第206話奈良林神社にて(1)

和菓子店の店内でお饅頭を食した、光と巫女たちの一行は、再びサロンバスに乗り込み、「お饅頭の神社(林神社)」がある漢國神社に到着した。

尚、この神社は近鉄奈良駅から50mと至近の距離にある。


宗教史学者である美紀が説明をはじめた。

「まずは、漢國神社から」

「漢國神社の創建は、推古天皇の元年だから西暦593年、の勅命によるもの」

「祭神は、大物主命、その後、養老元年だから西暦717年に、藤原不比等公が大己貴命と少彦名命を合祀」


「そして、林神社は、祭神は林浄因」

「林浄因は、中国浙江省の人で貞和五年だから西暦1349年に来日」

「林浄因は、この漢國神社に住み、日本で最初に饅頭を作って、好評を博した」

「その後、足利将軍家を経て、遂には宮中に献上するまでになった」

「現代に至るまで、全国の菓業界の信仰を集めています」

「また、室町末期から桃山初期にかけて林家の林宗二が、初期の国語辞書である『饅頭屋本節用集』を著し、印刷・出版の祖として知られています」


美紀の説明は、よどみなく進む。

「また、この境内の中には、徳川家康が慶長十九年十一月の大坂の陣の際、木津の戦に破れ逃げてきて、この神社の境内の桶屋に隠れ、九死に一生を得たという故事があるの」

「徳川家康は、その翌年、その時の恩に報いるため御参拝、御召鎧一領を御奉納したとか、その後に鎧蔵を建立したとか」

「その後、将軍家からの使者は年々立てられたという話もあります」



この美紀の説明には、特に関東育ちの巫女の由香利と由紀は、興味津々。

由香利

「へえ、それほど大きな神社とは思えないけれど、深い歴史がありますね」

由紀

「お饅頭の話も面白いけれど、家康公と将軍家のお話も初耳」


また、中国人である春麗は、ことのほか神妙。

「とにかくうれしいなあ、食べ物を伝えて喜んでもらったり、国語辞典を作ってみたり、同胞として感じるものがある」


しかし、そういうマトモなことを言うのは、奈良育ちではない巫女たち。

奈良育ちの巫女は、さっそく騒ぎ始める。


楓が、まず光にニヤリ。

「光君、お饅頭祭りのこと覚えている?」


光は途端にうろたえる。

「え・・・何だっけ・・・それ・・・」


華奈もいち早く反応する。

「あ!思い出した!光さんの大失敗」


これは、おっとりルシェールも思い出したようだ。

「あーーー!あれね?あれはひどかった」


ソフィーも、それは知っているらしい。

「ほんと、超ヒンシュクだった」


しかし、春奈だけが、それを知らない。

そして、知らないとなると、かなり気になる。

「ねえ、あなたたちだけ情報を共有してどうするの?」

「しっかり説明しなさい」

「私は学園の保健の教師です、聞く必要があるのです」

春奈は、自らの社会的立場まで持ち出して聞き出そうとする。


しかし、光の「大失態話」は、母親世代の巫女も周知の話のようだ。

圭子

「まあ、光君らしい話だけど・・・笑えた」

奈津美

「菜穂子姉さんも、ガッカリしていた」

・・・・・

とにかく、光の母菜穂子が、ガッカリするくらいの大失態らしい。

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