第171話異形の出現

光が機嫌悪そうに寝言を言い、圭子が笑い出してしまったサロンバスの中に、異変が発生した。


まず鈴の音が鳴り響いた。

「チリン、チリン、チリン・・・」


そもそも、サロンバスの中にいる人は、誰一人として、鈴など持っていない。

普通の人たちであるならば、目をキョロキョロ、不審がるところであるけれど、全員が異変の実態を理解している様子。

光でさえ、目を開いた、

そして光は、困ったような顔。


その次の瞬間、袈裟を着て錫杖と宝珠を持つ僧侶が、サロンバスの中にスッと登場した。


その僧侶を見て、まず華奈が弾けた。

「わーーー!」

「お地蔵様!見て見て!」

「うれしい!華奈だよ!光さんと腕を組んでいるの!」

いつもの華奈の大声三連発。


華奈以外の巫女も、「いつもの通り」をしかめるけれど、華奈にお地蔵様と言われた異形はやさしい笑顔。

「はいはい、華奈様、かなり成長なされましたね、今日はお伊勢様まで出向かれて、新たな力を授けられましたね、この地蔵も心強く思います」


その「地蔵」の言葉に、華奈は光と腕を組む力をさらに強めるけれど、光はあまり気にしていない様子。

それよりも、困ったような顔が続いている。


地蔵は、今度は光に声をかけた。

「光君、いや、阿修羅様がいいかな」

そして、フフッと笑い、言葉を続ける。


「もうね、大変なんです、わかっていますよね」

「まず、八部衆の面々・・・あなたが伊勢から奈良に入って来た時点で、かなり大騒ぎなんです」

「何故、我々にまず、挨拶が無いってね」

「それに、興福寺の我々をさておいて、東大寺四月堂とは何事かって」

「それから、あの金剛力士二体も、そんな感じ」


地蔵の言葉が続いて、光はため息。

「はぁ・・・ったくねえ・・・あいつらも大人げない」

「素直に国宝館で大人しくしているって分別がないのかなあ」

「何でもかんでも、現世に出て来て、暴れればいいってものじゃないと思うよ」

・・・こんなことを、本来光が言うわけが無いので、言葉を発しているの光の中の阿修羅になる。


ただ、光、というか阿修羅のブツブツもそこまでだった。

キャサリンがサロンバスの窓から外を見て、大きな声をあげる。

「えーーーー!本当ですか?右の窓に金剛力士様・・・阿形様が歩いておられるし、左の窓には吽形様です!」


サラは、身を乗り出して空を見上げた。

そして、また興奮。

「あらーーー烏みたいな・・・え?カルラ神が飛んでますよ、まさか実物を見るとは!」


春麗は、それよりもサロンバスの中に更なる異変を発見。

「八部衆の神が、すでに乗られています」

「サカラ神、ケンダッパ神、ゴブジョー神、ヒバカラ神、クバンダ神、ヒバカラ神・・・」


また、サロンバス内外の異変については、日本育ち巫女も当然、理解していた。


春奈は、その理由も理解している。

「お伊勢さんの御力ですよ、これ、こんなにはっきり見えるなんて」


ソフィーも、頷く。

「さすが神鏡の御力だね・・・でも、大事になってきた」


楓は珍しく不安。

「なるようにしかならないけれど、これだけの御神霊が集まると・・・」


さて、ようやく目を覚ましたらしい光は、ルシェールの顔をずっと見ている。

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