第二十一話 調査パート②
*
6月24日 06:50 〔霊安室〕
扉の横に掲げられた霊安室の表示。
談話室から飛び出してきたクビが逃げ込み、そして姿を消した場所だ。僕はマコとともに霊安室へと足を踏み入れる。
「テイシ、クビはいったいどこに消えちゃったんだろうね」
「うん。今回の事件で一番の謎だよな。しっかり調査しよう」
僕は牢屋と、そして今回見たクビの姿を思い浮かべる。
白い仮面に、赤いサンタコート。牢屋での襲撃の際には斧を持っていたクビの姿。仮面とコートによりほとんど全身が覆われており、体格もいまいちつかめない格好である。
「仮面はヨイトさんの鞄に入ってたんだよね」
「確かヨイトさん、劇団員だったんだっけ。鞄には化粧道具や血のり、おもちゃのナイフみたいな小道具に舞台の脚本も入っていたんだよな」
「うん。サンタコートは霊安室のものだよね。確か二着がなくなっていたんだっけ」
僕らは死体を保管する部屋の中まで入るとコートを確認する。そこには先ほど同様三着のコートがかかっていた。もとは五着かかっていたはずだから二着がこの場から持ち去られていることになる。
「一着は牢屋への襲撃の際に大広間に脱ぎ捨てられていたんだよね」
「もう一着はシラベさんの殺害の時に着て……どこに行ったんだろう」
仮面にコート。どこかに今も隠されているはずだ。重要なクビの手掛かりになるかもしれない。忘れず探しておこう。
【仮面】Update!
ヨイトの鞄に入っていた白い仮面。目の部分だけがくりぬかれており被れば顔を隠すことができる。
牢屋への襲撃の際、襲撃者が身に着けていた。
またシラベ殺害の際、白い仮面を付け談話室から立ち去る人物をテイシ、マコ、コロが確認している。
【サンタ服】Update!
霊安室にあった赤色のコート。霊安室には最初五着のコートが用意されていたが現在三着が霊安室に残されている。
牢屋への襲撃の際、襲撃者が身に着けており、一着が大広間に脱ぎ捨てられていた。
またシラベ殺害の際、白い仮面を付け談話室から立ち去る人物をテイシ、マコ、コロが確認している。
「なくなったと言えば霊安室の扉の鍵もどこに行っちゃったんだろうね」
「確か、事件当時鍵はシラベさんが持っていたんだよな。霊安室は普段鍵が閉まっているはずだから扉を開けるためにクビが奪った、と考えるのが自然だろうね。そして、クビとともに消えた」
「そもそもサンタコートを手に入れるためには霊安室の中に入らないといけないんだよね。クビはいつ霊安室に侵入したんだろう」
首をひねるマコに僕は頷く。現状霊安室の鍵を使い誰にも知られることなく霊安室に入ることのできた人物は限られる。霊安室の鍵。これも文字通り事件の真相のカギを握るアイテムなのだろう。
【霊安室の鍵】Update!
牢屋の鍵とともに管理される霊安室の扉の鍵。霊安室は基本的に施錠されており、鍵はマモルが預かっていた。牢屋への襲撃以前に、牢屋の鍵がマモル以外の管理下に置かれたのは死体搬入時と、テイシの刃物騒動の時のみである。また初日の午後2時までは霊安室に鍵はかかっていなかった。
シラベ殺害の時点では鍵をシラベが管理していた。
「あっ! テイシ。これシラベさんの」
「テープレコーダー。こんなところにあったのか」
マコが見つけたのはコートの掛かっているラックの下あたりに落ちていたテープレコーダーだ。そういえば死体を探っていたときに無くなっているのが分かったんだっけ。僕はテープレコーダーの再生ボタンを押す。
――ザザッ
『……シラベさん。話って何かしら』
『ははは。そう警戒なさらずに。何も、私はあなたを取って食おうというわけじゃないんですから。ただ、この監禁生活の中に、あなたという犯罪者の存在が紛れている。そこに首謀者の意図を感じ取りまして。ならば、あなたなら首謀者に心当たりがあるのではないか、そう見当をつけたわけです』
『……私が犯罪者、ですか。何か証拠でも?』
『あれ、証拠が必要ですか? あなた、麻薬の渡し手ですよね? 以前、ある男の信用調査の際にその男が麻薬を摂取していたんですよ。その時、男に麻薬を渡していたのがあなただった』
『……論より証拠。証拠がないのなら、この話は終わり……今日は疲れたからもう寝るわ。おやすみなさい』
――ブチッ
流れてきたのはウツミの秘密をシラベが聞き出す会談の様子。この後にもウツミ殺しの議論を録音したものが流れてきており、どうやらデータに破損は無いようだ。
「牢屋への襲撃の時、シラベさん達とここの調査に来たよね。その時に落としたのかな」
「どうだろう。でも、これも重要な手がかりだ。メモしておこう」
【ボイスレコーダー】Update!
シラベのテープレコーダー。霊安室で見つかる。
ウツミとの秘密会談、第一回議論内容が収録されている。
僕らは作動を止めた焼却炉へと近づく。ぬいぐるみの操作により焼却炉は停止しているが内部はどうやらまだ熱を持っているようであり中を確認するにはもう少し時間がかかりそうだ。
「テイシ。もしかして消えたクビがこの中で焼け死んでるなんてこと、無いよね?」
「ははは。さすがにそれは無いと思いたいけど」
焼却炉には【この焼却炉は生体が中に入っている場合稼働しません。一度稼働すると蓋にロックがかかり焼却作業が完了するまで中の物を出し入れできなくなります】という、ルールがある。このルールを鑑みればクビが生きたままこの中に入ったところで焼却炉は作動しないわけだが。
「でも、それって逆に言えばクビが焼却炉の中で死んじゃえば作動させることもできるってことだよね」
マコの言葉に僕は頷かざるを得ない。元からこの焼却炉は死体を燃やすためのものだ。焼却開始の操作をしてクビが焼却炉の中に入り、蓋を閉め、中で死んでしまえば問題なく焼却作業は開始されるだろう。
焼却炉。クビが消えたカラクリと何か関係があるのだろうか。
【焼却炉】New!
霊安室にある焼却炉。【この焼却炉は生体が中に入っている場合稼働しません。一度稼働すると蓋にロックがかかり焼却作業が完了するまで中の物を出し入れできなくなります】という注意書きがされている。
何かを燃やしていたようだが、冷却が終わるまで中は確認できないようだ。
「死体保管庫。この中には三人が眠っているんだよね」
マコが見つめるのは銀の箱。ウツミに、ヨイト。そして初日に死亡した男性の死体を先ほど、霊安室へと逃げ込んだクビを探す際に確認した。現状箱を使用していることを示す【LOCK】の赤い電子表示は三つ灯っておりこの後、きっとシラベのものもここに収められるのだろう。
死体保管庫の中は冷凍庫並みに冷やされており、とても人が隠れられる物ではない。そもそも箱の一つ一つを僕ら全員で確認したのだ。クビがこの中に逃げ込んでいたり、物を隠していたりする可能性はないだろう。
「そういえば。箱の中のヨイトさんの死体、何か違和感が無かった?」
「いや、どうだったかな」
「ポリスさん、ちょっといいですか!」
マコがモニターに向け叫ぶと、画面が明転する。
『おお。今回は本官、大忙しでありますな。して、マコさん。何か要件でありましたかな?』
「この箱のロック、解除していただけませんか?」
『了解であります! 今は議会中でありますから本官に言ってもらえればいつでも開くのでありますよ』
――ガチャッ
ぬいぐるみの声とともに死体保管庫からは鍵の開く音が聞こえてくる。
「ヨイトさんのは、これだよね」
少しトーンを落としながらマコが指さしたのは一つの箱。僕はその箱の蓋を慎重に開く。
「違和感……ヨイトの服装とシラベさんの服装が似てるとか?」
「違うよ! 確かに似てるけど。テイシ、よく見てみて。ヨイトさんの服、少し黒ずんでない?」
「うん? ああ。確かに言われてみればそうだな」
冷気とともに箱の中に眠るヨイトの姿が僕の目へと飛び込んでくる。確かに、かすかにではあるが服には黒い汚れが付着しているようだ。
「これ、血の跡の上に付いてるから新しい汚れだよね。どこで付いたんだろう」
黒い汚れ。何か重要な意味を持つのだろうか。
【死体保管庫】New!
霊安室の置かれている死体保管庫。死体を冷却するために中は冷やされたおり生身の人間では中にいることはできない。現在、初日犠牲者の男、ウツミ、ヨイトの死体が保管されている。
【ヨイトの死体】New!
霊安室の死体保管庫に保管されたヨイトの死体。首輪に仕込まれた刃により頭と体が切り離されている。
服には黒い汚れが付着していた。
「焼却炉はまだ、中を見るには時間がかかるな」
「コートは、シラベさん、ジンケンさんと調べた時と変化が無いね」
コートと言えば、そう言えばもう一か所色違いのコートが保管されている場所があったよな。
僕らは焼却炉の調査を後回しとし、霊安室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます