第133話「優しい殺人鬼」

 虎塚邸へ行く事が明白な今、昨日のようにコッソリ後を付けるような真似はせず、刀真の仕事が終わるの待って、一緒に下校する桃李ゲーム部員たち。

 自宅を部活動の場にすることを仕方なく従うことにした刀真であったが、今日、雅が立てた作戦を聞いたことで、考えを改めていた。


 例え、東儀がインベイドの広告塔に成らなかったとしても、ラルフが予言したように、望まなくとも広告塔になってしまう。

 遅かれ早かれ、叔父さんの目にもまるってことだ。

 ならば、東儀の案に乗って、叔父さんの目を慣らす方がベストだと言える。


 事実、東儀雅は後に、最もインベイド計画に貢献した使徒と呼ばれるほど、ユーザーだけでなく、スポンサーも多く獲得することになる。

 中でも、ゲームとは遠い存在だと思われた、衣料品や化粧品などのブランドがこぞって「使って欲しい」と押し寄せ、そして、それを雅が身につけると注文が殺到するという現象を起こし、ハリウッドスターのラグナまでもが「俺が表に出る前に、宣伝は終わってた」と言わしめたほど、活躍するのである。


「なんだかさー、RPGでラスボスの城を目指す感じだね!」


「飛鳥ちゃん! お姉ちゃんのことも考えてあげて!」


「はーい……」


 昨日で慣れてしまったこともあって、特に不安を抱えない飛鳥は、調整が終わってるのかが気になり、ワクワクするばかりでいた。

 飛鳥以外はというと、やはり、昨日の今日ということもあって、まだまだ不安はぬぐえず『もしも、自分に来たら?』というシミュレーションを脳内で繰り返していた。

 だが、いざ着いてみると、彼女たちは予想外の光景を目にする。


 開かれた玄関の先に、正座をさせられ、お婆さんに説教を受けている虎塚帯牙こづかたいがの姿が在った。


「あの人が、米子さんですか?」


「そう、あの人が米子さんだ。ラルフから連絡を受けたって、俺に電話が来てな。詳しく説明しといた」


「じゃこれで、もう……」


「いや、まだ安心は出来ない。ウチへ通うつもりなら、叔父さんがお前に慣れるのを待つしかないだろうな」


 説教が終わるのを離れて待っていると、帯牙がコチラを見つける。


「あ! 雅ちゃん!」


 雅が居るのに気付いて、立ち上がって近づこうと試みるも、正座をしていた為、足がしびれて踏み出せず、その場に倒れた。

 だが、諦めの悪い帯牙は、倒れつつも雅の方に手を伸ばし、名を叫び続けている。


「みっともないですよ、帯牙さん!」


 そう言って帯牙の頭をはたくと、米子は振り返り、部員たちと挨拶を交わす。


「いらっしゃい。ささ、私たちのことは放っておいて、部活に専念なさってください」


「さ、今の内にこっちだ!」


 刀真に導かれるまま、次々と米子に挨拶して、ゲーム部員たちは玄関に入ることなく建物の右横へ。


「おや? 貴女は、行かなくていいの?」


「え、えっと……ちょ、ちょ、調整が……」


 人見知りが出てしまい言葉に詰まる飛鳥に、米子は気付く。


「もしかして、貴女がシリアルキラー?」


「は、はい」


「そう、貴女が……私ね、貴女と戦ったことあるのよ」


「えぇーッ!」


「オペレーターだけどね。この帯牙さんのオペレーターをしてたのよ」


「あの時の!」


「そう、ニューヨーク・セントラルパークでの戦いよ。タイガーチーム全員でやって、負けるとは思わなかったわ」


「楽しかったから、また対戦してください」


「飛鳥ちゃん、そう言えばさ……」


 何かを思い出した帯牙は、寝転んだ姿勢から、胡坐あぐに変える。

 立たないのは、足の痺れが未だ残っているからだ。


「なんで、あの時、俺を無視して、他のヤツに行ったの?」


 セントラルパークでのあの戦い、帯牙はずっと疑問に感じていた。


 俺が単独で飛鳥ちゃんに向かって、援護を二人残したあの状況で、俺を無視するのは、挟み撃ちになるから、どう考えても不利なんだ。


「無視?」


 飛鳥が思い出せないようなので、帯牙はポケットからスマートフォンを取り出し、その時の映像を見せた。


「これ、この時の」


「あぁ~。だって、タイガーさん、白だったんだもん」


「白?」


「レーダーの色!」


「あぁ、プロ以外の色ね。強い方を先に攻撃しに行ったってこと?」


「違うよ。色付きは、プロだから並ばなくても良いけど、白は落とされたら、また並び直しなんだよ。6時間も並んで、1分で終わったら、可哀想じゃん」


「それで、シリアルばかり狙ってたの?」


「うん。でも、やって来たらやっつけるよ」


「もし、俺があの時、色付きだったら?」


「先に倒してる」


「そ、そんなすぐにはやれないよ」


「あ、そんなことより! タイガーさん、調整終わった?」


「もちろん、出来たよ、飛鳥ちゃん」

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