第28話 ココどこよ……
目の前で男が一人のされて1分ほど経過した。
この事件にかかわっていた他の面々もようやく予定通りではない自分たちの置かれている状況を理解した。
自分たちが誘拐していた相手は公爵令嬢レーナ・アーヴァインではなく、自分たちよりあきらかに戦闘になれている化け物だということに気がついた。
手からボタボタと流れていた血もどんな手を使ったのかわからないが止まっていた。
わかることは、アリアンテの口ぶりからしてジーク・クラエスは本物。そして、ここには魔力が低く、魔法がろくに使えない人質として使えるお嬢様なんていないということ。
状況を理解するやいなや我先にと蜘蛛の子を蹴散らすかのように四方八方に逃げ出すがそこから先は一方的だった。
近くにいた奴は、あの馬車に乗っていた、たった1発で戦闘不能に追い込むような化け物が目で追うことも困難な速度で首筋に触れるだけで倒れていく。
離れていてラッキーだった、俺には馬があると思ったけれど、足に痛みが走ったと思えば、俺は落馬して地面に倒れていた。
ズキズキと痛みがする足をみれば1cmほどの太さの氷の針のようなものが3本ばかし突き刺さっていた。
「ジーク様どうも、ゲームオーバー」
公爵令嬢の誘拐なんてやっぱり無謀だったのだ……そう聞こえたのを最後に俺はブラックアウトした。
◆◇◆◇
全員を馬車の周辺に集めて転がす。
「これで全員かな?」
「アリアンテ、全員いるか確認を」
しかしアリアンテと呼ばれる女は茫然としたまま座り込み動こうとしない。
「アリアンテ君が引き起こしたことだ、最後くらいきちんと確認をしろ」
ジーク様が再びそう促すと、アリアンテと呼ばれる女は立ち上がり一人ずつ顔を確認し。
「これで全員にございます」
そう敬語でジーク様に報告をした。
「それにしても、どうすんのコレ。思いっきり山の中だし、どこにいるのかわかんないよ」
「アリアンテ抜きで、途中からレーナを誘拐して身代金をとるに切り替えたようだな。明かりも何もないし、我々には土地勘もない」
「それってどういうこと?」
「わかりやすく言うと。朝が来るまで動かないほうがいいだろうということだ……レーナより先にクライストに入っておきたかったんだが厳しいな」
手詰まりである。
「嘘でしょ!?」
「ここがどこかがわからないのだから、山を下るにしてもどっちに下ればいいのかわからないし動きようがない」
ごもっとも。
「最悪だ……朝までこの恰好とか死ねる」
でも、寒いからこの服は脱げない。いったい何時までもこの女物のふんわりと嗅いだ覚えのある香りの寝間着に包まれてればいいわけ!?
「なんか方法ないの?」
「ないわけではないけれど、やったことがないからできるかわからない」
「何すればいいの? 僕にもそれできることなの?」
もう、この際なんでも試そう。そして女装はもう勘弁である。
「魔法省の人間が空に魔力を打ち上げていただろ。あれはおそらく魔法省の人間への合図なのだと思う。ちょうど此処は山の山頂に近い、ここから同じように打ち上げ続ければ誰かしらかがくると思う。幸い私は氷で、君は聖だから山火事の心配もないからね」
アリアンテは地面にへたりこんだまま動かなかったけど、こっちはそれどころじゃない。
それから、僕とジーク様は二人で魔力をなんとか打ちあげられないか四苦八苦していた。
「最後魔力がはじけるところまで命令すればいいんだろうけれど、身体から離れたらできないよね?」
「魔力を圧縮してるんじゃない?」
議論しながら魔力を飛ばす。
何十回の試行錯誤の末に、ついに魔力は打ちあがったのだ。
ヒューーっと風を切る音がして、頭上高く出魔力がはじける。
結構魔力使うなこれ……とか思いながら二人で交互にぶっ放した。
結果、目視できる範囲にある魔法省の方々が大集合することになった。
◆◇◆◇
一方私レーナはといいますと。誘拐事件が起こる3時間ほど前にはすでに学園を後にしておりました。
リオンは教員用の馬を操り、私はというと、ジークの愛馬を借りて操るフォルトの背中にしがみついていた。
お尻が痛い、ヤバい、痛い、でもそんなこと言ってられないのである。
リオンと乗れればこの問題は解消するのだろうけれど、より体重が軽い二人で乗ったほうが馬の負担が軽減されることから、先を走るリオンをフォルトと一緒に馬に乗り追いかけるスタイルとなっていた。
闇の中手綱をさばき走るのはなかなかの技能がいるらしい。フォルトも、こんな真夜中にかけて走ることなどこれまでなく、先導するリオンがいてよかったとこぼしていた。
話したいことはいろいろあるけれど。舌をかむといけないからとしがみつくのに集中していた。
向かうはアンバー領、私の家である。
秘密の部屋の状況を見るに、めぼしい資料はおそらくジークは読みあさったのだろう。にも関わらず情報が出てこない。
ご先祖様ユリウス・アーヴァインのことを聞くならば、一番の適役は私の父ということになるのだから。クライスト領では表向きは魔子を倒せたことになっている、でも本当は倒せていないことを話すしかない。
そして、ユリウス・アーヴァインが所有していた七色の魔剣がもし誰かに継承されているとすれば、問題は解決するはずなのだ。
身代わりになったシオンはどうなっただろう。散々女装に対して文句を言っていて、二度としない感じを出していたのにお願いしてしまった。
断られたら最悪命令をと思っていたけれど、事情を知るとすんなりと受け入れてくれたけれど、後からの文句がすごいだろうな……。
でも、それらの文句は私ではなくて今回はジークが悪いのだからジークに言ってもらうことにしよう。
とにかく、シオンもジークも無事だろうか。
とにもかくにも、一度アンバーに戻らなければ始まらない。私では話にならないかもしれない。だからこそ、このために時期領主の可能性があるフォルトと魔剣を実際に所有して使いこなしているリオンを連れてきた。
私の安全な毎日のためにも、この問題はいずれ解決しなければいけなかったことなのだから。
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