第200話聖母マリアの出現(1)

奈良氷室神社と目指す教会までの距離は、約850m。

サロンバスでの移動なので、すぐに到着してしまった。


さて、サロンバスを降りる段になっても、ルシェールは光の腕を離さない。

これには、阿修羅から戻った光は顔を赤くするけれど、どうにもならない様子。


ルシェールが光に声をかけた。

「とにかく離さないで、それが大事」


光が頷くと、ルシェールはそのまま光を引きずり、教会へとのぼる道のわきに立つ、純白のマリア像の前に。


他の巫女たちも、ルシェールと光と同様に、聖母マリア像の前に集まった。

そして、ルシェールが目を閉じ、小声で何か呪文を唱えた瞬間。


異変が発生した。


目の前の、純白の聖母マリア像の肌に赤みがさし、目が開いた。

その像の身体も、動き始めた。

その次に、声も聞こえてきた。


「ようこそ、光君」

「実は阿修羅様の宿り子」

「それから、日本と世界各地の優秀な巫女様方」

美しく厳かな雰囲気に満ちた声である。


光が一行を代表して、聖母マリア像に応えた。

「お久しぶりです、マリア様」

「子供の頃以来ですね、ずっと来たいと思っていました」

光は、そこまで応えて少し間があいた。


そして、声を詰まらせた。


「年末にも、春先にも、この命を救っていただいて・・・」

「母にも逢わせていただいて・・・」

光の声が、珍しく湿っている。

それを聞く巫女たちは、涙ぐんでいる。


聖母マリアの声が、また聞こえてきた。

「光君には、つらい生活をさせてしまいました」

「お母様の菜穂子様も、悲しんでおられましたが」

「それも、光君に与えられた試練なのです」


光は、グッと唇を噛んでいる。

その少し震える身体を、ルシェールがしっかりと支える。


また、異変が発生した。


像であるはずの聖母マリアが、突然歩き出した。

そして、光と一行を手招き。

「私の後に」

と、教会までの坂道をのぼっていく。


ルシェールが光に、そして巫女たちに声をかけた。

「これから、聖母マリアのミサになります」


光は、前を歩く聖母マリアを見て、さらにその先の教会を見る。


光の目が輝いた。

「あの教会の中には」


その光の声に、ルシェールが応えた。

「うん、光君、一歩中に入れば、この世とは異次元の世界」


いつのまにか、これから入っていく教会全体が、眩いばかりに輝いている。

そして、光と巫女たちの一行を、真っ白な霧のようなものが包んでいる。

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