第194話一の巫女の正体 光の和歌現代語訳?

光は、素早く動いて、華奈の前に立った。

そして華奈に尋ねた。

「華奈ちゃんだったの?」

光にとって、あの不思議な神楽の一の巫女の顔は、華奈としか考えられないらしい。


華奈は、顔を赤らめた。

そして、コクリと頷き、

「うん、踊った」

「実は、母さんに子供の頃、仕込まれた」

「ずっと、光さんに見てもらいたかった」


光と華奈の会話を全ての巫女が聞きとっているけれど、特に嫉妬や反発の感情はない。


巫女を代表して、圭子が光に説明をした。


「華奈ちゃんが、一番若いということ」

「それから春日様の中の比売神様は、天照大御神様の御神霊」

「それも考えて、華奈ちゃんにお願いしたの」

「しっかりと間違いなく、舞っていただきました」

「あくまでも呪術の一環、お嫁さん候補とか何とかの人の念は入りようがありません」


圭子の説明は、そこで終わった。


光も、少々心配はあったけれど、それで納得、安心した。

それでも、もう一つ気になることがあった。

あの不思議な神楽に導いたあの神職は誰だったのか。

かなり品質の高い純白の衣装だった。


少し首を傾げている光に、由香利が突然、歌を詠みかけた。

そして、その歌は

「春日野の 若紫の すりごろも しのぶの乱れ かぎりしられず」の和歌。


光は、それをすぐに理解した。

そして、笑ってしまった。

「マジ?業平様?」


光が理解したのは、由香利が詠みかけた歌が、在原業平の伊勢物語の冒頭「初冠」の中に出て来る和歌であること。


その業平といえば、平安時代初期、平城天皇の孫で、阿保親王の子。

和歌においては、三十六歌仙の一人。

古今和歌集にの30首、勅撰和歌集に87首が入集している。

また、鷹狩りの名人としても名を知られているけれど、それ以上に昔から美男の代名詞である。


叔母の奈津美が、光に笑いかける。

「光君も授業中、眠ってばかりと思っていたけれど、業平様知っていたんだ」

「叔母として、奈良の育ちとして、これは安心しました」


クラスでは光の隣にずっと座り続けている由紀は

「うーん・・・眠ってばかりだけど、半分眠りながらメモしている時ある」

「それはそれで、かなり器用なの」

「字は乱れないし、罫線から外れないし」


楓が光に質問を出した。

「では光君、さっきの由香利さんが詠んだ和歌の、現代語訳を行いなさい」


「え?」とたじろぐ光に楓が追い打ち。

「ほら!業平様に笑われないように、さっさとなさい!」

朝、蜘蛛で大泣きになっていた楓とは全然違う、いつものパワフルな楓に戻っている。


「しょうがないなあ・・・ったく・・・」

光はブツブツと言いながら訳を試みる。


「春日野の若紫のように 若く美しい貴方がたのおかげで 私の心のひそやかな乱れは この着物の信夫摺りの模様のように 終わることを知りません」


ただ、その光の訳は、巫女たちには物足りなかったようだ。


「うーん・・・75点」

「やはり無粋だ、女心に」

「先が思いやられる」

・・・・・


そんなヒソヒソ声が続き、光はガッカリと肩を落としている。

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