第127話地中海の海賊の話

光の表情が厳しいものに変わった。

そして、話しだした。

「今回の相手は、混乱と混沌、裏切りを誘発させる相手」

「とにかく、攻撃対象に不安をまず強いる相手になる」

「それも、正面突破ではない、今までのように面と向かっての対決ではない」

「歴史を例に取るならば・・・」


光の目の色が深くなった。

「例えば、西暦で言えば、古代西ローマ帝国滅亡後、7世紀以降の地中海沿岸地方の話」

「いわゆるサラセン人の海賊の話がある」


地中海の話と聞いて、サラの目が光ってきた。

また、ルシェール、ソフィーも遠くを見るような、目になっている。


光は、話を続けた。

「もともとは同じ神を信じていた相手であるけれど、サラセン人にとってキリスト教徒は、信仰を誤った人々」

「サラセン人の指導者は、そのキリスト教を捨て、サラセン人が信じるイスラムに改宗すれば良し、しなければ不貞の輩とみなし、滅ぼしてもいいと、命を下した」

「その結果として、地中海の北アフリカの沿岸から出港して、地中海の諸島、そしてヨーロッパ大陸の地中海沿岸地方を略奪、殺戮、拉致を業とする海賊が蔓延することになった」


この話で、サラ、ルシェール、ソフィーの顔が曇った。


春奈が光に質問をした。

「でもさ、光君、キリスト教徒側は、抵抗しなかったの?」

この質問には、日本人巫女、春麗、キャサリンも同じ思いの様子。


光は首を横に振った。

「うん、ほぼ、無抵抗だったらしい」

「何しろ、海賊は武器を持っているし、殺戮に長けた人間を集めている」

「そして、襲う対象は、海岸沿いの小さな村、それを集団で襲う」

「まず食料から財産まで全て奪われ、村は焼かれる」

「抵抗した人間は全て首を切られる」

「抵抗しなければ、奴隷市場、あるいは船の漕手奴隷」


今度は由香利が質問した。

「光君、ローマ法王とか、それぞれの国の王様だって武器を持っていたでしょ?」

「軍を出さなかったの?」

この質問にも、サラ、ルシェール、ソフィーの顔が曇った。


他の巫女は、合点がいかない状態。


光は、また難しい顔。

「それは難しかった」

「現代と違って、情報伝達のスピードは遅い」

「それに、一つの村が全滅すれば、他の村に伝達する人間がいなくなる」

「結果として、ローマ法王や国王に情報が上手に伝わらない」

「また、海賊そのもののが神出鬼没、あっという間にやってきて、あっと言う間にいなくなる」


光は、そこで間を置いた。


「肝心のローマ法王にしろ、国王にしろ、北方の蛮族との正面切っての戦いも多かったし、地中海沿岸の小さな村などには関心がなかったのだと思う」

「自分たち一族の中でも、覇権争いに終始した例もある」


今度は由紀が質問。

「そうなると、キリスト教徒側は、全くやられっぱなしだったの?」


光は、サラ、ルシェール、ソフィーの顔を見て、話しだした。

「歴史の現実としては、ほぼその状態が続いた」

「解決に近いのは、19世紀にフランスがアルジェリアを攻略するまで続いた」

「キリスト教徒側の動きは、例えば中東への十字軍などはあった」

「また、スペイン国王のカルロスが一時的に、北アフリカの海賊基地を攻略したことはあった、ただ一時的に過ぎなかったのが現実」

「また、キリスト教徒側から寄付金を集めて、拉致された人を多額な金で買い戻す専門の修道会組織もあったけれど、それも困難な仕事であったのだと思う」


サラ、ルシェール、ソフィーの顔は、深く沈んでいる。

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