第137話アメリカ大使館付近の不穏

「光君!」

ソフィーは、校長室に入るなり、光の名前を呼んだ。

少々、失礼な行為とは思ったけれど、何しろ一刻の猶予も許さないと判断したらしい。


いきなり入って来て、名前を呼ばれた光は、少し驚いた様子。

しかし、一緒に座っていたキャサリンの表情の変化はない。

むしろ、「ソフィー様、ありがとうございます」と、頭をしっかり下げる。

どうやら、ソフィーがいきなり入って来ることまで、透視していたようだ。


また、光とキャサリンの前には、校長も座っていた。

そして、ソフィーに声をかけた。

「ソフィー様、とにかく、座ってください」

「一刻の猶予も許さないという事態ということは、よくわかります」

と言いながら、校長室壁面に設置された大型モニターを指さす。


ソフィーは、そこでようやく、一息。

光の右隣にはキャサリンが座っているので、ソフィーは左隣に座った。


校長は、ソフィーの顔と大型モニターに映し出された映像を見比べながら、冷静な口ぶり。

「ソフィー様も連絡を受けているでしょうが、現在のキャサリンの母国のアメリカ大使館付近の様子です」


校長の言う通り、確かにアメリカ大使館、そしてその周囲の状況が大型モニターに映し出されている。

その画面を見て、光がため息を漏らしている。


「あのプラカードがいろいろ、国会前のデモ隊と同じ人たちかなあ」

「オスプレイ絶対反対、米軍基地完全撤退は、昔からあるプラカード」

「それに加えて、エルサレムへの米大使館移転反対って、何で日本人がプラカードを持つの?」

「訳がわからないのは、政権打倒とか、9条を守れとか自衛隊解散とか、アメリカ大使館前で日本人が言うべきこと?」

「もっと関係ないのは、天皇制廃止だとか書いてある」


ソフィーもようやく落ち着いて来た。

「だいたい、集まっている連中は、かつての全共闘世代だね、年齢的に」

「すでに会社を定年になって辞めて、することもないのかな」

「あるいは、若い頃に集まってデモやったことが、そんなに面白かったのかな、それを忘れられないのかな」


校長も、ソフィーの分析に頷く。

「そうですね、会社勤めをしている世代では、とても平日の昼間、こんなことはできません」

「家族を支えるために、働かなければなりませんし」

「それと・・・」

校長の顔が少し沈んだ。

「今、大使館前に集まっている連中が、会社勤めをしている時期には、全くそんな動きもせず」

「今さら、暇になったからと言って、わざわざ、国際関係に傷をつけるような言動を繰り返す」

「大使館も大人だから、呆れて見ているだろうけれど」


ずっと黙っていたキャサリンが口を開いた。

「問題は、彼らの中に、火炎瓶とか、武器に近いものを持つ人があるようなのです」

「彼らの中に、万が一突発的な行為があって、大使館に被害をもたらすとか」

「それでなくても、現状では、大使館員が外に出ることだけでも、困難で危険に陥っているのです」


ソフィーは、画面をじっと見ている。

そして唸った。

「マジで・・・野党の国会議員が何人かいる・・・そしてマスコミ・・・」


光は、画面の中の野党国会議員の口元を読んでいる。

「アメリカ大使館にも、国政調査権行使?」

「アメリカ大使館員の外交特権をはく奪せよ?」

「国際法の根本を理解していない・・・」

「というか、そもそもとして・・・」

光は、ガックリと肩を落としている。

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