第30話 ユリウス・アーヴァインの秘密

父の顔が驚愕に切り替わった。

 そして自分自身が言ったことにも関わらず、もう一度自分が当時言われた言葉をしっかりと思いだしながら口に出したのだろう。

「アーシュ、残念ながらユリウスの魔剣は後世に残せないものだったそうだ。だから魔剣は1本たりとも残っていない」

 父はそう言った。

 アーシュというのはおそらく父の名だろう。

「お父様は先代からそうお聞きになったということでよろしいでしょうか?」

「そうだ、レーナ。私は確かに1本たりとも残ってはいないと聞いた」




 ユリウスの遺産の剣のコレクションは父の書斎、といっても、かなりの広さの部屋にすべて残されていた。

 鞘におさめられた形で、さまざまなサイズの剣や刀が並んでいる。

「これ全てが遺産……」

 10や20ではない、ぱっと見で数え切れないのだから。


 この中で、魔剣の所有者は2人。まぁ、私は一応持っているだけでは使えないけれど。

 父と私とフォルトの視線を受けながら、リオンが一番手前に置いてある立派な刀に手を伸ばした。そして、鞘から刀を取り出す。

 刀身は魔剣とは違い、色を帯びた輝きなどない。

「どこかでみたことがある材質だと思うのですが……すみません。思い出せません。とりあえず、この状態ではわかりませんが、表面に何か文字が彫られている可能性があります。レーナ様の推理通りですと……。フォルト様、申し訳ありませんが確認のための協力をお願いします」

 私とリオンは魔剣の主、そして公爵である私の父に頼むわけにもいかない、かといって他の者を呼んできて試せるような話ではない。

 フォルトが、左手を前に出しリオンが刀身でほんの少しだけフォルトの指を切る。

 刀身が一瞬黄色に光った、フォルトはほんのわずかな傷だと言うのに、怪訝な顔をした。


「信じられない。おとぎ話の続きを見ているかのようだ」

 父がそういいながら、別の剣を持ち、自らの指先を傷つけた。

 刀身はフォルトの時よりも強く黄色に輝き、ほんの一瞬だけけれど剣の表面に文字が見えた気がした。


 光が消えると文字も見えなくなったけれど。



「既に皆さんなんとなく、お気づきかもしれませんが。ここに残された遺産は、おそらくすべて…………」

 リオンの声は震えていた。それくらい衝撃的な出来事がこの一つの部屋に詰まっていたのだ。

 言葉には出さなかった。けれどこの部屋にいる私の父もフォルトもリオンもユリウス・アーヴァインの魔剣の秘密と魔子の討伐方法に気付きかけていた。



 沢山の領地を周り、魔子をどうやって討伐したのか。

 クライストの魔子は氷属性であること。

 なぜ魔子の倒しかたが後世に残されなかったのか。

 ユリウス特別な魔剣の秘密。

 そのすべての謎がピースを埋めるかのようにはまっていく。




 ユリウスがどうやって魔子を倒したのか。その方法は私が思っているので正解ならばジークを……いえ、クライスト領を救えるのかもしれない。

「お父様」

「レーナ、落ち着くんだ。答えを急ぐんじゃない。これはすぐに結論を出していいことではない。私は父としてではなく公爵として判断をしなければいけない。レーナがしようとしていることは、ユリウス・アーヴァインが意図的に伝承させなかったことなんだ」

 すぐそこに助ける手段があると言うのに父はそういう。

 助け方は、ユリウス・アーヴァインが故意に伝承させなかったことで間違いないだろう。理由もそれとなくだけどわかる。もし、この方法が使えるのならば……副産物で大変なことになる。


「私はユリウスが魔子から救った領がどこかは伝え聞いている。そちらに確認したいことがある。動くのはそれからだ」

「それでは、いつになるかわかりません」

 アンバー領までは馬で急いでかけても2日もかかったのだ、今から何か所もの領を回って話を聞くなどという時間はない。

 今回私を逃がすために、囮としてすでにシオンとジークというカードを切ってしまっている。


「大丈夫だ、レーナも一度、魔道具で学園から私に連絡してもらっただろう。離れているからと言って手紙しか連絡手段がないわけではない。今夜一晩時間がほしい。皆も馬でまっすぐ駆けてきて疲れているだろう。休めるときに休まないと、いざ動こうとしたときに動けなくなる。クリスティー、控えているか?」

 お父様の言うことはもっともだ、2日かけて馬で駆けてきた。私はしがみつきながら一瞬ウトウトしたときもあったけれど、フォルトもリオンも寝てない。

 今アドレナリンがでているから動けるだけで、途中で動けなくなったらヤバい。


「はい、控えております」

 クリスティーは呼ばれるとすぐに出てきた。

「レーナの部屋の準備はできているか?」

「もちろんでございます。旦那さま、お風呂の準備も、来客用の部屋も整えてございます。軽食の準備はまだ完了しておりませんが、お風呂から上がられる頃にはできます」

 本当にできるメイドだった。


「では、公爵として、レーナ、フォルト、リオンの3名に指示を出す。3名はすぐに風呂に入り、食事をとり、寝なさい。明日の朝メイドが起こすまでだ」

「「了解いたしました」」

 すぐに、リオンとフォルトはそう返事をした。

「了解いたしました」

 私も二人から遅れてそう返事をした。



 風呂に突っ込まれた。まさしく突っ込まれたのである。花弁が浮いているお風呂ではなかった。私の状況に応じて変えているようで、ほっとする香りがする。精油なのかな、油みたいなのが浮いていた。

 今日は私と一緒にメイドが入ってきて、磨かれた。あっちもこっちも美容によさそうな泥を刷り込まれ、もまれ流され急ピッチでろくに寝てない私の肌の遅れを取り戻すかのように……。

 上がればいつものように丁寧に髪が梳かされる。


 軽食というから、サンドイッチかな?と思ったら。一口サイズのコロッケのようなものが出される、中身がそれぞれ違う。コロッケだったり、ミートソースとチーズだったり、白身魚のフライのようなものだったり、ライスコロッケだったりとさまざま。

 ただ、皆一口で口に運べた。軽食という定義にはあっているのだろうか、手間かかってそうだし、カロリーとしては絶対軽くないけど。

 ただ、久々に食べるアンバーでのご飯もまた上手いのだ。料理長腕上げたかもしれない。

 お腹が膨れると、張りつめていたのが解けたのか、急に眠気が襲ってきた。

 たしかに、このまま向かっていたら途中で絶対眠くなっていたわ……。ベッドに倒れ込んで私は目を閉じ眠りについた。


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