第18話 嘘と偽りの平穏
「さて、皆が待っているから此処を出よう」
アピールが足りなかったか? と胸がたわわになどと言っている私の話をジークは一刀両断して、この部屋からの退出を促した。
「出て大丈夫なのか?」
そうフォルトが切りだすと、ジークはハッキリと
「もう問題ない」
まるで本当にことが片付いたことを知っているかのようにそう答えた。
あの女は知り合いで間違いがなくジークが話でもつけてきたのだろうか? 私に何をしてほしくて呼び出したのだろう。
でも、それをジークに聞いたけれど、この件は終わりとだけ言われてしまう。話す気がないみたい。
まだ本調子ではない身体で秘密の部屋を後にした。
支えてもらわなくても大丈夫、部屋までなんとか歩いて帰れそうだわ。
とりあえず、一晩寝て身体が本調子になったらジークを捕まえて私の安全のためにも問いたださなくてはいけない。
一度、彼は話さないと決めたら、きっと話してくれないと思うけれど……はい、そうですかって引き下がらないんだから。
いつもよりゆっくりと私は歩いていた。
「おいっ……」
聞き覚えはあるけれど、いつもよりも声のトーンがずいぶんと低い。
そして、その声の持ち主が誰に向かって声をかけたのかわかった私はゆっくりと振り向いた。
そこにはすごぶる機嫌の悪い顔でシオンが仁王立ちしていた。
「あら、シオン」
何かを言いかけていたのに、大きなため息を一つついてそれを飲みこんだようで。
「無事だったんだ」
小言の一つや二つ……いや、比率でいったら小言の8つくらい言われるかと身構えていた私はちょっと肩すかしをくらった。
それからすぐに、私のところにリオンもあらわれて。
「御無事でよかった。魔力が弱くなった後、突然魔力を一切感じなくなったのでどうなったのかと思いました」
どうやら魔力が急激になくなったこと、その後、私の魔力が感知されなくなったことで心配させてしまったようだ。
一切感じなかったということから、秘密の部屋にはいると契約をしていても感知できないのだろうか?
魔力を使いすぎた私は医務室で横になっていたことになっていた。またも根回しである。
気をつけるようにとメイドが私に小言を言う程度で終わった。
そして、不気味なことにあんなことがあったと言うのに、フォルトもジークも、あのシオンでさえその後口を噤んでしまい何があったのかはわからずじまいだった。
次の日念のため休むようにと学校を休む羽目になるし。
その後アンナやミリーに昨日の出来事について何かしらないか? と聞いてみたけれど。
二人とも曖昧に笑い、わからないと言うのだ。
絶対に何か隠しているけれど、二人にそれでもと食い下がってみたけれど。
「詳しいことは本当に何もわからないのです」とはぐらかされる始末だ。
ジークはアレから会いに行っても避けられているのか会えないし。
フォルトはフォルトで、思い返さないほうがいいと私を思いっきり蚊帳の外にしてくるし。
シオンならばと思ったのに……。
「せっかく平穏なのだから、これ以上自ら首をつっこみに行かないほうがいいんじゃないの?」
と正論をぶつけられる始末。
ならばリオンだ! と医務室に行ったけれど。
他の予定があるので、時間がとれないとやんわり拒絶である。
アレだけのことがなかったことになるのか?
皆が口を噤めば本当になかったことになるのか?
疑問は残るけれど、私の周りはあのことには触れられないけれど一見して偽りのような平穏が戻っていたのだ。
最初はそりゃ掘り起こして根掘り葉掘り! という気持ちだったけれど。
その気持ちは曖昧にかわされ、避けられ、たとえ偽りと嘘で塗りかためられていたとしても平穏な日々の中にほんのりと薄れていきそうになる。
紅茶の話、嫌いな先生、好きな先生の話、イケメンの話、おいしいケーキの話。
次の休日は何をしようだとか何気ない私が本来望んでいたはずの時間が流れていた。
そして、私がいよいよ誰にもあの日のことを聞かなくなったときに、すっかり忘れていた原稿用紙を返しに行くことになったのだ。
原稿用紙を返しに行って念願のニコル・マッカートに会えたけれど。あれほど会いたかったというのに、あの逃げろと言わんばかりに鐘の音が激しくなった出来事を再び鮮明に思い返す羽目になるだけだった。
しかし私は表面上はしゃいで見せた。
中身は14歳の女の子ではないのだ。
感情を誤魔化してはしゃぐ演技くらいできる。
私はあの出来事を当然簡単に忘れたりなどできない。
皆に聞いても答えないから、一時的に私から話題にださないだけ。
普通を装い、あの出来事をそしてジークが何を隠しているのか一人探ることにした。
ゲームでは解き明かされなかったジークルート。
不本意にも、それに私は自分の身を守るためにほんの少し自らかかわることにしたのだ。
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