第177話東大寺三月堂にて(1)

東大寺二月堂、三月堂、四月堂を含めた周辺は、東大寺が出来た当時のままを残す場所。

現在の、観光客と鹿であふれかえる同じ東大寺の大仏殿周辺とは異なり、人も少なく静穏な雰囲気に包まれている。


まず、キャサリンが目を丸くした。

「東大寺ってことなので、人が多いと思っていたのですが、ここは宗教的な雰囲気に満ちていますね」


そのキャサリンに、圭子が満足したような顔で

「さすがです、大仏殿には大仏殿なりの魅力がありますが、何しろ今は観光客が多過ぎます」

「しかし、ここまでは、そうですね・・・お水取りくらいにしか来ないかな」


サラも興味深そうに、見回している。

「一日でも散策したいお寺と思います」

「三月堂にも是非いきたくなりました」


光が、そのサラに応えた。

「うん、わかった、じゃあ、先に三月堂に」

光は、三月堂に向かって歩きだした。


東大寺三月堂は正式には法華堂のこと。

国宝に指定されており、奈良時代に建てられた東大寺の建物で現在残されている数少ないもののうちの一つになる。

また、三月堂は東大寺建築のなかで最も古く、東大寺が創建される前にあった金鍾寺の遺構といわれている。

天平勝宝4年(752年)に書かれた東大寺山堺四至図には「羂索堂」とあり、本尊は「不空羂索観音」を祀るお堂で不空羂索観音を中心に、創建当時の貴重な仏像が祀り続けられている。

尚、不空羂索観音とは、不空つまり空しい思いをさせない、羂索とは狩猟に使う縄で、これで多くの人を救うという意味を持つ観音様。

また、不空羂索観音を中心に、梵天・帝釈天立像及び持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王が立っている。


華奈の母にして、宗教学者の美紀が説明をはじめた。

「まず、この仏像も国宝となります」

「不空羂索観音は、天平19年だから西暦では747年、像の高さは362㎝」

「脱活乾漆像と言って内側を空白にして、中心となる部分には木の芯を入れ、これを土台として、その周囲を漆などの素材で固めて乾かして造った像になります」

「つまり、興福寺の阿修羅を含めた八部衆と同じ造りとなります」


美紀は、少し間をおいて、説明を続ける。

「それと、何より、この観音様の上には、世界三大宝冠と呼ばれる宝冠がのせられています」

「ツタンカーメンまたはクレオパトラ像の宝冠、ルイ14世の宝冠とも並び称せられるもの」

「銀製で、高さは88cm。2万数千個のコハクやヒスイなどの宝石で飾られ、繊細な模様も彫られている大変なお宝です」

「光背は、放射状に光を放ち、使われている宝石は翡翠」

「そして、新潟県・糸魚川で採れた翡翠」

「当時の日本では、糸魚川のヒスイは最高級品で、三種の神器の1つである八尺瓊勾玉も糸魚川産の翡翠」

「また、宝冠には約23cmの小さな仏様がが乗っています」

「この仏様は当時では唯一の銀製でした」


春麗が感動した様子。

「とにかく、すごいパワーを感じる」

「観音様といっても、確かにいろんなお姿があることは、知っていたけれど」

「四月堂の十一面観音様の、超可愛いお姿も好きだけど、これも・・・」


そんな春麗に光が声をかけた。

「そうだね、観音様は、様々に姿を変えて、人をお救いになる」

「僕も、さっき救われたよ」

「まさか、母さんの姿で、救っていただけるとは予想もしなかった」


春麗も光の顔を見た。

「そうだね、光君、今までと全然、違うよ」

「すごくスッキリとした顔になっている」

春麗は、そう言いながら、少しずつ光に近づいていく。

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