勇夫さん! 私はここです! 敵に囲まれています、反撃を!」

 華夕の声が勇夫を促す。機体の操縦が勇夫のコクピットに集約されているため、瀬里奈はどうする事も出来ない。しかし副座式であるからには瀬里奈にも出来ることがあるはずだった。

「そうだ、A/Rコントローラーって!」

 瀬里奈はメインコンソールにA/Rコントローラーの説明を求めた。

 A/Rコントローラー。引斥制御システム。重力場制御を応用し、引力または斥力を発生させて制御するシステム。

 コンピュータの回答は、瀬里奈を満足させた。

「なるほどね……! じゃあ……斥力発生! 来るなぁぁ!」

 瀬里奈が斥力を発生させると、周囲に近づいていた【敵】機が吹き飛ばされていく。

「よっしゃあ!」

 嬉々として指を鳴らす瀬里奈。


「倉科! 誰と乗ってるんだ!? まさか、真島……」

 コクピットに響いてくる勇夫の声。機体の動きを制御できない智美はその問いに答える余裕もない。

「すまないね、勇夫君。私なんだ」

 智美の後ろで、頼造が答える。

「ら、頼造……さん……? なんで! どうしてなんですか!」

「そんな事わかるわけないでしょ!」

 瀬里奈の声が割り込む。

「今の状況を考えなさい。合体の組み合わせなんて私達の意志じゃないんだから、文句言っても始まらないでしょ!」

 瀬里奈が勇夫に説教しているのを聞きながら、頼造はそうすれば智美が落ち着いて機体の制御ができるか考えていた。

 コンソールを手早く操作する。合体後に使用可能になるシステムが、この機体にもあるはずだ。

「Iコントローラー……?」

 頼造のつぶやきに反応して、コンソールが回答する。

 Iコントローラー。慣性制御システム。重力場制御を応用し、慣性を制御する。また、異なる慣性系への直接移行を可能にする。

「そうか……」

 頼造の顔に納得の色が浮かぶ。正直智美の操縦は滅茶苦茶だ。かなりのスピードのまま滅茶苦茶に方向転換している。普通ならパイロットには、ただではすまないレベルのGがかかっているはずなのだ。

 頼造はIコントローラで機体の慣性をキャンセルし、地表との相対速度を0に設定した。

「智美さん、落ち着いて、操縦桿から手を離して下さい! 機体を停止させました!」

 智美が慌てて手を離すと、鳥型の機体は空中で静止した。急停止をしてもGがかからないため体感で止まった実感を持つことはなかったが、周囲のモニタに映る景色が静止している。

 智美は周囲を見回して、機が止まっているのを確認すると、ゆっくりと後ろを振り向いた。

「あ……ありがとう……ございます……」

 こわばった顔のまま礼を言う智美の息は、まだ弾んでいる。

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