第68話光の涙と抱きかかえるルシェール

ルシェールは、なかなか起きてこない光が不安になった。

「それにしても、いつもより回復が遅いなあ」

「確かに幻術系の力を使うと、身体と言うよりは、気力を使うんだけど」

「でも、そこまでだったのかな」

その程度がわからないので、ルシェールは、その顔を光に近くした。

そして声をかけてみた。

「ねえ、光君、すごく大変だったの?」


すると光の口が少し動いた。

「うん、阿修羅君に空中に浮かぶって言われて、そこで寒くて」

「それで、あの戦闘集団のリーダーの心を阿修羅君と一緒に見たの」

「断罪の呪法は、阿修羅君に任せたけれど」

光の口が、そこまで言ってゆがんだ。


ルシェールは、それがすごく気になった。

「空中に浮かんで寒いのは、わかるけれど」

「断罪の呪法については、光君としては、見ているだけの状態なの?」

「それで、疲れちゃったの?」

と、光に聞いてみた。


光の口が、また少しゆがんだ。

まぶたには、涙もあふれている。

「身体は、寒いだけで、我慢はできるの」

「でもね・・・」

光は泣き出してしまった。


ルシェールは、光を抱きかかえた。

そして

「光君、辛い場面を見たんだね、それでなんだね」

と言いながら背中をなでる。


光は、泣きながら、ポツリポツリ。

「だってさ、ナイフで人の首を、グサグサと・・・血が飛び散って・・・」

「親、兄弟、妻、小さな自分の子供まで、笑いながら切っていくんだ、あの男は・・・」

「それをあの男に見せて、阿修羅君は断罪するんだけど・・・」

「・・・辛いよ、そんなの・・・見ていられない」


ルシェールも泣き出してしまった。

「それは辛いよね、阿修羅には阿修羅の厳しい裁きがあるんだろうけれど・・・」

「それを見ている光君は・・・」

「光君は、本当にやさしい子だもの」

「それで、ショックだったんだ」


少し二人で泣いた後、ルシェールは、光の額に唇を少しつけた。

「でも、光君、ありがとう」


そして、光の目を見つめ

「正直に言ってくれて、本当にうれしい」

「これからも、黙っていないで、ちゃんと私には話して」


光は、本当に素直に頷いた。

光もルシェールの目を、しっかりと見つめている。


ルシェールは、そんな光を、もう一度しっかり抱きかかえた。

「今までだって、辛かったんでしょ?」

「それをずっと、我慢して黙っているから、ますます辛くなるの」


光も素直にルシェールに応えた。

「ドラキュラとかミノタウロスとか、悪神ならいいけれど、人の涙は辛い」

「特に小さな子どもの怖がる目とか、痛がる声と涙は辛い」

光の身体は、ブルブルと震えだした。


ルシェールは、抱きかかえているしかない状態。

そして光に

「そういうやさしい光君だから、阿修羅も信頼していると思うの」

「だから・・・」


ここまで言って、ルシェールは、抱きかかえる力を強くした。

ルシェール自身、言葉ではないと思った。

とにかく冷え切ってしまった光の身体と心を、温めようと思ったのである。

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