第38話光の珍しく神妙な顔

そんなたわいもないバトルは続かなかった。

やはり、本来の目的は、キャサリン・サラ・春麗の日用品の買い出し。

光も、ようやくそれを思い出し、駅北の高級スーパーに一行を案内する。


春奈が、光に声をかけた。

「ねえ、光君、あとでじっくりお話がある」

「で、それはともかく、食材を買っていくよ」

「人数も増えたんだから、荷物持ちぐらいはしなさい」

「いい?反論は許しません」

かなり厳し目の口調。

やはり、光の「無粋極まる膝枕発言」に、まだお怒りの様子。


光は、厳し目の春奈には、かなり弱い。

シュンとなってしまい、自分でカートを引いている。


春奈は、次に華奈に命令する。

「そこの華奈ちゃん、あなたが一番年齢が近いんだから、キャサリンたちの買い物のお手伝いをしなさい」

「若い若いって言うんだから、それぐらいはできるよね」

春奈の言葉は、華奈に対しても厳しい。

それは、華奈が失言した「大年増」の表現を、まだ根に持っている。


華奈も全く春奈に反発ができない。

「どうせ、この状況はソフィーが透視しているし、呪文間違いごとに、あの鬼母美紀に言われたら、お小遣いなくなるし、おやつもなくなる、とんでもないことだ」

と、素直にキャサリン、サラ、春麗を先導して、春奈と光から離れていく。


・・・ただ、春奈の計画は、「厳しいことを言って、光をシュンとさせ、独占する」こと。

それに、春奈にとって「ソフィーの膝と春奈の膝」の比較など、どうでもいいし、そもそも負けるなどとは思っていない。


「そんなね、光君なんて、誰の膝枕でも寝ちゃうに決まっている」

「それでなくても、ボンヤリ頭なんだから、膝の違いなんかわからないって」

「それにソフィーの太ももって、筋肉質でしょ?」

「私のほうが、やはり日本人だし、ふっくらしているもの」


春奈は、ここで決心した。

「よし!どうせ巫女連中は、隣のアパートだし」

「みんないなくなったら、光君に失言の罰として、強制膝枕だ」

「そして、どうせ、眠っちゃうから、あの広いベッドで一緒に寝ちゃおう」

「ふふ・・・そうなると、うれしいなあ」

「これで、一歩も二歩もリードさ・・・」


そんな春奈が、ついついニンマリとしていると、光が突然、口を開いた。

「ねえ、春奈さん」

けっこう、神妙な声になっている。


春奈は、「やばい・・・怒りすぎたかな」と思ったけれど、光の次の言葉を待った。


光は、またしても神妙な声。

「春奈さん、ごめんなさい、いろいろと迷惑かけて」

「人がたくさん増えちゃって、どうしたらいいのかわからない」

その顔も、沈んでいる。


春奈は、その沈んだ顔が気になった。

「仕方ないじゃない、集まっちゃったんだから」

「そういう事態なんだから、そんな暗い顔しないでよ」

と、光に諭すけれど、光の沈んだ顔は変わらない。


光は言葉を続けた。

「一番心配なのは、春奈さんに負担かなあって」

「本当に夏から、面倒を見てもらって」

「こんなに面倒みてもらっていて、また負担かけるのかなあって」

珍しくぼんやり顔でもなく、キョトン顔でもない、真顔になっている。


春奈は、光の真顔が気になった。

そして「春奈さんに負担」が本当に、グサッときてしまった。

「あのさ・・・光君・・・」

そこまで口に出して、しばらく言葉が出ない。


真顔の光が、春奈をじっと見つめている。

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