第212話西の京散策(3)玄奘三蔵院伽藍

薬師寺金堂と東院堂を拝観した一行は、次の白鳳伽藍から北に徒歩2分ほどの位置にある玄奘三蔵院伽藍にへと進む。


さて、その玄奘三蔵とは、かの西遊記のモデルにもなった三蔵法師。

当時の中国の国禁を犯してまで、仏教の経典を求めてインドまで困難な旅を行った。

その後、17年間の長きにわたるインドでの勉学を終え、帰国後は持ち帰った膨大な経典の翻訳に専念した。

その中で、日本人にもなじみが深い般若心経は、この玄奘三蔵の訳である。


仏教史上では、法相宗の始祖の一人とされ、日本の法相宗の興福寺、薬師寺にも深い縁がある。

また、特に遣唐使の一員として入唐した薬師寺僧の道昭が、長安の玄奘三蔵に教えを直接、それも同室で受けたと言われている。

また、その道昭の弟子とされるのが、数々の社会事業や庶民への仏教を広めた、かの行基である。


光は玄奘三蔵院伽藍まで歩きながら、ブツブツとつぶやいている。

「ほんと、すごい執念のお坊さんだなあ」

「それに、この日本とか奈良にも関係が深い」

珍しく、真面目な顔になっている。


その光に春奈が声をかけた。

「だからね、光君、いつまでもナマケモノではいけないの」

「玄奘三蔵様を見習うとか、行基さまの働きに感謝して、もっとシャキシャキ動くとかさ」


光が、「え?」と、うろたえると次はソフィー

「光君はボンヤリしているから、孫悟空みたいな頭を縛る輪をつけてもらうといいよ」

「観音様にお願いしてつけてもらおうかなあ」

言い終えて、ソフィーはニヤリと笑っている。


光は、いきなりそんなことを言われて、ウロタエから呆れに変わった。

「この女性たちは悪魔かもしれない」

「僕はお猿さんじゃないって」

「どうして何かにつけて、ゴチャゴチャ言ってくるのかなあ」


そんなやり取りがあったものの、一行は玄奘三蔵院伽藍の前に到着した。

その玄奘三蔵院伽藍は、平成3年に建立された比較的新しいもの。

かなり大規模な伽藍ではあるけれど、薬師寺旧来の白鳳伽藍と異なり、公開期間が設定され、1年の半分程度しか公開されていない。

また、薬師寺らしく朱色で華やかな礼門の先には、玄奘三蔵の遺骨を祀る「玄奘塔」が垣間見えるようになっている


その礼門の西側にある入り口から内部へと入ると、すぐに玄奘塔の正面に辿り付く。

堂内には玄奘三蔵の木像及び遺骨が祀られ、その堂を囲むように朱色の柱の回廊がある。


華奈が宗教学者でもある母美紀に質問をした。

「ねえ、母さん、本当に三蔵法師様の遺骨なの?」

その美紀は、微妙な顔。

「日中戦争当時に中国の南京で発見された玄奘三蔵の墓所に埋葬されていたものを日中双方で分骨したものらしい」

「彼の遺骨をお祀りするお寺は中国にも複数あるし、日本でも埼玉県の慈恩寺にもあるということになっている」


そんな話の中、光たち一行が、神妙な顔でいろいろと見ていると、一人の僧侶がお堂の奥から現れた。

そして、光たち一行に深く頭を下げ、合掌、語り掛けてきた。


「ようこそ、皆様」

柔らかい声である。


光もハッとした顔で、頭を下げる。

その光の動きに、全ての巫女がならう。


お堂からでてきた僧侶は、言葉を続けた。

「ありがたいことです、阿修羅様、そしてこれほどの徳の高い御神霊様方」

その僧侶の言葉が響くたびに、周囲を不思議な香気が広がっていく。


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